「もうひとつのR伝説」マーチRはその存在自体が日産の奇跡としか言いようがない!

心臓部はツインチャージ仕様のMA09ERTを搭載

新車価格120~130万円はバーゲンプライスすぎた!

BNR32が世に出るちょうど1年前、モデル末期に差し掛かっていた初代K10マーチにスペシャルモデルが追加された。それがラリー専用車として登場したEK10マーチRだ。

注目は国産車初のツインチャージドエンジン、MA09ERT型の搭載に尽きる。ターボ係数1.7を掛けて1600cc未満に収まるようマーチターボに搭載されたMA10ET型をベースにボア径を2mm縮小(68.0→66.0φ)することで実現。4000rpmまでの低中回転域はON/OFFクラッチを持つASN-09A型ルーツ式スーパーチャージャーが、それ以上の回転域を日立製HT-10型ターボチャージャーが担当する。過給機は直列配置され、負圧制御のバイパスコントロールバルブで切り替えが行なわれた。

なお、このエンジンは、戦う舞台こそ違っても、グループA制覇を目指して開発されたRB26DETTと設計思想の根幹は変わらない。車名に冠された『R』は日産の本気の証なのだ。

しかも、EK10の生産台数はマーチRとスーパーターボを合わせて1万800台と言われる。結果論だが、たったそれだけのために専用エンジンを設計、開発し、新車価格120~130万円で販売してたのだから、今となっては信じられないようなバーゲンプライスだった。

今回の取材車両は、オーテックジャパンでラリー用パーツが架装されたタイプ1~3ではなく、標準車。エンジンオイルクーラーもエアコンも装着されず、競技に使われた形跡もない珍しい1台だ。オーナーの吾田(あづた)さんは、20年前にネットオークションで購入したという。

「実は、この前にも3年くらいRに乗っていたんですが、自分の不注意で廃車にしてしまいまして。数年ブランクがあった後、再び手に入れました。スーパーターボが10万円以下の時代に20万円で買ったので、高いなぁ…と思いましたけど、今にして思えばそれでも安いくらいですよね」と笑う。マーチR歴20数年とは筋金入りだ。

ダンパーはGABラリーを装着。「もうすっかり抜けてしまってるので、交換しなくちゃと思っているところです」とオーナーの吾田さん。

ステアリングがMOMOプロトティーポに交換され、メータークラスター左側にブースト計が追加される以外はノーマルのインパネ周り。シフトレバーはフロアからダイレクトに生え、センターコンソールも省略されるのがラリー専用車の証だ。

水平ゼロ指針のスピードメーターを中心に、左側に垂直ゼロ指針のタコメーター、右側に水温計と燃料計が配置される。

Rと、後に登場するスーパーターボ専用装備がダッシュボード上に装着された3連メーター。右からブースト計、電圧計、時計。ブースト計の左下にはスーパーチャージャー作動中に緑色に点灯するインジケーターも備わる。2.5キロのフルスケール後付けブースト計はレーステック製だ。

運転席はレカロLX-Lに交換。助手席はR純正シートが装着される。競技ではシート交換が前提だったため、純正は廉価グレードEと同じ、表皮素材に起毛トリコットを使ったタイプとされた。

エアロパーツなどを一切装着しないプレーンな外装。特別なモデルであることを示すのは、インタークーラー冷却用のボンネットダクトと、リヤゲートに貼られた“R”のステッカーだけだ。ホイールはスーパーR.A.P.の13インチを履く。

全長3.8m弱、全幅1.6m弱のボディは絶対的にコンパクト。エッジが立った中期型ボディのおかげで見切りもいい。1~4速を近付け、5速を巡航ギヤと割り切ったクロスミッションは街中や峠で抜群の加速を見せ、シフトアップ後の繋がりも文句なし。同じエンジンを載せながら、標準的なギヤ比とされたスーパーターボとは走りがまるで違うのだ。久しぶりに試乗したが、こんなに痛快なリッターカーは他にない!!

「気が付いたらズルズルと乗り続けてしまった感じですけど、マーチRから乗り替えたいと思ったクルマがなかったのも事実です」と吾田さん。

バブル景気によって生み出された日産の奇跡は、30年が経った今でもオンリーワンの存在であり続けているのだ。

■SPECIFICATIONS
車両型式:EK10
全長×全幅×全高:3760×1560×1405mm
ホイールベース:2300mm
トレッド(F/R):1350/1335mm
車両重量:740kg
エンジン型式:MA09ERT
エンジン形式:直4SOHC+スーパーチャージャー+ターボ
ボア×ストローク: 66.0φ×68.0mm
排気量:930cc 圧縮比:7.7:1
最高出力:110ps/6400rpm
最大トルク:13.3kgm/4800rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(F/R):ストラット/トーションビーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤサイズ:FR155SR13

Rとスーパーターボ、違いはどこにある?

まず、大前提としてボディが違う。Rは中期型だが、スーパーターボは後期型となる。また、Rはドアミラーがボディ同色ではなく、ミラー面の角度調整も手動式。ちなみに、Rにもスーパーターボにも電動格納機能は付かない。ラジオがオプション設定すらされなかったRは本来、アンテナも未装着だけど、取材車両には追加されていた。さらに、リヤクォーターウインドウも固定式となるのがスーパーターボとの違いだ。

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