「実はセダンよりこっちの方が良いんじゃ!?」イギリス生まれの5ドアハッチバックモデル“プリメーラ2.0eGT”の存在感

使い勝手が良いのに、なぜか日本ではウケない・・・

マニアが悦ぶポイント多数。細かいところが結構違う!

初代P10プリメーラの発売は1990年2月。エンジンは、SR20DEとSR18Di(1992年のマイチェンでSR18DEに変更)が用意され、それぞれに5速MTまたは4速ATの組み合わせだ。当初はFFのみの設定だったが、1990年10月には、SR20DEにアテーサ4WDを搭載したT4なるグレードが追加された。

一方、5ドアハッチバックモデルは1990年秋にイギリスのサンダーランド工場で生産スタート。ヨーロッパでのグレード展開は、上から2.0eGT、SLX、LX、Lとなっており、1991年10月から日本にも導入、販売されたのは最上級グレードの2.0eGTになる。

エンジンはSR20DEだが、P10/11プリメーラに搭載されたのはハイオクガソリン仕様で150ps。U12~14ブルーバードに搭載されたレギュラーガソリン仕様に対して5~10psのパワーアップを果たしている。

また、ミッションは4速ATのみの設定。これで5速MTもラインナップされていたら、マニア度はさらに3割増しだったと思うが、日本では売れない5ドアハッチバック、手広く展開しなかったことは日産の賢明な判断と言える。

本体に貼られたステッカーから、ディストリビューターはイギリスの電装メーカー“ルーカス”製であることが判明。さらに、ボンネット裏のコーションステッカーには、“英国日産自動車製造会社”との表記も確認できる。ちなみに、ラジエターはカルソニック製だ。

なお、今回あれこれ調べていて発覚した驚愕の事実。それはモデル末期の1995年1月、ヨーロッパ仕様で上から2番目のグレードにあたるSLXが、日本でも発売されていたということだ。

2.0eGTが思うように売れず、ならばと装備を簡略化して車両価格を20万円以上安く設定したモデルの追加投入で巻き返しを図ったのだろうが、結果は討ち死に…。援軍として、まるで機能しなかったのが悲しすぎる。そもそも、SLXなどというグレードが日本でも販売されていたことを知っている人は、一体どれくらいいるのだろうか? この辺りは爆発的ヒット作、初代P10プリメーラの“知られざる闇の部分”と言っていいだろう。

細部をチェックしていく。リヤゲートは開口部が大きく、バンパー直上から開くので荷物の積み降ろしはしやすい。容量も十分で、後席のアレンジと合わせて積載性能は国内セダンの比ではない。また、フロア下にはテンパータイヤを確認。取り出す際にラゲッジフロアボードを吊っておくヒモ&フックが備わるなど、細かいとこまで考えられている。

ダッシュボードのデザインや各種スイッチ類の配置は、基本的に国内セダンと同じ。メーターはVDO製で、スピードメーターの左下に赤い文字で“GT”のロゴが入り、タコメーターの下にデジタル式時計が収まり、AT車だと本来シフトインジケーターが設けられるところに油圧計が装着される。

さらに、国内セダンとはタコメーター内の“×1000r/min”のロゴの書体や位置が変更されている上、各種警告灯の配列が異なるなど、重箱の隅を突くように見ていくとかなり面白い。

P10プリメーラシリーズ全体を通して、前期型はパワーウインドウの集中スイッチがサイドブレーキ脇に設けられるなど、この辺りも欧州車的。サイドブレーキの付け根が向かい合ったハブラシのようになっているのは2.0eGTのみだ。

形状こそ国内セダンのスポーティグレード、TeやTsに採用されるものと変わらないが、表皮の素材やデザインが異なるシート。前席のリクライニングはダイヤルによる無段階調整式で、運転席には前後別々に高さを調整できるリフター機能も付く。

後席は高さ調整式ヘッドレストを持つのがセダンとの違い。背もたれは60:40分割可倒式とされ、ダブルフォールディングによるラゲッジスペースの拡大が可能だ。

続いて外装を見ていく。まず、左右フロントフェンダーには“United kingdom”のステッカーが貼られる。“K”がイギリス国旗っぽくデザインされているのがお洒落だ。

前期型の純正14インチホイールはベルギーのレメルツ製。1994年のマイチェンでコストダウンによる車両価格の見直しが図られ、フォグランプなどとともに標準装備品から省かれることになった。装着タイヤは標準よりもワンサイズ細い185/65R14のエコピアPZ-X。

運転席に座ってドラポジを合わせる。前後スライドはイイとして、ダイヤルをクリクリ回さなければならない背もたれの角度調整がもどかしい。

SR20DEは、シルビア/180SXに搭載されていたこともあってスポーツユニットのイメージが強いが、NAでATが組み合わされていると、「実用エンジンとしても悪くない」という印象が先に立つ。別段パンチがあるわけでも高回転まで回るわけでもないが、低中回転域から必要にして十分なトルクを稼いでくれている。

それより驚いたのが、足回りを含めたシャシーの高い完成度。まずボディ剛性がしっかりしていて…というか、経年劣化が感じられず、ハンドリングやタイヤの接地感がやたらとダイレクトなのだ。ダンパーが少々抜け気味だったのでバランス的にはちょうど良かったと思うが、新車時(特に初期モデル)は、「サスセッティングが硬すぎて乗り心地が悪い」などのネガティブな評価が多かったという話にも頷ける。

とにかく完全にシャシーが勝っていて、登場から20年以上を経た今でも「凄い!」と思えるのだから、新車当時はそれは革命的なクルマだったに違いない。日産がどれだけ気合を入れて901活動に取り組んでいたか、それがクルマ越しに伝わってくるというものだ。

80年代前半、日産がVWサンタナのノックダウン生産で学んだドイツ車的なクルマ作りのノウハウが、P10プリメーラの開発に活かされたという話は、恐らく本当だ。それは、乗れば分かる。ただひとつ、大前提として、VWサンタナに乗ったことがあるマニアな人でなければ体感できないというところが惜しすぎる…。

■SPECIFICATIONS
車両型式:FHP10
全長×全幅×全高:4400×1695×1385mm
ホイールベース:2550mm
トレッド(F/R):1470/1460mm
車両重量:1290kg
エンジン型式:SR20DE
エンジン形式:直4DOHC
ボア×ストローク:φ86.0×86.0mm
排気量:1998cc 圧縮比:10.0:1
最高出力:150ps/6400rpm
最大トルク:19.0kgm/4800rpm
トランスミッション:4速AT
サスペンション形式(F/R):マルチリンク/パラレルリンクストラット
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:FR195/60R14

PHOTO &TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)

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