世界的カルチャーブランドの挑戦が示す再解釈の力

デウス エクス マキナの新たな挑戦が、BMW R12を用いた“Trail Breaker”として形を成した。2006年、オーストラリアで誕生したこのブランドはサーフィン、モーターサイクル、アート、音楽、ファッションが融合した文化を尊ぶカルチャーブランドとして瞬く間に世界中の熱狂的ファンを獲得してきた。単なるアパレルの枠に留まらず、カフェ併設の店舗を通じてその土地の文化や人々との結び付きを重視し、生活の綾を彩るライフスタイルを提示し続けている。

そのデウスが、BMW Motorradが送り出す最新のロードスター「R12」に手をかけた。オーストラリア・シドニーに拠点を置く同ブランドの工房で、チーフカスタムビルダーとして腕をふるうジェレミー・タガンが、その“再解釈”に挑んだ。R12という機械を再解釈するのではなく、その精神と可能性を見出す作業であり、まさにTrail Breakerという名が象徴する荒野を切り拓くアドベンチャーマシンへと昇華させた一台である。

ミニマルカスタムで宿す─DNAフィルターとライディングジャケットの融合

最小限にとどめられたカスタムの方向性に注目したい。その顕著なポイントが露出したDNAフィルターであり、存在感と機能性を無駄なく融合させた大胆な仕掛けである。さらに、ライディングジャケットを再利用したシートは、レザーの風合いと着用感が融合し、使い手に馴染む佇まいを纏う。元々の装備をあえて再生し、新たな相貌を与えることで、過剰な装飾に頼ることなく、乗り手との距離を縮める演出として機能する。

Trail Breakerは「ミニマルであるがゆえに最大限の個性を放つ」という哲学を体現している。余分なパーツを削ぎ落とすことで、ライダーとマシンが一体になるような親密さを生み出し、走る喜びを最大化するデザインを実現した。

サンドブラストが描く無骨さと機能美の調和

無骨な質感を生むサンドブラスト加工は、塊感と風化感の中に機能美を見せるための仕掛けだ。金属の表面に歴戦の傷跡のような風合いを与え、舗道だけではなく荒野さえも容易に走破できそうなタフさを醸し出す。その上、ブルーに輝くデウスバッジがアクセントとして配置され、サーフカルチャーを想起させる鮮烈な彩りを民俗的な渋さの中に添える。

細部に宿るデザインは、シンプルでありながらストーリーを語る。Trail Breakerは単なるバイクではなく、道具としての必然性と造形美を同時に追求した一台だ。洗練されたフォルムの中に、冒険者の魂を刺激する無骨さが息づいている。

荒野への扉を開ける“Trail Breaker”、その次なる一瞬へ

ジェレミー・タガンがサインをするかのように完成した“Trail Breaker”は、静かに荒野への扉を開いた状態にある。アクセルをひねるだけで、乾いた風と砂埃と共に、新たな旅が始まる。そこには舗装路という名の既成路線ではなく、未知の地形と出会いを求める冒険が待っている。

Trail Breakerという一台は、BMW R12という機械を使った単なるカスタムという枠を超え、ブランド哲学そのものを体現する存在となった。世界に展開するフラッグシップ店舗で発信される地域文化と創造性の融合に通じるアプローチが、この一台に凝縮されている。

このTrail Breakerを通じて提示されたのは、バイクを“所有する乗り物”ではなく、“共同体験を描く相棒”として再定義する視点だ。ミニマルであるがゆえに、乗り手の感覚と感情を揺さぶる余地を残し、その余白が冒険の予感を生む。そしてその余白こそが、未来のライドスタイルを映し出す鏡となる。

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