Porsche 911 Cup(992.2)

992.2型ベースの最新レーシングカー

ポルシェが992.2型をベースに開発し、2026年から導入する 「911 カップ(左)」と「911 GT3 R(右)」。
ポルシェが992.2型をベースに開発し、2026年から導入する 「911 カップ(左)」と「911 GT3 R(右)」。

ポルシェは、ポルシェ・スーパーカップ、世界各地のカレラカップ、ポルシェ公認レースシリーズ向けに開発されたワンメイクレーシングカー「911 カップ」の最新仕様を公開した。この新型レーシングカーは、2026シーズン開幕からグリッドに並ぶ予定となっている。合わせてGT3カテゴリー向けの新型「911 GT3 R」も公開された。

先代モデルで高い評価を受けた設計をさらに進化させ、最新型の992.2型をベースに数多くの改良を実施。今回の開発においては、サーキットパフォーマンスの向上、参戦コストの適正化、ドライバーとチームの操作性の簡素化に重点が置かれた。4.0リッター水平対向6気筒自然吸気エンジンは、先代モデルから10PSパワーアップした最高出力520PSを発揮。価格は26万9000ユーロ(税別)に設定されている。

なお今回ポルシェは、ワンメイクシリーズ向け新型レーシングカーの名称を「911 GT3 カップ」から「911 カップ」に変更した。ポルシェはカスタマー向けレーシングカーの名称体系を簡素化・標準化することを決定しており、多くのメーカーが参戦するレースシリーズや特定のセグメント向けの車両のみが、名称に「GT」と数字を組み合わせた表記を採用する。

先代モデルは1130台を世界中にデリバリー

新型ワンメイクレーシングカー「ポルシェ 911 カップ」のエクステリア。
新型911 カップもこれまで同様に、ツッフェンハウゼンの本社工場で量産車と並行して生産。先代の911 GT3 カップは1130台が製造された。

911 カップは、公道走行可能な911 GTモデルをベースに開発され、ポルシェのツッフェンハウゼンの本社工場で量産車と並行して生産。現在活躍する911 GT3 カップは、2020年末の生産開始以来、1130台がラインオフし、世界中にデリバリーされている。

ポルシェ・モータースポーツの副代表を務めるトーマス・ローテンバッハは、新型911 カップについて、次のようにコメントした。

「大成功を収めた先代モデル同様、新型911 カップは限界をさらに超える存在となるでしょう。新型911 カップは、GTスポーツカーの生産仕様とレーシングテクノロジーを融合させ、一貫性を持ったパフォーマンス重視のコンセプトを実現しています」

「911 カップをドライブすることは、これまで常に大きな“挑戦”でした。そして、私たちはその挑戦を維持したいと考えています。カップカーは、ポルシェ・ジュニアのトレーニングプラットフォームとしても機能しているからです。このコンセプトの成功は、数多くのレースにおいて大きな成功を収めてきました」

3分割されたフロントスポイラーリップ

新型ワンメイクレーシングカー「ポルシェ 911 カップ」のエクステリア。
フロントスポイラーリップは3分割型が導入され、損傷した箇所のみの交換が可能になった。

新型911 カップは、先代モデルからエクステリアを刷新。フロントセクションは、992.2型911 GT3のデザインが反映されており、フロントスポイラーリップは3つの独立したパーツで構成される。これによりレース中に接触した場合でも、損傷した箇所のみをの交換が可能になった。また、デイタイムランニングライトも廃止されている。

フェンダーには統合型ルーバーベントを導入。ホイールアーチのエアフローを最適化し、フロントアクスル周辺のダウンフォースレベルが向上した。ベースモデル同様にアンダーボディ形状もアップデートし、フロントホイールアーチの後方に配置されたターニングベーンがフロントセクションのエアロダイナミクスを改善。これら空力的な進化により、特に高速時におけるフロントの応答性が大幅にアップした。

リヤセクションはは完全に再設計。スワンネック型リヤウイングは、ウィングサポートと接続部が改良され、より簡単に位置調整が可能になった。エンジンコンパートメントカバーも再設計され、ドアを含むほぼすべてのボディコンポーネントと同様、リサイクルカーボンファイバーフェルトとバイオベースのエポキシ樹脂を組み合わせた素材で製造される。

最高出力520PSを発揮する4.0リッターボクサー6

開発テストを行う「ポルシェ 911 カップ」。
搭載される4.0リッター水平対向6気筒自然吸気エンジンは、先代モデルから10PS向上した最高出力520PSを発揮する。

4.0リッター水平対向6気筒自然吸気エンジンは、911 GT3に採用されているパワーユニットをベースに開発。最高出力520PSを実現するため、新型スロットルバルブやバルブ開度を延長したカムシャフトなどが導入された。今回のアップデートにより、スロットルバルブが不要となり、他のモータースポーツ選手権への参戦に必要なエアリストリクターの装着も可能になっている。

10PSの出力向上にもかかわらず、エンジンの寿命はこれまでと変わらず、トラック走行100時間でのオーバーホールを推奨。レースシリーズ、サーキット、現地の規制に応じて異なる騒音規制に対応するため、3種類のエキゾーストシステムから選ぶことができる。

従来はスタンディングスタート時、6500rpmに制限されていたエンジン回転数が向上し、オートマチック・エンジン・リスタート機構が新たに採用された。これは、ドライバーが誤ってエンジンを停止させた場合でも、クラッチペダルを踏み込んだ瞬間にエンジンがリスタートする。さらに、従来のハザードに代わり、ブレーキライトにストロボスコープ機能を追加。特にスタート進行において、後続車両に明確な警告を発する。

操作性が大幅に向上したコクピット

コクピットには新型ステアリングホイールやセンターコントロールパネルを導入し、ドライバーに加えて、チームの整備性も大幅に向上した。
コクピットには新型ステアリングホイールやセンターコントロールパネルを導入し、ドライバーに加えて、チームの整備性も大幅に向上した。

コクピットは、レース中とピット時における操作の簡素化が図られた。再設計されたマルチファンクション・ステアリングホイールは、魅力的なデザインに加えて、操作性が大幅に向上。センターに配置された回転式コントロールを介して、ABSとトラクションコントロールを調整することができる。新たに導入されたカラーイルミネーション付きコントロールボタンは、それぞれの視認性が向上した。

シート横にレイアウトされたセンターコントロールパネルは、レース中でもドライバーが簡単に操作することが可能。物理スイッチの数が10から8に削減され、右下にあるボタンを押すと、ディスプレイに追加のメニューページが表示される。ここでピットレーンスピード、排気マッピング、ステアリング角度リセットなど、車内から様々な設定を調整することができるようになった。これにより、ノートパソコンの接続が不要になり、レースエンジニアの作業が簡素化されている。

新型911 カップの開発において、ポルシェ・モータースポーツは今回もミシュランと提携し、ワンメイクシリーズ用の新世代タイヤを開発。実走テストは、イタリアのモンツァ、ドイツのラウジッツリンク、ポルシェのヴァイザッハ開発センターで実施された。GTレーシングカー担当ディレクターのマティアス・ショルツは、新型911 カップについて次のように説明を加えた。

「新型911 カップは、細部への徹底的なこだわりにより、さらに際立った存在感を放つことになりました。より強靭で速く、そして素晴らしい実用性を兼ね備えています。パフォーマンスアップにもかかわらず、パーツ寿命は従来の期間を維持しており、一部はさらに延長されています。リサイクル素材を高い割合で導入したことも大きなトピックです。コクピットの操作性も最適化され、様々なレベルの電子機能の追加により、異なるレース形式への対応範囲も拡大されました」

「911 カップ」と「911 GT3 R」を動画でチェック!

精力的にテストを続ける、新型「ポルシェ 911 カップ」。

992.2型ベースの新型ポルシェ911カップが開発を完了「eフューエル・ブレンドを採用」

ポルシェは、2025年夏に新型「911 カップ」のワールドプレミアを予定している。現行の992.2型の911をベースに開発されたワンメイクレース仕様は、ほぼ開発を完了したという。今回、厳重なカモフラージュが施された状態のテスト仕様が公開されている。