アプリリア・RS457……85万8000円(2025年2月出荷開始)




トルクフルかつ快活なエンジンフィールに魅了される

400ccをわずかに超える「RS457」の水冷パラツインは、吠えるでもなく囁くでもない、ちょうどいいところで声を張る。荒々しさと品の良さ。その狭間を縫うようなサウンドが、スロットルを開けるたびに聴覚をくすぐる。
右手の動きに対する反応は瑞々しく、滑らかで、それでいてライダーを慌てさせることがない。特に、低回転域から中回転域へとつながる加速のテンポは、まるで小気味良いステップを刻むようだ。ふと脳裏をよぎったのは、あのころのドゥカティ・モンスター696だった。
この並列2気筒エンジンのクランク位相角は270°だ。250~400ccクラスにおけるパラツインの定番は180°位相であり、だからこそRS457に90°Vツインのフィーリングを思い出したのだろう。生産国はインドだが、走らせてみれば国籍なんて関係ない。猛暑のアスファルトから立ち上る熱気の中に、確かにイタリアの空気が混じっていた。
新興国を中心に300~500cc市場が拡大しつつある昨今。ライトウエイトスポーツ「RS660」で成功したアプリリアがこのマーケットに送り込んだのが、ブランニューモデルの「RS457」だ。モデル名にある3ケタの数字は排気量を表しており、つまり日本では残念ながら普通二輪免許で乗ることができない。
メーカーとしては、EU加盟国におけるA1ライセンス(~125cc/15HP以下)からステップアップしてきたライダーを主な対象としており、位置付けとしてはいわゆるエントリーモデルだ。ところが、実際に試乗を終えた今、ベテランライダーをも納得させる走りに心底驚いている。

量産二輪として世界で初めてライド・バイ・ワイヤ(スロットル・バイ・ワイヤ=TBW)を導入したのは、実はアプリリアである。2008年に登場したシバー750がその先鞭をつけ、同時にライディングモードの切り替え機能も搭載していた。今にして思えば、それは電子制御が本気でバイクの世界に浸透しはじめた象徴的な瞬間だった。
このRS457も、もちろんTBWとモードセレクターを備える。そして、この電子制御の完成度が、ちょっと尋常ではない。例えば10%を超えるような上り坂。3速で2000rpm前後、速度にして30km/hを下回るような状況においても、エンジンは不機嫌な顔ひとつ見せずに力を出し続ける。慣れているライダーなら、迷わずギヤを落とすか、あるいは半クラでエンストを回避するシーンだ。しかし、このRS457はまるで“分かっている”かのように、クラッチを握らせない。
アプリリアは、ビギナーにとっての扱いやすさを、単なる優しさで終わらせていない。極低回転域にまで神経を張り巡らせ、エンジンとライダーの間に信頼を構築している。そのセッティングの緻密さに、思わず舌を巻く。

低~中回転域から湧き上がるトルクの厚みは、排気量が14%も上回ることも手伝ってか、ホンダ・CBR400Rやカワサキ・ニンジャ400とは明らかに格が違う。スロットルを開けたときの押し出し感が実に豊かであり、6000rpmを超えたあたりからは回転の伸びにスポーティな色気がにじみ始める。そしてその勢いは、レッドゾーンの始まる1万500rpmまで一気呵成に駆け上がっていくのだ。
もちろん、技術的にはもっとパワーを引き出すこともできただろう。だがアプリリアは、あえてA2ライセンス枠、35kW(47.6HP)という上限に合わせることで、日常域での力強さと、高回転での華やかなパフォーマンスを両立させてきた。その味付けを可能にしているのが、270°位相クランクの採用だろう。どこか“うねり”を感じさせる独特のビートが、このエンジンに明確なキャラクターを与えている。
加えて、見逃せないのがシフトフィーリングの良さだ。単にスムーズと表現してしまうのはもったいない。節度のあるクリック感とともに、ギヤがスコンと決まる快感。変速という行為そのものに楽しみがある。昨今、クラッチレスやシフトレスといったテクノロジーが次々と誕生しているが、アプリリアはあくまでマニュアル操作の面白さを伝えるべく技術を磨き上げてきた。その姿勢に、イタリアンスポーツの矜持が垣間見える。

扱いやすいだけでなく、その先を秘めたハンドリング

シャープなルックスに一目惚れして、気が付けば契約書を交わしていた……。そんなライダーの期待を、RS457のハンドリングは軽やかに上回ってくる。CBR400Rやニンジャ400と比べると、切り返しや倒し込みの軽快さは一段上。“キレ”という表現を使いたくなるほどの鋭さで、旋回中もラインを自在にコントロールできる。それでいて、かつてのレーサーレプリカのようにライダーの技量を試すような雰囲気は一切ない。むしろバイク側から「楽しんでくれ」と手を差し伸べてくるような、そんな優しさすら感じる。ここにも、スポーツライディングの面白さをより多くの人に届けようという、アプリリアの明確な意図が透けて見える。

この軽快さの源は、単なる車重の軽さだけではない。アプリリアはタイヤサイズを“盛る”方向には振らなかったのだ。CBR400R比で前後ともワンサイズ細く、しかも専用設計のラジアルを採用している。つまり、バイク全体を機能として調律しようという姿勢がうかがえるのだ。
そして、ライダーの操縦に対するレスポンスの良さは、間違いなくこのクラスでは稀少なアルミフレームの恩恵によるものだ。入力に対してシャープに反応し、コーナーの入り口でピタリと意志が通じる。サーキットに持ち込みたくなるような、そんな誘いをかけてくるのだ。
一方で、路面の荒れた峠道に入ると、サスペンションの硬さが顔を出す。舗装の継ぎ目や段差では、車体がやや跳ね気味になることも。こういったシーンでは、リヤにリンク式モノショック、フロントにハイグレードなフォークを備え、スチールフレームでしなやかさを持たせたCBR400Rの方に歩がある。ツーリングライクな快適性を求めるならホンダ、俊敏な応答性を求めるならアプリリアと、それぞれの立ち位置は明確に棲み分けられている。



ブレーキについても触れておきたい。フロントはシングルディスクだが、制動力に不足は一切ない。というより、車体が軽いために十分以上の効きが得られる。付け加えると、このバネ下の重量削減が軽快なハンドリングに貢献しているのは間違いない。ドッグレッグ形状のレバーは操作性が良く、アジャスター付きで細かなセッティングも可能。細部にまで心配りが感じられる。
日本国内では、免許制度の制限ゆえにRS457の優位性はやや埋もれがちだ。しかし、プロダクトとしての完成度、思想、立ち位置など、いずれも唯一無二だ。スーパースポーツからのダウンサイジングを考えているベテランライダーにも刺さるだろうし、RS660はちょっと手が届かないというアプリリアファンにとっても、これは確かな“選択肢”になり得るだろう。
ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)
ディテール解説







アプリリア RS457 主要諸元
エンジン形式 4ストローク水冷並列2気筒 DOHC 4バルブ
総排気量 457cc
ボア×ストローク 69mm×61.1mm
最高出力 47.6HP(35kW)/9,400rpm
最大トルク 43.5Nm/6,700rpm
燃料供給方式 電子制御燃料噴射システム φ36mm ツインスロットルボディ、ライド・バイ・ワイヤ アクセルマネージメントシステム
潤滑方式 ウェットサンプ
始動方式 セルフ式
トランスミッション 6速リターン(アプリリアクイックシフト UP/DOWN をオプション設定)
クラッチ アシスト及びスリッパーシステム付き湿式多板クラッチ
フレーム ダブルスパー アルミニウム製フレーム
サスペンション(F) φ41mmテレスコピック倒立フォーク、スプリングプリロードアジャスタブル、ホイールトラベル:120mm
サスペンション(R) スチール製スイングアーム、モノショックアブソーバー、スプリングプリロード調整式、ホイールトラベル:130mm
ブレーキ(F) 320mm径ディスク、ByBre製ラジアルマウント32mm 4ピストンキャリパー
ブレーキ(R) 220mm径ディスク、ByBre製1ピストンキャリパー
全長/全幅 1,982.5 mm/760mm
シート高 800mm
ホイールベース 1,350mm
タイヤ(F) 110/70 ZR 17 アルミ製ホイール 3.0”×17”
タイヤ(R) 150/60 ZR 17 アルミ製ホイール 4.5”×17”
重量 装備重量:175kg(燃料 90%搭載時)、乾燥重量:159Kg
燃料タンク容量 13L
生産国 インド





