世界市場での存在感アップを狙った2台の新型車
BSAブランドが復活する。正確には2016年に、インド二輪大手マヒンドラ社が起ち上げた子会社/クラシックレジェンズ社が新たにBSAのオーナーとなり、その時点でBSA復活がアナウンスされていた。そして2021年に新型車「ゴールドスター650」を発表。英国や欧州の一部で発売を開始し、日本をはじめ北米や東南アジアでも2025年春から販売が開始されたことも話題となった。それに続く第二第三の矢が「バンタム350」であり「スクランブラー650」である。これまで慎重に復活の道を歩んできたBSAが一気に2台の新型車を発表し、また「ゴールドスター650」発表時には英国メディアを対象としたこぢんまりとした発表会だったが、今回は欧州各国およびアジアを対象とした本格的な試乗会および発表会となり、その気合いの入れように、復活の第二章が幕を開けた、という印象だ。
BSAはかつて、英国最大のバイクブランドだった。排気量は250ccから750ccまで、単気筒/2気筒/3気筒のエンジンを有し、工業大国イギリスを代表する、工業製品としての二輪車の高い価値を造り、その市場を牽引していたのがBSAだったのだ。その規模や先進性は世界的にも抜きん出て、1950年代からはトライアンフをも傘下に収めていた。しかし1960年代に入ると日本車の台頭によって徐々に輝きを失い、1973年にBSAブランドは消滅した。

「スクランブラー650」は、ゴールドスター650とエンジンを共有。フレームの一部も共有しているが、オフロードスタイルの「スクランブラー650」に合わせてフレームのフロントパートがアレンジされている。このオンロードモデルとオフロードモデルでプラットフォームを共有していること、また大排気量単気筒エンジン/いわゆるビッグシングルエンジンを採用していることは、かつて世界を席巻したBSAモデルのアイコニックなディテールと言える。したがってBSAがBSAとして二輪市場に復活したことをさらに強くアピールし、近年の二輪市場で盛り上がりを見せている中間排気量カテゴリーにおいてBSAブランドの存在感を高めるには、ゴールドスター650に次いでビッグシングルエンジン搭載モデルの「スクランブラー650」をラインナップにくわえる意義は大きい。

「バンタム350」も同様だ。BSAを世界の二輪市場で戦えるブランドにするためには、各地域で存在感を増す350ccという排気量のエンジンをチョイスすることは、マーケティング戦略において欠かせない項目だ。しかもBSAを展開するクラシックレジェンズ社は、チェコ生まれのJAWA Motorcycle(ヤワ・モーターサイクル)や、インド生まれのYezdi(イェズディ)のブランドを持ち、それらはすでにインド市場向けに独自に設計した350ccモデルを展開している。そのプラットフォームを活かせば、すでに市場投入しフィードバックを受けていることによって信頼性を高めつつ開発コストを抑え、ライバルブランドたちと渡り合える低価格での販売も狙える。そこでの「バンタム350」の職責は、スクランブラー650やゴールドスター650が背負うそれとは方向性が異なるが、BSAブランドを世界の二輪市場に広めるという大義に変わりないのである。
スタイルも乗り味もロードスターのど真ん中、な「バンタム350」
「バンタム350」は、排気量334cc水冷単気筒DOHC4バルブエンジンをスチール鋼管フレームに搭載したネイキッドロードスターだ。フロント18インチ/リア17インチというホイールを正立タイプのフロントフォークと、リアツインショック+スイングアームで支えている。BSAから出されているプレスリリースにはティアドロップ型燃料タンクと紹介されているが、実際はキャラクターラインがしっかりとデザインされていて、ティアドロップ型燃料タンクがかもし出すレトロ感とは少し違う、レトロとモダンの中間的なカタチ。その燃料タンク、前後ホイールサイズや前後サスペンションによって構成されるシルエットは、モダンすぎずレトロすぎず、じつにニュートラルなロードスタースタイルと言える。



今回の試乗会で設定された試乗ルートは、ロンドン市街を中心とした約50kmのルート。そのほとんどが渋滞していて、またスピードチェックカメラがいたるところにあり、20マイル/h(約35km/h)から30マイル/h(約50km/h)という速度での走行がほとんどを占めた。しかし「バンタム350」は、そういった状況での走行、ようするにエンジンの低回転域をつかった低速走行を考慮した車体セットアップおよびセッティングもしっかりと造り込まれていた。街中では3速あたりを使っていれば何の問題も不満も無いが、あえて使用エンジン回転数や速度域に対して高いギア/4速や5速、ときには6速も使って走ってみる。さすがに街中で6速を使うとギクシャク感が出て、乗りづらくなるが、4速や5速なら2-3000回転あたりでも十分に使える。市街地での度重なるシフトチェンジをサボる省エネ・ライドも可能というわけだ。


そしてやっとの思いで郊外に出て高回転までエンジンを回すと、市街地でのストレスが吹き飛ぶほどの快感を味わうことができた。エンジンが5000回転を超えたあたりからエンジンのビート感が高まり、そこからのエンジンの伸びも良い。そこから6-7000回転付近までエンジンを回すことができたが、そこでの気持ちよさ、そしてパンチ力はDOHCエンジンならでは。ライバルとなるネオクラシック・モデルたちの多くがSOHCエンジンを採用し、低回転域での扱いやすいトルク特性をモデルキャラクターの中心に据えていることから、この違いと高回転域での気持ちよさは「バンタム350」の強みと言えるだろう。
あの日本を代表する単気筒バイクのネタ元が「スクランブラー650」として新登場
唐突な話だが、ヤマハSR400/500シリーズのベースとなったヤマハXT500は、アメリカの砂漠などを走るBSAのスクランブラーモデルが、開発初期のイメージソースになっていた。それはゴールドスター・スクランブラーやB50スクランブラーであり、腹の底に響く4ストローク単気筒エンジンの排気音と分厚いトルクで、重い砂漠の砂を巻き上げながら快走していた。それらのBSAのスクランブラー・モデルは、軽量ハイパワーなオフロードモデルが数多く開発された70年代においても憧れの存在であり、世界中のライダーの心に本能的に訴える魅力を持ち合わせていたのである。


そのBSA黄金期のスクランブラーモデルをイメージソースに、現代に甦ったのが新生BSAの新型スクランブラーが「スクランブラー650」だ。排気量652cc水冷単気筒DOHC4バルブ・ツインスパークのドライサンプエンジンを、スチールパイプ製のダブルクレードルフレームに搭載。このエンジンやフレームといったプラットフォームは、先に発売された「ゴールドスター650」と共通だ。しかしフロントホイールの19インチ化やフロントフォークの延長などスクランブラースタイルの構築によって、フレームのフロントパートを変更。またリアサスペンションやシート形状も変更。それらによってシート高は820mmとなり、ゴールドスター650に比べ38mm高くなっている。


エンジンはなかなかに面白い。ビッグシングル特有のエンジンの鼓動感や振動、それに唐突とも言える力強いトルクを想像していたが、ふたつのカウンターバランサーを装備したことで振動を大幅に軽減。どのエンジン回転域からでも驚くほどシルキーに加速していく。また最大トルクの約70%を1800回転ほどで発生するようにセッティングされており、エンジンを回さずともスルスルと車体を前に押し進めていく。力強さは感じるもの、荒々しさを感じないとても扱いやすい低回転域であった。また、わずかな時間であったが試すことができた高回転域では、DOHCらしい伸びの良さとパンチ力を楽しむことができた。それはビッグシングルであることを忘れてしまうほどであり、次回は是非ワインディングや高速道路でも走らせてみたいと強く感じたのだった。
いまやネオクラシックモデル花盛りで、各ブランドが個性豊かなモデルを展開している。そのなかにあってBSA「スクランブラー650」は、数少ないビッグシングルを抱き、そのキャラクターも、モデルの背後に流れる物語も豊かで興味深い。チャンスがあれば、日本のライダーにも是非試して欲しい一台である。
「バンタム350」のライディングポジション&足つき(170cm/65kg)


「バンタム350」ディテール解説





「スクランブラー650」ディテール解説





「バンタム350」主要諸元

■ホイールベース 1,440㎜■シート高 800mm■キャスター角 29度■装備重量 185㎏■エンジン形式 水冷単気筒4ストロークDOHC■総排気量 334㏄■圧縮比 11:1■最高出力 29hp@7,750rpm■最大トルク 29.62Nm@6,000rpm■燃料タンク容量 13L■サスペンション(前・後) 正立タイプ/135mmトラベル・ツインショック5段階調整機構付/100mmホイールトラベル■変速機形式 6速リターン■ブレーキ形式(前・後)320mmシングルブレーキディスクABS付・240mmシングルブレーキディスクABS付■タイヤサイズ(前・後) 100/90-18M/C 56H・150/70-ZR17 M/C 69W■車両価格 ¥698,500(税込) バレルブラック、オクスフォードブルー、ファイアクラッカーレッド
「スクランブラー650」主要諸元

■ホイールベース 1,463㎜■シート高 820mm■キャスター角 26度■装備重量 218㎏■エンジン形式 水冷単気筒4ストロークDOHC4バルブ・ツインスパーク■総排気量 652㏄■圧縮比 11.5:1■最高出力 45hp@6,500rpm■最大トルク 55Nm@4,000rpm■燃料タンク容量 12L■サスペンション(前・後) インナーチューブ径43mm正立タイプ・ツインショック5段階調整機構付■変速機形式 5速リターン■ブレーキ形式(前・後)320mmシングルブレーキディスク+ブレンボ製2ピストンブレーキキャリパーABS付・225mmシングルブレーキディスク+ブレンボ製1ピストンブレーキキャリパーABS付■タイヤサイズ(前・後) 110/80-19 ピレリ製スコーピオンラリーSTR・150/70-R17 ピレリ製スコーピオンラリーSTR■車両価格 ¥1,179,200(税込)/ビクターイエロー、サンダーグレー
