Bentley Bentayga EWB Mulliner
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Mercedes-Maybach GLS 600
いまやクルマの基本はSUV

SUVというカテゴリーが認知され始めてから、かれこれ30年近い時が経つだろうか。それは一過性のものではなく、サイズもキャラクターも価格も……と、レンジを著しく広げながら、現代の車型の中核的位置づけに到達したといっていいだろう。
一方で、人と荷物を効率的に乗せるベストパッケージとされてきたセダンやステーションワゴンはみるみるシェアを侵食され、象徴的なごく一部のモデルを除いて姿を消しつつある。たとえば中国に次ぐ自動車市場であるアメリカは、タクシーやハイヤー、パトカーといったインフラ的役割もほぼSUVに置き換わった。それは空港に降り立った瞬間からわかる変化だ。
情緒的な話をすれば、セダンこそクルマの基本形ではないかと思われる方は少なからずいらっしゃるのではないかと思う。かくいう自分も、礼節や格式みたいなところを担うのはやっぱりセダンでなければと今だ感じてもいる。でも、世の大勢が求めているのが違う側だということは販売状況からも理解するところだ。


人間工学的な視点からみても、SUVに乗せられるというのは理にかなっている。室内高が高く間口も天地に高いため、乗り降りの際にも屈曲姿勢を強いられることがない。もちろん地上高的にはミニバンのようなウォークインは望めないが、アシストステップや乗降向けの車高モードなどを用いるモデルも多くある。スライドドアでは確保するのが難しいサイドウインドウの開閉量もサッシュの配置次第では十分採れるだろう。視点の高さが車窓の景色をより拔けよくみせてもくれる……など、セダン的な車型よりは利が多い。
SUVがショーファードリブンとしても用いられるという事例が一気に増えたアメリカでは、選ばれる背景にラダーフレームシャシーならではの堅牢さや高い耐久性に加えて、襲撃からの安全に繋がる屈強さが挙げられる。一方で、乗り心地や居住性的には我慢を強いられることもあったが、近年はサス形式の見直しやフレーム形状の工夫もあって、エスカレードのようなモデルでは乗せられても嬉しい仕上がりとなった。
さりとて、乗用車出自のプラットフォームを持つSUVには空間自由度や動的質感においてアドバンテージがあるのは確かだ。そして、ハイブランドではカスタマーの求めに応じて、後席での快適性を最大限に引き上げたグレードを用意している。
後席はともに2人だけの贅沢な空間

Sクラスをベースとした最上のビジネス・フォーマルという新たなニーズを開拓し、年間2万台超のブランドへと成長したメルセデス・マイバッハ。その伸長を牽引したのはGLS600のヒットだ。3列シート・7人乗りの広大な空間を後席主体で用いるのみならず、オプションの「ファーストクラスパッケージ」を選択すればそこは完全独立の2座としてレイアウトされる。
パーティションを兼ねる中央部のコンパートメントは、空調やインフォテインメント、アンビエントエフェクトなどをワイヤレスで操作できるタブレット、2脚のシャンパングラスを固定できるクーラーなど、エンタテインメント的な演出にも抜かりはない。加えて後席は2列化で得られた長いレッグスペースを活かし、深いリクライニング角とオットマンを展開すれば、ラグジュアリーミニバンに準ずるようなリラックスポジションを採ることもできる。

その点においてはベンテイガも同じだが、こちらはホイールベースを伸ばすことで後席側にゆとりあるディスタンスをもたらしている。ショーファードリブンに用いられる伝統的な手法が車名にも反映されての「エクステンデッド・ホイールベース」というわけだ。その伸びしろは標準車比で180mmプラスの3175mm。それが全て後席空間に充てがわれるのだから狭かろうはずがない。
トップグレードのマリナーでは標準装備となる「エアラインシート・スペシフィケーション」は、乗員の姿勢や体温などをモニタリングしており、そのリラックス度を高めるように着座部の圧力分散や姿勢調整、シートベンチレーションも含めた空調などをクルマの側に任せて随時コントロールしてもらうことが出来る。それでも足元はフットレストでリラックスポジションを保持させる辺りが、スポーティネスをブランドの骨格とするベントレーらしい。




両車の後席に乗せられての印象もまた、ブランドのキャラクターを忠実に反映している。GLSはナッパレザーの鞣しからしてしっとりと柔らかい。フォームもベースモデルとははっきりと一線を画しており、ふかっと沈み込むというよりは、じゅわっと染み込むような一体感で体を包み込む。
基本ポジションでは窓を開ければ見送る方々との挨拶もスムーズに行えるし、やたら剛性の高そうな折り畳みテーブルを展開すればラップトップもしっかり置ける、そういうビジネスリムジン的な使いでにも抜かりない一方で、緩いポジションを採ればピラーが顔を遮ってくれるおかげですぐに眠りに落ちそうな寛ぎがやってくる辺りは、マイバッハSクラスにも共通する。
前後席を問わず、あらゆる「上質」を満たす

GLSは走りの味付けも基本的にはアタリの優しさを優先的にチューニングされているように伺える。特にドライブセレクトをマイバッハモードにすれば、後席を最優先にした挙動制御となり、押し出し過多なタイヤサイズにも関わらず、常速域では路面の凹凸もふんわりといなす浮遊感が印象的だ。
ドライブセレクトの役割ははっきり振り分けられていて、スポーツに設定すれば山道をはじめとしたあらかたの場面もそつなくドライブ出来る。しかもそれはメルセデス出自らしい安心感に満ちたフラットなライドフィールだ。が、クルマ全体の調子がそういう場面で飛ばすに至らせない、むしろまったりと走っているのが一番気持ちがいいという、ドライバーとのそういう阿吽的な雰囲気がGLSにはある。

同じSUVとはいえ、ベンテイガの室内空間はGLSほどの開放感はない。それは多分に室内高と窓繰りによるところが大きく、クルマの狙いどころを鑑みれば納得できるところだ。そのぶん……というわけではないが、後席に陣取ってみると内装の装備ではない設えのところで、マリナーの冠のプライドを感じることになる。革にも杢にもメタルにも代替材はないというのはベントレーの売り文句だが、ダッシュボードのみならず天井部に張り込まれた革トリムのステッチの整然ぶりをみると、始めからそれを想定して設計されたクルマの凄みを感じることになる。




ちなみにマリナーのシート表皮はオリーブオイル製造時の副産物を用いて有害物質を大幅に抑えるなど環境にも配慮した鞣しを用いているが、その肌触りはGLS同様、しなやかな触感の中に適度な張りを感じさせるもので、この辺りは造り手の狙いやブランドの伝統を感じさせるところだ。体の保持感もGLSよりはコシがある。そこにデジタルテクノロジーも活用したダイヤモンドモチーフを織り込むなど、十八番の工芸的な世界観をしっかり押し出している。エンタテインメントは誂えの側に依っているというわけだ。
その施しの重量やホイールベースの伸長分も含めて不利になるドライバビリティの側を、ベンテイガはあらゆる手段で繕っている。アクティブリヤステアもその一環で、旋回性の損失は完全にとは言わずとも大きく補完されている。

ショーファードリブンも意識した銘柄であれど、ドライバーズカーとしての動的質感も切り捨てないのがベントレーの矜持である。その折衷としてすこぶる有効なのがドライブセレクトのひとつであるBモードだ。言わずもがな、ベントレーのBを指すそれは、あらゆる走りのシチュエーションに対し柔軟に応答する。よほど極端な状況でもない限り、様々な選択肢を差し置いてBモードこそが最適……と、そのくらい粗相のない緻密なキャリブレーションが実現しているところに感心させられる。
自らステアリングを握っても、然るべき場面でパフォーマンスを求める向きにも応えてくれる、この両車は究極の後席という本来の目的を越えて、クルマにまつわる上質のあらかたを満たす選択肢としても注目されていい存在なのかもしれない。

REPORT/渡辺敏史(Toshifumi WATANABE)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2025年12月号
SPECIFICATIONS
メルセデス・マイバッハGLS600
ボディサイズ:全長5210 全幅2030 全高1840mm
ホイールベース:3135mm
車両重量:2810kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:410kW(557PS)/6000-6500rpm
最大トルク:770Nm(78.6kgm)/2500-4500rpm
モーター最高出力:16kW(22PS)/900rpm
モーター最大トルク:250Nm(25.5kgm)/500rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前285/40R23 後325/35R23
最高速度:250km/h
0-100km/h加速:4.2秒
車両本体価格:3220万円
ベントレー・ベンテイガEWBマリナー
ボディサイズ:全長5305 全幅1998 全高1739mm
ホイールベース:3175mm
車両重量:2520kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3996cc
最高出力:404kW(550PS)/6000rpm
最大トルク:770Nm(78.6kgm)/2000-4500rpm
モーター最高出力:──
モーター最大トルク:──
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後285/40ZR22
最高速度:290km/h
0-100km/h加速:4.6秒
車両本体価格:4038万円
【問い合わせ】
ベントレーコール
TEL 0120-97-7797
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メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
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