連載

自動車エンブレム秘話

ROLLES-ROYCE

ダブルR(Badge of Honour)は創業者の信頼を象徴

1904年にチャールズ・ロールズとヘンリー・ロイスが出会い、1906年にRolls‑Royce Limited(ロールス・ロイス)が誕生した。彼らの姓の頭文字を重ねた「ダブルR」ロゴは、創業者同士の信頼とパートナーシップの証としてデザインされ、公式に「Badge of Honour(名誉のバッジ)」と呼ばれている。

赤から黒への変遷

当初は赤いダブルRが採用されていたが、1930年代に黒に変更された。一説には1933年のロイスの死去を悼んでの変更とされるが、「ボディカラーとの調和を優先したため」というのが公式見解である。黒のRRはどのボディカラーにも馴染み、格式と重厚感をより強調するものとなった。

Goodwood製モデルだけの証

このBadge of Honourは、英国グッドウッド工場で製造された正規モデルだけに付与される。2003年、BMW傘下で新生ロールス・ロイスがスタートしたときも形を変えることなく継承された。「時代を超えて不変であり続ける唯一無二の象徴」と位置づけられている。

革新の証として赤ロゴが復活

伝統を守り続けるダブルRエンブレムだが、例外も存在する。2000年代以降の実験モデル「EXシリーズ」では、あえて赤いRRを復活させている。これは、「伝統と革新を同時に体現するブランド姿勢」を示しているという。

スピリット オブ エクスタシー「優雅さとスピードの象徴」

モデルとなったエレノア・ソーントン(向かって左端)と製作者のチャールズ・サイクス(中央)。
モデルとなったエレノア・ソーントン(向かって左端)と製作者のチャールズ・サイクス(中央)。

ロールス・ロイスの場合、ダブルRエンブレム以上にボンネット上のマスコットが知られているだろう。1911年、ロールス・ロイスは公式マスコットとして「スピリット オブ エクスタシー」を発表した。前傾姿勢で衣をなびかせる女性像は、「スピードと優雅さの融合、静寂の中の力強さ」を象徴しているという。

誕生秘話とモデル

この像を生み出したのはチャールズ・ロビンソン・サイクスという彫刻家で、モデルはエレノア・ヴェラスコ・ソーントンという女性だった。彼女はロールズのビジネスパートナーであるクロード・ジョンソンの秘書を務めていた。また、イギリスの自動車雑誌「The Car Illustrated」(Car誌)を創刊したジョン・モンタギュー男爵の恋人でもあった。


Car誌のイラストレーターとして仕事をしていたサイクスは、モンタギュー卿所有のロールス・ロイス「シルバーゴースト」のために、エレノアをモデルとしたフィギュアを制作。「The Whisper(ささやき)」と呼ばれるこの像が、スピリット オブ エクスタシーの原型となった。

電動化時代の新デザイン

2023年、ロールス・ロイス初のEV「Spectre」登場に伴い、スピリット オブ エクスタシーは低く後傾した姿勢へとリデザインされた。これは空力性能の向上を狙ったもので、Cd値0.26という同社史上最高の空力性能達成に貢献している。

二つの象徴が語るブランド哲学

創業者の信頼と高品質の証であるダブルRエンブレム(Badge of Honour)と、 優雅さとスピードの融合を表しながらブランドの感性と情緒を語るスピリット オブ エクスタシー。この2つがフロントで並び立つことで、ロールス・ロイスは単なる高級車ではなくストーリーをもったブランドとして存在し続ける。電動化の時代においても、その輝きは色あせないだろう。

ブランドの誕生110周年を記念して2019年に発表された特別限定モデルのCentodieci(チェントディエチ) "。後ろには1990年代前半に短期間だけ存在した"EB110"が見える。"

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