国産モデルにはどんなバイクがある?
アドベンチャーバイクには、前述の通り、さまざまな排気量のモデルが各メーカーから発売されていて、今や百花繚乱。その人気の高さがうかがえるが、実際にどんなモデルがあるのか、まずは国内モデルの例を挙げてみよう。
【ホンダ】
・CRF1100Lアフリカツイン・シリーズ(1082cc・直列2気筒)
・XL750トランザルプ(754cc・直列2気筒)
・CRF250ラリー(249cc・単気筒)
・CRF250L(249cc・単気筒)




【ヤマハ】
・テネレ700(688cc・直列2気筒)

【スズキ】
・Vストローム1050/1050DE(1036cc・V型2気筒)
・Vストローム800/800DE(775cc・2気筒)
・Vストローム650/650XT(645cc・V型2気筒)
・Vストローム250/250SX(248cc・2気筒)








【カワサキ】
・ヴェルシス1100SE(1098cc・並列4気筒)
・ヴェルシス650(649cc・並列4気筒)


これらは、各メーカーが公式ホームページなどで「アドベンチャー」に分類しているモデルたちだ。
ちなみに、排気量を1098ccに拡大し、最高出力を135PSにアップさせた2025年最新モデルのヴェルシス1100SE。そして、649cc・並列2気筒を搭載するヴェルシス650の両モデルについて、カワサキは「アドベンチャー/ツーリング」というジャンルに入れているので上のリストに入れている。また、Vストローム250もスズキはアドベンチャーのジャンルに入れているのだが、これらは、後述する理由により、純粋なアドベンチャーバイクとは言えないかもしれない。メーカーにより分類の仕方も違うため一概にはいえないが、詳細については後ほど説明する。
ともあれ、ご覧の通り、1000ccから250ccまで、さまざまな排気量のモデルがあることが分かるだろう。また、一部を除き、ほとんどが2気筒か単気筒のエンジンを搭載。いずれも、低速からトルクフルなパワー特性を持つことと、市街地から高速道路まで、幅広いシーンで扱いやすい乗り味を持つことが魅力だといえる。
オンロードとオフロードのどっちも楽しい
これらモデルの共通点は、オフロードバイクのテイストを受け継ぎつつも、長距離ツーリングでも快適かつ利便性が高い装備を持つことだ。高速道路などの高速クルーズで高い安定性を持ちながらも、荒れた悪路でも高い走破性を実現し、オンロードとオフロードの両方をこなせる走りが魅力といえる。
スタイル的な近年のトレンドは、ウインドプロテクション(防風性能)性能が高いフロントスクリーンの装備や、バーハンドルなどによるアップライトで長時間の走りでも疲れにくいポジションなどが挙げられる。
また、大容量の燃料タンクなどで、長い航続距離を実現するマシンも多い傾向だ。加えて、サスペンションには、オフロード走行でも高い安定性を実現するロングストロークタイプを採用する機種も多い。なかには、ハードな悪路走行を想定し、エンジン下部へスキッドプレートなどを備え、飛び石などがヒットした際のダメージ軽減を図ったモデルなどもある。
さらに、荷物が載せやすく安定するフラットで広い形状のリアシートも採用。リアキャリアを標準装備するモデルもあるほか、オプションに専用のパニアケースなどを用意するなどで、長旅やアウトドアのキャンプなどにも対応する積載性の高さも兼ね備えている。
ほかにも、タイヤの空転などを抑えるトラクションコントロールや、安定した制動性能を発揮するABSなど、最新の電子制御システムを採用するモデルも多い。とくに、大排気量のプレミアムなモデルでは、オンロードやオフロード、荷物積載時のクルージングなど、走行状況に応じて最適な特性が選べるライディングモードを搭載。より快適で、安定感の高い走りを堪能できる仕様も用意されている。

発祥は世界一過酷なバイク競技
では、なぜアドベンチャーバイクは、オンロードとオフロード両方の走行を考慮した作り込みになっているのだろうか? それは、アドベンチャーバイクのルーツに関連がある。
国産車でアドベンチャーバイクの代表格といえば、ホンダのCRF1000Lアフリカツイン・シリーズや、ヤマハのテネレ700あたりだろう。いずれも、1980年代から続くロングセラーモデルで、このジャンルを確立した立役者だといえる。

各モデルの初代は、ヤマハのXT600テネレが1983年、ホンダのアフリカツインが1988年に発売。テネレが595cc・単気筒、アフリカツインが647cc・V型2気筒と、いずれもエンジンには、比較的大きめの排気量を採用。悪路をものともしないトルクフルな走りなどが魅力だった。

また、両モデルは、当時大きな人気を博していた「パリ-ダカールラリー(現在のダカールラリー)」に参戦し、大活躍したホンダやヤマハのワークスマシンをベースとするレプリカバイクとして登場したことも共通点だ。
1978年から開催されているこの競技は、砂漠や泥濘地、山岳地帯など、あらゆる路面をバイクやクルマで走破することで、「世界一過酷なイベント」として知られている。毎回、年末から年始にかけて2週間以上行われ、猛暑の中で1日の走行距離が800kmを超えるときもあるほどハード。ライダーやドライバーの体力はもちろん、車両にはさまざまな悪路に対応する幅広い走破性、長距離走行でも壊れない高い耐久性などが求められている。
そして、そうした過酷な競技で培った技術を市販車に投入したのが、アフリカツインやテネレなのだ。これらモデルがアドベンチャー(冒険)バイクと呼ばれるのは、そうした「世界一過酷なラリー」という、ある意味「冒険」ともいえる競技で鍛えられたワークスマシンたちの技術などがバックグラウンドにあるため。オン・オフ問わない高い走破性や長距離ツーリング時の安定性や利便性など、先述したアドベンチャーバイクが持つ特徴の礎(いしずえ)となっているのだ。
ちなみに、パリ-ダカールラリーは、かつて、フランスのパリからアフリカ大陸へ渡り、サハラ砂漠を通過、セネガルの⾸都ダカールをゴールするルートをとっていた。その長くて険しいルートを称し、通称「パリダカ」と呼ばれ、世界中で広く親しまれた。
現在は、開催地域の政情不安により、中東・サウジアラビアでの開催となったが、大会名には「ダカール」の名前が引き継がれ、いまだに世界中で多くのファンを魅了しているモータースポーツのひとつとなっている。

スポーツツアラーやクロスオーバーとの違い
このように、元々は、ラリー参戦マシンをベースに、公道で走行できるように市販化したのがアドベンチャーバイクの始まりだといえる。
一方で、気になるのが、スポーツツアラーやクロスオーバーなど、スタイルは似ているのに、各メーカーでは別ジャンルに分類してるモデルたちとの違いだ。
たとえば、スポーツツアラーやクロスオーバーには、以下のようなバイクが該当する。
【スポーツツアラーの例】
ヤマハ・トレーサー9GT/9GT+ Y-AMT
ホンダ・NT1100
【クロスオーバーの例】
ホンダ・NC750X/DCT
ホンダ・X-ADV
スズキ・GSX-S1000GX
ヤマハのトレーサー9 GTと上級モデルのトレーサー9 GT+ Y-AMTは、888cc・3気筒エンジンを搭載するスポーツツアラー。とくに、2025年最新モデルのトレーサー9 GT+ Y-AMTは、車体前後にミリ波レーダーを搭載し、高速道路などで先行車を自動で追従するACCなど最新の運転支援システムを搭載するモデルだ。また、電子制御シフトのY-AMTも採用。クラッチレバーとシフトペダルの装備をなくし、ハンドルにあるシフトレバーで変速操作するMTモードと、バイクがすべて自動で変速するATモードの両方が選択できる最新装備を備えている。

ほかにも、ホンダでは、CRF1100Lアフリカツインと同じ1082cc・直列2気筒エンジンを搭載するNT1100を「ツーリングモデル」に分類している。

また、745cc・直列2気筒エンジン搭載のNC750XやX-ADVをホンダは「クロスオーバー」というジャンルに分類。さらに、998cc・直列4気筒を搭載するスズキのGSX-S1000GXも、メーカーでは「クロスオーバーバイク」と呼んでいる。



ホイールサイズが前後で違うワケ
こうしたモデルたちも、スタイル的には、大型のフロントスクリーンなど、かなりアドベンチャーモデルに近いことは確かだ。では、なぜ差別化されているのだろうか?
おそらく、これらモデルは、長距離ツーリングでの高い快適性という点ではアドベンチャーバイクに近いけれど、よりオンロードでの走りに振った味付けをしていることが考えられる。
それが最も分かりやすいのが、前後ホイールの大きさです。たとえば、ヤマハのテネレ700やホンダのCRF1100Lアフリカツイン<s>/DCTでは、フロント21インチ、リア18インチを採用。また、電子制御サスペンションを採用するCRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツES/DCTは、フロント19インチ、リア18インチを採用している。いずれも後輪よりも前輪が大きいサイズ設定だ。
ほかにも、前述したアドベンチャーバイクと呼ばれるモデルの多くが、前輪が大きく、後輪が小さいサイズのホイールを採用していることが多い。そして、こうした設定は、オフロードバイクの多くがそうであるように、悪路にあるギャップや凹凸を乗り越えやすくするなど、オフロードの走破性をより高めるためだ考えられる。
一般的に、バイクで悪路を走る場合、前輪の径が小さいとギャップなどにはまりやすく、ひどい場合は前転してしまうこともある。逆に、大きい前輪の方が、少々路面が荒れていてもハンドルが取られにくいなどのメリットもある。
とくに、テネレ700やCRF1100Lアフリカツイン<s>などが採用するフロント21インチ、リヤ18インチというホイールは、オフロード競技用のエンデューロレーサーなどにもよく採用されるサイズだ(モトクロッサーはフロント21インチ、リヤ19インチが多い)。
おそらく、長年のトライ&エラーから、比較的長距離を走るエンデューロレースでの最適解として採用例の多い前後サイズなのだろう。そして、それをオフロードも走る公道向けのアドベンチャーバイクにも採用。つまり、アドベンチャーバイクは、オフロードバイクにより近い性格を持ったモデルであるといえるのだ。

ツアラーが前後17インチを採用する理由
対して、先述したスポーツツアラーやクロスオーバーバイクでは、多くのモデルに前後17インチのホイールを採用している。
これは、スーパースポーツやネイキッドなど、どちらかといえばロードスポーツモデルによく採用されるサイズ。舗装路での旋回性やブレーキ性能、高速道路など高い速度で巡航する場合の快適性などに優れているサイズとして、こちらも今では一般的となっている。
そういった意味で、スポーツツアラーは、あくまでオンロードで走ることを最優先し、舗装路でより軽快なハンドリングや乗り心地の良さを追求しているといえる。

なお、クロスオーバーバイクの定義だが、こちらは、各メーカーでちょっと考え方が違うようだ。
たとえば、NC750X。このモデルについてホンダは、ロードスポーツモデルとしてのハンドリングを維持しながらも、アップライトなポジションや大型フロントスクリーンなど、長距離ツーリングでの快適性を出すために、アドベンチャーバイクのスタイルを採り入れているといった感じのようだ。つまり、ロードスポーツとアドベンチャーのミックスということで、クロスオーバーと呼んでいるといえる。
また、GSX-S1000GXについて、スズキは性能面でも「スポーツツアラーとアドベンチャーを融合させた」モデルだという。GSX-S1000シリーズの高性能な998cc・直列4気筒エンジンを搭載しつつ、ツーリング性能を向上させる新技術と装備を採用したのがこのバイクだ。
とくに、スズキ車で初採用となる電子制御サスペンションシステム「SAES(スズキ アドバンスド エレクトロニック サスペンション)」や、凸凹路面を検知し、サスペンションの制御量を自動で切り替えるスズキ独自のプログラム「SRAS(スズキ ロードアダプティブ スタビライゼーション)」などは、オフロード走行にも対応。これらにより、未舗装路での振動を抑えたスムーズな乗り心地と、オンロードでのダイナミックなスポーツ走行を両立するという。

おそらく、前後17インチを採用するGSX-S1000GXは、オンロードはもちろん、例えば、フラットなダートなどでも高い走破性を持つといえる。対して、フロント21インチとリア18インチのテネレ700やCRF1100Lアフリカツイン<s>などは、よりハードな悪路走行にも対応。また、2024年の仕様変更でフロントが21インチから19インチとなったCRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツESでは、よりオンロードの快適性をアップしているため、ちょっとクロスオーバーバイクに近づいた仕様にしているといえるだろう。
ちなみに、カワサキがアドベンチャー/ツーリングに分類する前述のヴェルシス1100SEやヴェルシス650も、ホイールは前後17インチ。そのため、どちらかといえば、スポーツツアラーやクロスオーバーに近いモデルであるといえる。また、これも先述したスズキのVストローム250も、同様にホイールは前後17インチ。アドベンチャーの要素を取り入れたVストローム・シリーズのなかでも、オンロードでの快適性や乗りやすさを重視したモデルだといえる。

キャンプツーリングにも最適なアドベンチャーバイク
いずれにしろ、アドベンチャーバイクは、どんな道でも走ることのできる幅広い対応力が一番の魅力だ。長距離ツーリングはもちろん、たとえば、最近人気のキャンプでも、アドベンチャーバイクに乗ったライダーを見かける機会も増えてきた。
キャンプ場には、途中の道がぬかるんでいたり、未舗装路のダート道があるところもあるが、アドベンチャーバイクなら、そんな道でも楽に走ることができる。また、オフロード走行のスキルとその気さえあれば、たとえばハードな林道なども走破可能だろう。
まさに、高速道路を使ったロングツーリングから、ダートもある大自然のなかで冒険を楽しむことも可能なオールマイティなモデルがアドベンチャーバイクだといえる。多様なタイプのバイク旅を楽しめるアドベンチャーバイクが、今後も世界的に高い人気を維持することは間違いないといえるだろう。
