カワサキ ニンジャ1100SX……177万1000円
カワサキケアモデル、2025年3月29日発売



排気量5.3%アップで低中回転域のトルクフィールがより豊かに
ニンジャ1000の国内正規ラインナップは2017年モデルからだが、実際には2011年の初代からブライトを通じて逆輸入車が販売されていた。ちなみに当時の価格は、STDモデルが123万9000円、ABS仕様が130万2000円だった。かつてGPz750RとGPZ900Rを乗り継いだ筆者にとって、ニンジャ1000の完成度の高さはあまりにも衝撃的で、あのころ目指していたカスタマイズの理想形はまさにこれだった。いや、どんなに大枚をはたいたとしても、このレベルに達するのは到底不可能だとすら感じた。

誕生から15年目を迎えた今年は、排気量を55cc増やしたことに伴い、車名を「ニンジャ1100SX」に変更。合わせてブレンボ製のブレーキセットとオーリンズ製のリヤショックを採用した上位仕様の「ニンジャ1100SX SE」をラインナップに加えた。今回試乗したのはSTDモデルで、車両価格は177万1000円。2024年モデルの1000SXからおよそ11%アップした。その内訳としては、ミツバサンコーワ製のドライブレコーダーやグリップヒーターなどが標準装備となったことが大きいだろう。
まずはエンジンから。トップ6速で巡航している際の回転数を下げてほしいという欧州ユーザーからの声を受け、排気量を55cc上げつつフライホイールマスも増やしたというニンジャ1100SX。一般的に排気量が大きくなると発生する振動も増える傾向にあるが、その対策としてハンドルバーのウェイトを工夫して1000と同等の快適性を実現しているという。

このエンジンは、直4ならではの回転上昇のスムーズさはもちろんのこと、わずかに揺らぎを感じさせる脈動感が実に心地良いのだ。上質さを感じさせつつも、スロットルをわずかに開けたときには静かに排気量の大きさを主張してくる。こうした傾向は、電子制御スロットルを採用した2020年モデルから強くなったと記憶しているが、1100となったことでその味わいがより濃密になった印象だ。
ライディングモードは従来から変わらず、スポーツ/ロード/レインのほかに、パワーとKTRC(トラクションコントロール)の設定を任意に変えられるライダーモードの計4種類が用意されている。今回は試乗時間が限られていたためにロードモードを多用したが、それでもスロットルを大きく開ければ低回転域から力強く加速し、6000rpm付近を境に一段とパワフルになる。その変化の度合いは昔ながらの「カムに乗る」などと表現できるもので、スポーティなフィーリングを好むライダーならそこに快感を覚えるだろう。
そして、何より感心したのは電子制御スロットルの緻密なレスポンスだ。どのモードにおいてもスロットル全閉から開けたときの反応がスムーズで、戻す方向でのエンブレも意のままに操れる。電スロもいよいよこの領域に達したかという感激すらあった。なお、対策に工夫を凝らしたという微振動については、パワフルになる6000rpm以上で確かに出てくるものの、1速でも60km/hを超える速度域なので、多くのライダーはその領域を常用することはまずないだろう。

改良されたクイックシフターについては、6000rpm以上のパワフルな領域では依然として強めの変速ショックが出るものの、一般道で多用する4000rpm以下では非常にスムーズで、走行中はクラッチレバーの操作が不要というメリットを誰もが享受できる。加えて、アシスト&スリッパークラッチの採用により、レバーの操作力がミドルクラス並み軽いのも長所と言えるだろう。
SEは不要? STDモデルでも前後サスペンションの作動性は優秀だ

ニンジャ1100SXのハンドリングは、扱いやすさという点においてトップクラスにあるといっても過言ではない。車体の傾きに対する舵角の付き方が、どの速度域においてもナチュラルで分かりやすく、安心してコーナーへと進入できる。この傾向は、プラットフォームを共有するヴェルシス1100 SEにも当てはまるが、ニンジャ1100SXはホイールベースが80mmも短いため旋回力が高く、日本のタイトな峠道でもリッターオーバーのバイクとは思えないほどクルクルと向きを変えてくれるのだ。もちろん、236kgという車重を感じさせるシーンもあるが、それでも倒し込みや切り返しは「軽快」と表現してもいいレベルにある。

標準装着タイヤはブリヂストンのS23で、これもナチュラルなハンドリングに貢献しているように思う。そして、何より感心したのは前後サスの作動性の良さだ。リヤショックにオーリンズを採用する上位仕様のSEが控えているので、STDモデルはそれなりかと高をくくっていた。ところが、路面の荒れた峠道での追従性は、電子制御サスを持つヴェルシス1100 SE並みとまではいかないものの、それに迫るといっても過言ではない。特にフロントフォークは、インナーチューブ径を無闇に太くしていないことが功を奏しているようだ。



ブレーキについては、これもフロントにブレンボ製のキャリパーとディスクを採用するSEがあるとはいえ、STDモデルでも十分以上の効力を発揮する上に、コントロール性も高いレベルにある。今回の試乗において、KIBS (カワサキ・インテリジェントアンチロック・ブレーキ・システム)を含むKCMF (カワサキ・コーナリング・マネージメント・ファンクション)がどの程度介入していたのかは不明だが、どんなシーンにおいても特に違和感を覚えなかったという点はしっかりと伝えておきたい。

角度を4段階に調整可能なウインドシールドを含むカウリングの防風性については、ライダーに適度な走行風を感じさせつつも、疲労に直結するであろう風圧を十分以上に減じてくれる。加えて、非常に優秀なエレクトロニッククルーズコントロールや、気温が低いシーンでは標準装備となったグリップヒーターが、ツーリングで活躍してくれるはずだ。
直接のライバルとなるであろうスズキのGSX-S1000GT(165万円)と比べると、最高出力は14PS少なく、車重は10kg重く、メーターに地図を表示させられないなどがディスアドバンテージとなりそうだ。一方で、WMTCモードでの燃費はニンジャ1100SXの方がおよそ15%もいいので、ツーリングライダーならこの辺りが車種選択の要素になるだろう。

1984年に発売されたGPZ900Rは、2003年までの16年間にわたって生産が続けられた。一方、2011年に登場したニンジャ1000は、モデルチェンジを繰り返しながらニンジャ1000SX、ニンジャ1100SXと車名を変えつつ、今年で15年目を迎えた。現実的な使われ方において、GPZ900Rの真の後継となるのがこのモデルであり、純粋なスポーツツアラーとして今後も生き続けるだろう。
ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)





