「アイオニック5N」によるワンメイクレースに参戦
突然ですが、クルマでレースしたことありますか? “クルマでレース”と言っても「車内でレース編みする」とかではなく、競争するほう。よほどの走り好きじゃない限り、けっこうハードル高いですよね。
何を隠そう、自動車ライター歴20年を超える筆者も同様。速いクルマも運転も大好きだけど、レースといえばゲームの世界かここ数年趣味にしているレーシングカートくらい。(カートじゃなくて)実車を使ったレースをするのは遠い世界の話と思っていた。
そんな筆者のところに「レースに参加してみませんか?」というお誘いが。聞けばナンバー付きの市販車でEV(電気自動車)のワンメイクレースをやるというじゃないですか。まずはエキシビジョン戦として、自動車メディアを対象にレースをするという。
使うクルマはヒョンデの「アイオニック5N」。といってもスタイルワゴン読者の多くはおそらく「ヒョンデって韓国の自動車メーカー? アイオニック5ってモダンなデザインのEV?」くらいしか認識がないと思うけど、何を隠そうこのクルマが結構スゴイ。本気のスポーツカーなのだ。
まず「N」っていうのはヒョンデのスポーツブランドで、メルセデス・ベンツでいえば「AMG」に相当し、BMWでいえば「M」だし日産でいえば「ニスモ」そしてトヨタでいう「GR」だと思えばいい。アイオニック5の場合「N」の凄さは、モーター出力を見るだけでもわかる。普通のアイオニック(の高性能仕様)がフロント100ps+リヤ244psのトータル344psなのに対し、アイオニックNになるとフロント238ps+リヤ412psで合計650psにもなるのだ。参考までに国産車最強を誇る日産GTーRの高性能仕様「NISMO」の最高出力は600psだから、それを超える。この「N」はどれだけスゴイのよ?って話だ。
でも、単にパワフルなだけじゃないのがアイオニック5Nの面白いところ。前後の駆動力配分を任意で調整でき、ドリフトを楽しむのに最適な制御とする「ドリフトモード」も搭載。そのうえで、有段トランスミッションを持たないEVながら、制御によって仮想的なトランスミッションを盛り込んで、パドルを操作することでエンジン車を運転している感覚を作り出しているのも面白い。単に“段付き”の加速を再現するだけでなく、シフトアップをさぼるとレブリミットに当たったり、その後のシフトアップではリアルな音やシフトショックが発生するという演出も見事。これまでにないEV体験は、まるで「EVのスポーツドライビングはつまらないなんて誰が言った?」とでも言っているかのようだ。ここで明らかにしておくが、その体験はお世辞抜きに楽しい。他メーカーのエンジニアからも「あのロジックは面白い」という声が飛び交っているほどだ。
電費を稼ぐ作戦で挑んだものの……
ちなみにこのレースのもうひとつのテーマが「日常からレースまでを1台で」。筆者もレース数日前からアイオニック5Nをパートナーとして仕事から日常まで共に過ごした。モンスター級のマシンながら、走りはスムーズだし室内も広くて快適。そのまま(レース用にカスタマイズすることなくノーマル状態で充電だけしっかりして)サーキットへ乗りつけてレースをしたわけだけど、ここまでオールマイティ性を持つクルマもなかなかない。



さて、肝心のレースはどうか?
この日参戦したメンバー7人はみんな自動車ジャーナリストだけど、なかにはレースに出場しまくっていたり、かつて世界的なレースに参戦していた強者も。そんな人たちを相手に正攻法で戦っても勝てるわけはないので、筆者は「ゴールした順番とバッテリー使用量をそれぞれ得点化し合計点で順位を決める」というこのレースの独自ルールを活用して「速さは抑えつつも消費電力を減らして上位に食い込もう」という作戦を敢行。ここで声高に宣言しておくが、レースとは単純に速ければいいってものではないのだよ(笑)。
そんな作戦の下にトップ集団のペースは気にせず、「空走」を多く活用して電気を節約しながら自分のペースで電費を伸ばす走りをした筆者。自分で言うのもなんだけど、でんこちゃん(某電力会社の節電キャラクター)にも喜んでもらえそうな素晴らしい走りだった(自画自賛!)。
というわけで結果は……とりあえずナイショとしておこう(すべてを語らせないで!)。ただ、レース自体はとても楽しかったし、アイオニック5Nのハイパフォーマンスっぷりと運転する歓びも十分に堪能。もちろん帰り道もそのまま自走で帰り、レースで疲れた身体も癒してくれる快適性をしっかりと堪能したのは言うまでもない。
次回はリベンジを果たすぞ!
さらに高性能なDKエディションにも試乗

STYLE WAGON(スタイルワゴン) 2025年9月号 No.357より


