BMW 320i M Sport
ベーシックグレードがもたらす安心感

クルマを購入する際、どのグレードを選ぶべきか悩む人は少なくない。多くの場合、グレードまで一点突破型の選び方だが、年間数百台も試乗するようなガチ勢の自動車ジャーナリストに訊くと、たいていベーシックグレードを勧めてくる。
理由は明快だ。幅広いラインナップを持つモデルでは、上級グレードと同じスタイリングをより安価に手にできる満足感があるうえ、そもそも上級グレードにトゥーマッチ感があり、ベーシックグレードの「これでいいじゃん」という雰囲気にむしろ安心感すら覚えるためかもしれない。
その意見に賛否両論あろうが、正直私もベーシックグレードでいいかなと思う。特にファミリーカーを買うなら最廉価グレードを選ぶだろう。そんな前提に立ち、今回試乗したのはBMWのエントリーサルーン「3シリーズ」の現行モデルとなるG20型3シリーズの”ほぼ”エントリーグレード「320i」だ。本当の最廉価グレードたる318iに試乗したかったが試乗車がなかった。
守旧派クルマ好きに刺さる佇まい


7代目3シリーズにあたるG20型は2019年デビューなので、すでに6年が経過している。3シリーズは概ね7年周期でフルモデルチェンジをしているので最熟成期と言っていいだろう。
G20型は先代と比較して当時の時流に合わせて大型化している。全長が70mm(ホイールベースは40mm)延び、全幅が25mm拡大した。試乗した320iはMスポーツなので程よいローダウンが純粋にかっこいい。標準モデルで重心が10mm下がっているという。この佇まいだけで、守旧派のクルマ好き50代オジサン(私だ)にズバッと刺さる。
試乗車はさらに19インチアロイホイール、Mスポーツブレーキ、アダプティブMサスペンション、バリアブルスポーツステアリングを含むファストトラックパッケージ(40万円)をオプション装備。また、Mスポーツパッケージプロ(13万9000円)も加えオプション総額146万8000円となかなか痺れる追加料金となっていた。素の良さを探究しようという所期の目的からそれるが試乗車の都合は仕方ない。ちなみに車両本体価格は試乗時点では690万円だったが、この7月に724万円に上がっている。
室内は古めかしさを感じるが





今時珍しいグリップ型のドアハンドルを引いて乗車する。最近は空気抵抗を重視してフラッシュサーフェスが多く、燃費には貢献するだろうが開閉がスムーズでないドアも多い。このグリップハンドルはありがたい。
インテリアでまず目に飛び込むのは最新BMWのカーブドディスプレイだ。この辺りの先進性は、上位グレードでもベーシックグレードでも変わらない。かつて「8シリーズ」で導入されたBMW OS 7.0によるインフォテイメントのロジックは、そのとっつきにくさ故に2001年登場の初期「iDrive」を彷彿させたものの、今ではこれより前の世代を古く感じてしまうほど馴染んでいる。3シリーズは2022年のマイナーチェンジを経てOS 8.5となり、さらに使い勝手が向上した。だが、まもなく登場するだろう新世代「ノイエ クラッセ」以降の次期3シリーズでは、またしても大いなる進化、つまり第3期“とっつきにくさ”が予感される。
Mスポーツシートパッケージ(38万8000円)を装備しており、サイドサポートが大きくスポーティなのに快適。ドライビングポジションは座面高やステアリングのチルトも調整幅が大きく、吟味しながらじっくり調整するとバッチリと決まる。
マイナーチェンジでセレクタレバーが小型化される一方でステアリングスイッチも含めて物理スイッチが多く、試乗中にやや古さを感じる瞬間もあった。物理スイッチを古めかしいと感じるのは自分自身驚きだが、目線を外さずに触覚だけで操作できる物理スイッチを残してくれたことが、むしろドライバーのことを考えているようにも思う。
日本市場の芯をとらえたチューニング


搭載されるエンジンは2.0リッター直4ターボで、最高出力135kW(184PS)/5000rpmとやや控えめ。これは日本市場のために用意されたという専用チューンだというが、それでも最大トルク300Nm/1350〜4000rpmのトルクといつものZF製8速ATが組み合わされるので走りに不都合はなく、芯をとらえたチューニングだと言える。ちなみにタコメーターは6500rpmからイエローゾーンで7000rpmからレッドゾーンとなっていた。
車重は意外と軽量な1550kg。試乗車はサンルーフを装備しており車検証表記は1590kgだったが、それでも現代の基準に照らせば軽い。この車重なら300Nmあれば十分に坂道を駆け上がれる。アイドルストップからの走り出しでエンジン始動時にブルンとするあたりにやや古さを感じた場面もあったが、これは直前に48Vマイルドハイブリッド車に乗っていたせいかもしれない。
試乗車はアダプティブMサスペンションを装備していたこともあって、乗り心地はMスポーツという名に恥じぬ、低い車高に見合った硬さだ。市街地で耐えられないほどではないが、一般道ではなく高速道路をやや飛ばして走る方が快適だろう。定番モデルのベーシックグレードとはいえ、今や700万円超級の高級サルーンとなった3シリーズ。しかし現在の円安を考えると、当分この価格は揺らがないだろう。
SPECIFICATIONS
BMW 320i Mスポーツ
ボディサイズ:全長4720 全幅1825 全高1440mm
ホイールベース:2850mm
車両重量:1550kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1998cc
最高出力:135kW(184PS)/5000rpm
最大トルク:300Nm/1350〜4000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前225/40R19 後255/35R19
車両本体価格:724万円

