最高出力と最大トルクの表記は?
近年、スペック表上で、最高出力は「kW[PS]/rpm」、最大トルクは「N・m[kgf・m]/rpm」といった単位で表記されている。
たとえば、ホンダの「CB1000F/SE」では、以下のように表記されている。
【CB1000F/SEの最高出力と最大トルク表記】
最高出力91kW[124PS]/9,000rpm
最大トルク103N・m[10.5kgf-m]/8,000rpm

近年、世界的に、最高出力はkW、最大トルクはN・mといったいずれも国際規格で表されるようになった。だが、ちょっと前まで、日本では、最高出力はPS、最大トルクはkgf-mで表記していた。筆者のような昔からのバイク乗りなどには、そちらの方が慣れていて、イメージもしやすい。そのため、日本メーカーでは、現在、両方の数値をスペック表上に表記していることが一般的だ。
なお、これらは以下のように換算できるので念のため。
出力:1PS=0.7355kW
トルク:1kgf・m=9.80665N・m
また、各数値の最後にあるrpmはエンジン回転数のことで、それぞれの数値が何回転で発生するのかを表している。
●なぜ両方を表記するのか?
では、なぜ、これら2つの数値をスペック表に表示するのか。それは、出力とトルクが密接な関係にあるからだ。
出力とトルクの関係は、自転車を例にすると分かりやすい。自転車の場合、ペダルを踏み込む力がトルク。踏み込む力、つまりトルクが大きいほど自転車はより加速する。それと同じで、バイクの場合も、トルクは加速性能と大きな関係がある。

一方、出力は、トルクにペダルの回転数をかけたものだ。「出力=トルク×回転数」といった数式で表すことができる。そして、出力が大きいほどスピードを出しやすくなるため、速度と大きな関係を持つ指標が出力ということになる。

発生回転数も重要なファクター
こうした関係性から、ざっくりといえば、それぞれ以下のような感じの意味合いになるといえるだろう。
「最高出力はバイクがスピードを出すための力(馬力)の最高値」
「最大トルクは車体を加速させる力の最大値」
ただし、いずれも、そうした力が常に出ている訳ではなく、前述した「rpm=発生回転数」のときに最も大きな数値が出ることになる。しかも、たとえば、同じ排気量の同系エンジンを搭載していたとしても、バイクの特性などにより、あえて数値を変える場合もある。
たとえば、ホンダの「レブル250」シリーズと「CL250」シリーズ。どちらも249cc・水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒の同系エンジンを搭載するが、最高出力や最大トルクは以下のように違う。
【レブル250】
最高出力19kW[26PS]/9,500rpm
最大トルク22N・m[2.2kgf-m]/6,500rpm
【CL250】
最高出力18kW[24PS]/8,500rpm
最大トルク23N・m[2.3kgf-m]/6,250rpm


クルーザータイプのレブル250は、最高出力がやや高く、逆に最大トルクは少しだけ低い。また、スクランブラータイプのCL250は、最高出力と最大トルクの発生回転数はどちらも低い設定だ。
おそらく、レブル250の方は、高速道路も含めた舗装路を使ったツーリングで、より快適に走れることを前提としたセッティングなのだろう。一方、CL250は、より低い回転数で出力やトルクを出すことで、未舗装路などでも力強い加速を味わえるようにセットアップしていることがうかがえる。
このように、これらの数値を見ることで、同系エンジンでも、バイクの種類や特性に合わせて、セッティングを変えていることが分かる。これにより、各モデルの乗り味に、より個性を生み出す工夫を施しているのだ。
EVバイクはより低い回転数で最大値を発生
ちなみに100%電気で走るEVバイクの場合、走行用モーターは、回転を始めた直後の超低回転で最高出力や最大トルクを出すことが特徴だ。たとえば、同じ原付二種に相当するホンダ車、EVスクーターの「CUV e:」と、124cc・水冷単気筒エンジン搭載のスクーター「PCX」では、それぞれ以下のようなスペックになる。
【CUV e:】
最高出力6.0kW[8.2PS]/3,500rpm
最大トルク22N・m[2.2kgf-m]/2,300rpm
【PCX】
最高出力9.2kW[12.5PS]/8,750rpm
最大トルク12N・m[1.2kgf-m]/6,500rpm


EVスクーターのCUV e:は、PCXと比べてとくに最大トルクが高い。しかも、より低い回転数で最大値を発生することが分かるだろう。これにより、EVバイクの方が、発進からの加速力がより高いことが分かる。
ちなみに、EVバイクの走行用モーターは、高回転域もかなり伸びる傾向だ。鋭い発進加速だけでなく、その後の速度の伸びも良いことも、モーターで走るバイクの特性といえる。
ただし、現状では、一充電走行距離(一回の満充電で走行できる距離)が短いのが難点。CUV e:の場合で、57km(60km/h定地走行テスト値・一名乗車時)なので、長距離を走るというより、市街地などの近距離移動向きといった感じにならざるを得ない。
ともあれ、最高出力や最大トルクは、そのバイクがどんな走りやエンジンフィールを体感できるのかを知るための指標となる数値だ。例えば、愛車を新しく購入する際などには、ぜひ参考にしてみて欲しいスペックのひとつだといえるだろう。
