家族で使えるリアルオフローダー
今はSUVが人気のカテゴリーで、国内で新車として販売される小型/普通乗用車の30〜40%を占める。スズキジムニーは、このカテゴリーの先駆的な存在だ。70年に初代モデルを投入して、それ以来、基本的なコンセプトを変えずにフルモデルチェンジを重ねてきた。今も昔も変わらないジムニーの特徴は、狭く曲がりくねったデコボコの激しい日本の悪路に強いことだ。ボディの基本設計は軽自動車サイズだから運転しやすく、耐久性の優れたラダーフレームに、後輪駆動ベースの4WDや悪路向けの車軸式サスペンションを装着する。悪路で駆動力を増幅させる副変速機も備わる。最近の大半のSUVは、乗用車のメカニズムやプラットフォームを使うシティ派が主流だが、ジムニーは本格的な悪路向けだ。車両の性格は、トヨタランドクルーザーシリーズなどに近いといえる。
そして現在、乗用車と基本部分を共通化したシティ派SUVが膨大に増えた反動もあり、原点回帰として悪路向けの車種が注目されている。18年に発売された現行ジムニーも売れ行きが好調だ。軽自動車と小型車を合計したジムニーシリーズ全体の販売台数は、2025年上半期(1〜6月)の1か月平均が7850台に達した。先代型が売られていた2015年の約7倍だ。
ジムニーの人気が高まってユーザーの幅も広がると、価値観も多様化する。そこに待望の5ドアモデルとして、ジムニーノマドが加わった。3ドアボディのジムニーは、仕事で悪路を走るプロユース向けのSUVとして開発されているが、ジムニーノマドは、この悪路性能を継承しながら、日常的にクルマを使う人達にも対応できる。ちなみに「ノマド」とは、フランス語で遊牧民の意味だ。どこにでも自由に移動できるクルマという想いが込められている。90年に発売された初代エスクードの5ドアモデルもエスクードノマドと呼ばれ、スズキの伝統を受け継ぐ名称でもある。
ジムニーノマドの直接のベースは、3ドアボディのジムニーシエラだ。ジムニーシエラは、軽自動車のジムニーと同じボディに直列4気筒1.5Lエンジンを搭載して、外装パーツの装着などによりボディを少し拡大させた。ホイールベースは同じで車内の広さも変わらないが、1.5Lエンジンは実用回転域の駆動力が高く、悪路から高速道路まで走行性能が向上している。
5ドアのジムニーノマドは、ジムニーシエラの全長とホイールベースを両方とも340mm拡大して、後席の足元空間と荷室を広げている。5ドアだから後席の乗降性に優れ、座り心地も向上させるなど、ファミリーカーに求められる実用性を大幅に高めた。開発者が強調したのは「5ドアでも悪路の走破力を犠牲にできない」こと。そのためにホイールベースの340mm延長は最小限度で、全長の拡大も同じ数値だから、前後のオーバーハング(ホイールからボディが前後に張り出した部分)にも変化はない。最低地上高も210mmで等しく、デコボコの激しい悪路を走りやすい。その一方で、4速ATには後退時ブレーキサポートや車間距離を自動制御できるアダプティブクルーズコントロールを装着するなど、家族を同乗させるクルマとしての安心感を高めている。人気車になるのも当然だろう。

まずはノマドの全体像をチェック
まずはジムニーノマドの外観や内装のデザイン、居住空間や荷室の広さとシートアレンジなどの使い勝手、エンジンや4WDシステムなどのメカニズムについて、全体像をチェックしておきたい。小さなボディに、本格的な悪路向けSUVの機能と走破性能が凝縮され、多くのユーザーを魅了していることが分かるだろう。








▷自動車誌MOOK『ジムニー ノマド購入ガイド』より



