
クラシックと革新が交差する冒険バイク


クラシカルな雰囲気が人気のR12シリーズの最新版が「R12 G/S」だ。1980年代初頭、パリ・ダカール・ラリーで幾多の勝利を収めた、往年の「R80 G/S」をオマージュしたスタイルに現代のテクノロジーを融合したアドベンチャーバイクである。
まず注目すべきはデザイン。丸目ヘッドライトにアシンメトリーなメーター、フューエルタンクにはツートンカラーのグラフィックが施され、どこか懐かしさを感じさせる。その一方でLEDライトや洗練されたフィニッシュが現代的だ。スリムなボディラインと“長い足”がオフロードでの走りを予感させる。
エンジンは空油冷1170ccボクサーツインを搭載。他のR12シリーズと同様のパワーユニットは最大出力109psと水冷ボクサーに比べると控えめだが、低回転域から粘るフラットな出力特性とマイルドなフィーリングが持ち味だ。
駆動方式はBMW伝統のシャフトドライブを採用。シャシーは新設計のスチールチューブフレームを採用、サスペンションはフロントに倒立フォーク、リアにパラレバー式のモノショックを備え、オンもオフも快適にこなす。車重は約229kgと、このクラスとしては比較的軽量に仕上げられ、取り回しの良さも魅力だ。
さらに、3つのライディングモード(レイン/ロード/エンデューロ)やコーナリングABS、トラクションコントロールなどの電子制御もしっかり装備。クラシカルな見た目に反して、ライダーをサポートする現代の安全技術が惜しみなく投入されているのも見逃せない。R12 G/Sは単なる懐古趣味モデルではない。往年の冒険心を現代のテクノロジーで再構築した、まさに走りのレトロアドベンチャーなのだ。


試乗インプレッション/走り出した瞬間、心は荒野へと飛ぶ
BMW R12 G/Sにまたがった瞬間、まず感じたのはその“しっくり感”だ。シート高はやや高めながら、スリムな車体と適度なハンドル幅が絶妙にバランスしていて、足着きにもさほど不安はない。エンジンに火を入れると、水平対向ツイン特有の左右に揺れる鼓動が身体を通して伝わってくる。目の前に広がる無限の景色に心が弾む。高い目線とシンプルなコックピットが自然とそういう気持ちにさせるのだと思う。
クラッチミートは軽く、低回転域から湧き上がるトルクでスムーズに発進。街中では2,000rpmも回せば十分に流れに乗れてギクシャク感は皆無だ。そして、アクセルを開ければ、1170ccの空油冷ボクサーが地を蹴るように車体を押し出す。エンジン回転が上がるにつれてパルス感は消え、滑らかさが際立ってくる。まさに“鼓動から旋律へ”と変化するような感覚だ。排気音も相変わらず地味だが、だからこそムダに緊張しないし、疲れないのが良い。意外だったのがコーナリング性能の高さ。特に中速コーナーでは安定感が抜群で、荷重によってサスペンションが縮み、どっしりと路面に吸い付くように走る。一方で、タイトな切り返しでも重さを感じさせず、意外なほど軽快に動いてくれる。アップライトなポジションと広い視界は自然との一体感があり、流しているだけで気持ちいい。さすがに高速道路では風圧を受けるが、スリムに見えて長距離でも腰にこないシートや、スリムなタンクとのフィット感も申し分なく、快適に距離を稼げた。
難しく考えるな、自由に走りを楽しもう!


試乗コースの途中で林道に踏み込んだ瞬間、そのキャラクターは一変した。細かい砕石やや小さなギャップを、しなやかな足まわりが丁寧になぞっていく。路面を読むように、そして包み込むように動くサスペンション。その動きは決して唐突ではなく、むしろ“優しい”。不意の岩や轍を乗り越えても車体は軋まず、柔らかくいなしていく。まるでライダーの意図を先回りしてくれるかのようだ。
特筆すべきは、トラクションコントロールとABSの制御の巧みさ。電子制御にありがちな介入の違和感がなく、むしろ「うまく走らせてくれる相棒」という印象だ。フロントがわずかに滑った場面でも恐怖感は皆無。アクセルを開ければ即座に安定を取り戻してくれる。フロント21インチと長い足が奏功していると思う。動きがゆったりしているので、ライダーが反応する時間を与えてくれるのだ。
マシンに慣れたところで電制の介入が最小となる「エンデューロ・ブロ」モードを試してみたが、スロットルの加減ひとつで軽いテールスライドも楽しめる。そして、走り込むほどに、その世界へと深く引き込まれていく。「難しく考える必要なんてないさ、自由に楽しめばいいじゃないか」とバイクに諭されている気分だ。これぞ、80年代ビッグオフの醍醐味だったに違いない。何故このバイクが“オフロードを走れるクラシック”として設計されたのか――その理由が身体に染み込んできた。
R12 G/Sは、ただのレトロバイクじゃない。現代テクノロジーと懐かしいデザインが絶妙なバランスで融合し、“走る悦び”をダイレクトに伝えてくる。どんな道を選んでも、どこか遠くへ行きたくなる──そんな衝動を掻き立ててくれる稀有な一台だ。
空油冷ボクサーツインの鼓動感としなやかな足まわりが調和し、「オン」も「オフ」も自在に駆け抜ける。クラシックな外観とは裏腹に、走りは軽快かつ安定感に優れ、“操る楽しさ”をダイレクトに味わえる一台だ。
スタイリング






新型R12 G/Sは、往年のG/Sスタイルを継承しつつも、現代的にブラッシュアップされたデザインが魅力。丸型ヘッドライトやタンク形状などクラシカルな意匠に、力強さと機能美が共存するスタイリングとなっている。
オフロード仕様


今回オフロードで試乗した「エンデューロ・パッケージ・プロ」仕様には、リア18インチホイールにオフロードタイヤ、スパイク付きの幅広ステップや大型エンジンガード、ハンドガード、ハンドルアップライザーなどダート走行用の本格的装備が付く。
ライディングポジション
アップライトで視界が広く、ハンドル位置も自然で長時間でも疲れにくい。スタンディング姿勢も取りやすく、ツーリングから林道走行まで幅広く対応できる設計だ。シートはやや高めだが、車体がスリムなので見た目以上に足着きは良好。ライダー身長179cm。
ディテール解説














能だ。
スペック
ボディサイズ: 全長×全幅×全高=2285×900×1240mm
ホイールベース: 約1585mm
シート:高 860mm(GSスポーツ:875mm)
車両重量: 約234kg
エンジン: 1169cc空油冷 4ストローク水平対向2気筒 DOHC 4バルブ
トランスミッション: 6速リターン+シャフトドライブ
最高出力: 109PS(80kW)/7,000rpm
最大トルク: 115N・m(6,500rpm)
燃料タンク容量: 17L
フレーム: スチール製チューブラー・スペースフレーム
サスペンション(トラベル量):
フロント:倒立式テレスコピック(約210mm)
リア:モノショック(約200mm)
ブレーキ:
F:φ310mmダブルディスク+2Pキャリパー
R:シングルディスク+2Pキャリパーインテグラル ABS Pro(パーシャリー・インテグラル)標準装着
タイヤ: フロント:90/90-21、リア:150/70-17(エンデューロパッケージは18インチ)
燃費: 19.6km/L(WMTC)
価格: 2,451,000 円~(消費税込み)






