動力性能は遜色ない、ホイールベースがキモだ
最近、街中でジムニーノマドを見るようになった。まだまだ、見かけた時に珍しいという感覚が強いのだが、どんどん納車が進んでいるようだ。絶対数の少なさから、まだまだ情報が少ない。今回、オフロードサービスタニグチの開発車両(まだ測定などを行っている関係で、インテリア以外ノーマル)に乗ることが出来たので、筆者の主観となるが、インプレッションをしてみたいと思う。
JB74と比較すると、車体重量で約100キロ、全長で34センチ、ホイールベースで34センチ大きくなっている。エンジン出力は102ps、13.3kgf・mと、全く一緒。見た目通り、幅は変わらないが、全長が長くなっている。ここまでの内容を加味すると、重くなっているのに、出力が変わらないという事は、動力性能が落ちているのでは? という推測ができる。しかし、実際に走らせると、JB74と全く遜色がない。ハブ廻りの変更で、転がり抵抗が少なくなっている恩恵だ。少し動かしただけで、進化を感じることができる。
今回はステージ別の乗り味をじっくりと堪能することが出来た。その内容をオンロードでの街乗り、高速走行。ノーマルでのオフロード性能。筆者が感じるカスタム後のオフロード性能の可能性などを、項目別に記事にしてみた。今から購入するユーザーは、参考にして欲しい。
実は小回りが効く?内輪差を理解しよう
まずは、オンロードでの街乗りだ。ここで前提条件がある。全ての項目においてなのだが、今乗っているクルマについてだ。今現在JB64やJB74に乗っているユーザーと、そうでないユーザーではかなり感じ方が違う。今現在乗っていないユーザーの場合、ジムニーノマドの長さはすんなり受け入れられると思う。ロングという表現をしているが、実はそんなに長くない。比較車両をあげると、ミニのクロスオーバーより42センチ短い。しかし、JB64やJB74に乗った事のあるユーザーは、ハンドルを握っている状態で見えている景色が変わらないだろう。しかし、それでいて、後ろがかなり長いのだ。
ホイールベースが長いことで、内輪差が大きく発生する。ステアリングを切るタイミングを少し遅らせないと、想像以上にリヤタイヤが内側を走ってしまう。このせいで、取り回しについての評価が極端に割れてしまうのだ。この事象さえ理解していれば、最小回転半径5.7mは3ドアの4.9mよりは大きいが、ランクルなどよりも小さい。ミニのクロスオーバーが5.8mということを考えると小回りが効く方といえる。
内輪差を考慮した走りができれば、ジムニーノマドの街乗りは良いことだらけ。走りはJB74と遜色がない。内輪差を理解すれば、小回りも問題ない。それでいて、荷室の広さから積載量がアップしているのだ。リヤシートを倒さずに荷室空間がしっかりあるということは、4名乗車で荷物が乗せられる。これは、ファミリーユースでの使い勝手がJB74と比較した際、格段に向上しているということ。アウトドアアクティビティを複数で楽しめるのだ。
次は高速走行。100キロ重くなっているわりに、体感する動力性能のロスはあまり感じないが、厳密に加速力を比較するとやはり若干鈍い。ここは、JB74のノウハウでカスタムを行うことで解消できるだろう。走らせている時の体感だが、安定感がすごい。ロングホイールベース化したことで、ピッチング、ロールともに穏やかなのだ。それでいてステアリングの応答性はJB74と変わらない。ノーズから切れ込んでいく印象。JB74で感じたスポーティさは少ないが、ジムニーノマドの方が安定感が高く、ロングドライブ時の疲労が少ない。側面の面積は増えているはずなのに、横風の影響を受けにくい。ロングホイールベース化されたことで、直進安定性が増している。
ジムニーノマドの用途を考えると、このクルマでワインディングなどを積極的に攻めるという事はないだろう。走りのスポーティさを追求するのであれば、JB74の方が良い。しかし、ファミリーユースでの使い勝手や、ロングドライブ時の快適性などを求めた時、ジムニーノマドの優位性は圧倒的に高いと言えるだろう。

実は数値では大差ない、挙動の穏やかさが武器だ!
ロングホイールベースということで、ファミリーユースや、アウトドアアクティビティなどの話題が中心となっている。ジムニーノマドに求められるオフロード性能は、アウトドアアクティビティでのオフロード程度がメインとなる。しかし、ジムニーと名付けられた車両が中途半端なオフ性能のはずがない。今回は、谷口氏の許可のもと、トライアルコースでの走行を行ってみた。
走り始めて、最も気になるのはやはりホイールベース。ホイールベースが長くなることで、ランプブレークオーバーアングルが性能低下を起こす。見た目的にかなり悪くなっていると思っていたのだが、走らせてみるとあまり気にならない。カタログスペックを確認するとJB74が28度、ジムニーノマドは25度。意外とあまり悪くなっていない。アプローチアングルと、デパーチャアングルはJB74と全く同じ。極端にハードな場所でなければ、ほとんど差はないと言って良いだろう。実際1時間ほど好きに走ってみたのだが、サイドステップが干渉することは一度もなかった。
もう一つ感じた内容は、路面に対しての追従性。ノーマルのJB74とノマドを比較した場合、あくまで筆者の体感だが、ノマドの方が追従性が高く感じた。ホイールベースが長いということは、タイヤの接地している場所がJB74と異なるということ。地形的な理由だけでなく、セッティングが専用設計となっている。ダンパーの味付けや、コイルスプリングの設定が、ノマド専用の味付けなのだ。さらに、ノマド独特の動きがある。JB74だと、ライン取りで一輪浮くようなルートを走らせると、感覚的に「スッ!」という感覚で持ち上がる。ノマドの場合、「ヌー!」という感じで、穏やかな動きとなる。ジムニーというクルマは、他の4輪駆動車に比べ、車体の動きがクイック。その挙動に慣れることが、初心者から中級者になる際のハードルなのだ。その挙動が穏やかということは、ノマドは初心者がオフロード遊びを行う際、ハードルが低いということになる。ある程度のカスタムが必要となるが、ノマドでのオフロード走行はアリだ。

空転させるとブレーキLSDが即座に動く
そして、もう一つ。現行ジムニーにはブレーキLSDというトラクション機能がついている。これは、左右輪の回転差動を感知し、片輪にブレーキを掛け、対角線スタックという状態から脱出する機能だ。この回転差動を感知してからの動作タイミングが速くなっている。今までのセッティングは、タイヤを大径化すると、ハイギヤとなる為、ブレーキLSDの効きが悪く、事実上その恩恵を受けることが難しかった。しかし、このノマドのセッティングであれば、かなり大きなタイヤでもブレーキLSDの恩恵を受けることができる。意図的にタイヤが浮くライン取りを行い、空転させるとブレーキLSDが即座に効くのだ。ノーマルタイヤというのは正直オフロードに向いていない。オンロードタイヤと言って良いだろう。しかし、今回のコースでグリップ不足を感じるシチュエーションは皆無だった。それほどノーマルの状態でのバランスが良いといえるだろう。
前評判的にはオフ性能が下がって、アウトドアアクティビティに振ったモデルという噂だったのだが、全く違う。やはりジムニーと銘打たれた車両はオフロード性能は抜群。スズキは一切手を抜いていないのだ。


モータージャーナリスト 那須一博さん
▷ジムニーノマド速攻カスタム
自動車誌MOOK『ジムニー ノマド購入ガイド』より




