ハーレーダビッドソン・ローライダーST……322万800円~(2025年7月3日発売)

2022年シーズンのニューモデルとして登場したローライダーST。当時の価格は306万200円~だった。4シーズン目を迎えた今年は、マフラーを右2本出しから2本出しとすることで、サドルバッグの形状が左右対称となった。
こちらは2024年モデルのローライダーSTで、価格は316万5800円~だった。こうして見比べると、従来型は右側のサドルバッグが小さかったことが分かる。
真後ろから見ると、左右サドルバッグのサイズが揃っていることが分かる。具体的な数値を見つけることは叶わなかったが、容量もだいぶ増えているはずだ。
従来はエンジンのカバー類やマフラーなどの主要パーツをブラックで統一した“ブラックトリム”のみだったが、2025年モデルでは一部の車体色(グレー、ブラック、ブルー)について“クロームトリム”も新設定。カラーバリエーションは2024年シーズンの4種類から、今年は5色8パターンへ。最も高額な組み合わせはミッドナイト・ファイアーストーム+ブラックトリムで、合計金額は356万1800円となる。

新設のライディングモードでキャラクターが大きく変化

遡ること8年前。ハーレーダビッドソンのラインナップに衝撃的な改革があった。長年別々に歩んできたソフテイルファミリーとダイナファミリーが、2018年シーズンをもって統合され、新しいフレームおよびエンジンとともに生まれ変わったのだ。リヤショックを巧妙に隠したソフテイル・デザインの新型シャシーに、新設計の空油冷45°Vツイン“ミルウォーキーエイト”をリジッドマウントで搭載。この統合されたグループは「クルーザーファミリー」と名付けられ、現在までその系譜が続いている。

今回紹介するのは、そのクルーザーファミリーに属するローライダーSTの最新型で、初登場は2022年だ。1986年から1990年代半ばまで販売されていた「FXRT」をモチーフに、日本人デザイナー・ダイス長尾氏が手掛けたモデルである。筆者は写真を見た瞬間に一目惚れした一人であり、特に2022年に即完売となった「エルディアブロ」という限定カラーには、胸を打ち抜かれたといってもいい。

まずはエンジンから。ローライダーSTは、初出の2022年モデルから最も大きなミルウォーキーエイト117(1923cc)を搭載してきた。他のクルーザーファミリーが107ci=1745ccや、114ci=1868ccなどの排気量を採用しているのとは対照的だ。最新の2025年モデルは、ライディングモードのセレクターが新設されたほか、マフラーは2in1タイプとなった。

クルーザーファミリーに搭載されている1923cc空油冷4ストロークOHV4バルブ45°V型2気筒エンジンは、最高出力92.3PSのクラシック、104.4PSのカスタム、そして115.6PSのハイアウトプットという3つのバリエーションがあり、ローライダーSTは最もパワフルなハイアウトプットを搭載する。2025年モデルはライディングモードのセレクターが採用され、スポーツ/ロード/レインのそれぞれでエンジン特性とともにABSやトラコンの介入度も変化。加えて、レッドゾーンの始まる回転数を5600rpmから5900rpmへと引き上げている。
充填効率とピークトルクを向上させるヘビーブリーザーインテーク。側面のエンブレムに“HIGH OUTPUT”の文字が見える。
マフラーは、クルーザーファミリーの主流であったツインサイレンサーから、2025年モデルは新設計の2in1タイプへ。

低いソロシートに腰を沈め、エンジンを始動する。デュアルカウンターバランサーの効果により、リジッドマウントとは思えないほど振動は抑え込まれており、アイドリングの900rpm付近でも不快な揺さぶりはない。それでいて、大排気量Vツインに秘められたエネルギーは、鼓動やサウンドとともにしっかりと伝わってくる。

ギアをローに入れ、クラッチをつなぐ。すると、スロットルをほとんど開けていないのに車体がグイグイと前へ出る。思わずリヤブレーキでその勢いを抑えてしまったほどだ。つい先日、同じく1923ccのハーレー・ストリートグライドウルトラを試乗したばかりだか、それよりも明らかに力強いというか、トルクが漲っているのだ。ローライダーSTの方が70kgも軽いという事実が、そのまま体感にも現れている。

一般道で回せるのはせいぜい3000rpmまで。その範囲ですら燃焼一発ごとの蹴り出し感から、1923cc分のトルクの厚みが嫌というほど伝わってくる。ガバッと大きくスロットルを開ければ、それこそ突進と表現できるレベルの加速力を見せる。だが、そこに不思議と凶暴性を感じないのは、体に伝わる振動の少なさや、右手の動きに対する従順さによるものだろう。

ライディングモードは、スポーツ、ロード、レインのそれぞれで明確に差別化されている。最もパワフルなスポーツモードでは、シートの上で腰がズレるのがはっきり分かるほどの瞬間移動を見せる。しかもアイドリングのすぐ上からだ。これに対して、文字通り雨天走行向けのレインモードは、全域でレスポンスが穏やかになるが、かつてのCVキャブほどのタイムラグはなく、総じてどんな路面状況においても扱いやすい。そして、この二つの中間にあるロードモードは、ミルウォーキーエイト117の力強さが全域で味わえる一方で、ライダーが望む以上の加速をひけらかすことはない。このように一つのエンジンで3つのキャラクターをしっかりと作り分けてくるとは、もう見事というほかないだろう。

これぞハンドリングマシン、防風効果&積載性も満足度大

クルーザーファミリーのフレームは、ハードテイル風に見せるというコンセプトこそ旧ソフテイルファミリーに通じる。だが、リヤサスペンションのショックユニットの位置からして、この二つは別物だ。旧型はエンジン下部に2本のショックを水平に配置するのに対し、現行型はシート下に1本というレイアウト。リンクレスのカンチレバー式と言ったら分かりやすいだろうか。

リジッドサス(ハードテイル)のように見せながら、実はリヤサス機構を隠し持つというのが旧ソフテイルフレーム。クルーザーファミリーはそのコンセプトを継承しつつ、リヤショックをシート下に置くという新しいレイアウトを採用した。ローライダーSTのショックユニットは、油圧式プリロードコントローラーを備えている。

ローライダーSTは、兄弟車のローライダーSとともに、長めのリヤショックを採用することでホイールトラベル量を増やしつつ、キャスター角を28°と立ち気味に設定。これによる効果は絶大で、ハンドリングは極めてナチュラルなのだ。323kgという車重は決して軽くはないが、動き出してしまえば微速域からフラつきにくく、入力に対する反応は非常に軽快だ。舵角の付き方はネイキッドのようにニュートラルであり、バンク角も十分に確保されているので、ワインディングロードを快走することも可能だ。

高速コーナーの切り返しでは、カウリングによる慣性マスや空力による重さを感じるが、気になったのはその程度。フロントフォークの作動性が素晴らしいので、旋回中の安心感は絶大だ。加えてシャシー全体の剛性も非常に高いことから、現行のクルーザーフレームはかつてのダイナファミリーよりもスポーティであることを実感した。

ホイール径はフロント19インチ、リヤ16インチで、標準装着タイヤはミシュラン・スコーチャーだ。倒立式テレスコピックフォークのインナーチューブ径はφ43mmで、シングルカートリッジを採用する。フロントブレーキはダブルディスクだ。

2025年のクルーザーファミリー全7機種のうち、フロントに倒立式フォークとダブルディスクブレーキを採用するのは、ローライダーのSTとSのみだ。300kgオーバーの車体を軽いレバー入力でしっかりと減速させられるのは、単にブレーキのストッピングパワーが高いだけでなく、それを受け止められるフォークおよびフレームの剛性が高いからだ。しかもコントロール性は優秀であり、自在に速度調整できるからこそ、このマシンをスポーティに走らせたくなるというものだ。ローライダーSTは、リーンアングルを加味した高度なABSやトラコン、そしてエンブレを軽減するDSCS(ドラッグトルクスリップコントロールシステム)を採用しているので、これらも大きな安心材料となっている。

カウリングによる防風効果は、175cmという筆者の身長の場合、ヘルメットの上半分に適度な風圧を感じるものの、一般的なネイキッドよりは明らかに快適であり、大型スリットによる風切り音も皆無だ。そして、やはり便利だと感じたのは標準装備のサドルバッグで、宿泊を伴うツーリングもこれさえあればスマートに荷物が運べるだろう。

ハーレーの現行ラインナップにおいて、ローライダーSTは間違いなく1、2を争うほどオールマイティな位置付けだ。特にアイコンであるカウリングは、デザイン性に優れるだけでなく、機能的にも申し分なし。これを遠いアメリカで日本人デザイナーが手掛けたことを誇らしく感じている。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

ステップの位置はミッドコントロールで、バンク角は十分に確保されている。スリムなソロシートは、強烈な加速に対してライダーの腰をしっかりと支えてくれる。
シート高は715mmで、これは原付一種のスクーターと同等か、それ以上に低い。足着き性はご覧のとおり優秀で、323kgという車重を両足でしっかりと支えられる。

ディテール解説

フレームマウントのカウリングから、グランドアメリカンツーリングファミリーのロードグライドのような雰囲気をも漂わせるローライダーST。しかし、カウリングの内側は非常にシンプルであり、ロードグライドとうまく差別化を図っている。
ハンドルクランプに埋め込まれるように存在した液晶メーターは、2025年モデルで4インチ径のアナログタイプへ。内部の液晶ディスプレイは小さいながらも実に多機能で、数字によるタコメーター表示も。
一新されたスイッチボックス。パッシングスイッチは人差し指で操作しやすい位置へと移動したほか、ライディングモードの選択ボタンが追加された。クルーズコントロールを標準装備する。
ディープソロシートを標準装備。リヤショックのプリロードを調整する際は、このシートを取り外す。
1986年に発売されたFXRTからインスピレーションを得てデザインされたカウリング。数値流体力学(CFD)や風洞実験、実走テストなどを経て完成したという。LEDヘッドライトはφ146mm径だ。
2025年モデルで前後のウインカーはLEDとなり、テールランプのデザインも変更された。
サドルバッグ(パニアケース)は工具なしで取り外し可能。最大許容荷重は6.8kg(片側)だ。
ステアリングヘッドの左側下方にはUSB-Cポートが設けられている。

ハーレーダビッドソン・ローライダーST 主要諸元

【ディメンション】
全長 2,360 mm
幅 890 mm
シート高、非積載時 715 mm
最低地上高 145 mm
レイク 28
トレール 145 mm
ホイールベース 1,615 mm
タイヤ、タイプ Michelin™ Scorcher 31、フロントおよびリヤ
タイヤ、フロント仕様 110/90B19 62H BW
タイヤ、リア仕様 180/70B16 77H BW
燃料容量 18.9 L
オイル容量(フィルターあり) 4.7 L
車両重量 323 kg
ラゲッジ積載容量(容積) 0.056 m3

【エンジン】
エンジン Milwaukee-Eight™ 117ハイアウトプット
ボア 103.5 mm
ストローク 114.3 mm
排気量 1,923 cc
圧縮比 10.3:1
フューエルシステム 電子シーケンシャルポートフュエルインジェクション(ESPFI)
エキゾースト 2-1、キャタライザー(ヘッダー)

【パフォーマンス】
エンジントルクテスト方法 EC 134/2014
エンジントルク 173 Nm
エンジントルク(rpm) 4000
馬力 114 HP / 85 kW @ 5020 rpm
リーンアングル、右(度) 31.3
リーンアングル、左(度) 31.3
燃費テスト方法 EU 134/2014
燃費 5.6 L/100 km

【ドライブトレイン】
プライマリードライブ チェーン、ギア比: 34/46
ギア比(全体)1st 9.311
ギア比(全体)2nd 6.454
ギア比(全体)3rd 4.793
ギア比(全体)4th 3.882
ギア比(全体)5th 3.307
ギア比(全体)6th 2.79

【シャシー】
フロントフォーク シングルカートリッジ43 mm、アルミフォークトリプルクランプ、シングルレートスプリング
リアショック フリーピストン式コイルオーバーモノショック、56 mmストローク、油圧式プレロード調整
ホイール、オプションスタイルタイプ 放射状仕上げのブラックアルミキャスト
ホイール、フロントタイプ クローム、放射状仕上げのアルミキャスト
ホイール、リアタイプ クローム、放射状仕上げのアルミキャスト
ブレーキ、キャリパータイプ フロント: 4ピストン固定、リア: フローティング2ピストン
ブレーキ、ロータータイプ ブラック、スプリット7スポークフローティングローター(フロント&リア)

【電装】
ライト(各国の規制に準じる)、ヘッドランプ、テール/ストップ/フロントシグナルライト ヘッドランプ: 全てLED、ロービーム、ハイビームとシグネチャーポジションランプ、テール/ストップ: LEDバフェットテールランプ、フロントシグナルライト: LEDブレットターンシグナル
ゲージ 4インチのアナログスピードメーター。ギア、オドメーター、燃料計、ライドモード、ヒートギア、トラクションコントロール、ABS、TPMS、クルーズコントロール、時計、区間走行距離、航続可能距離範囲、タコメーターをデジタル表示