Audi A5 TFSI quattro 150kW
車名の異なる後継車として

2024年7月にワールドプレミアされ、今年本邦デビューを果たしたアウディの新主力モデル「A5」に試乗した。新型A5はミドルサイズサルーン「A4」の実質的な後継車に位置づけられる。
なぜ車名の異なる後継車か? 2023年、アウディは2024年以降登場する新型車から、近年の主力だった偶数モデル名(A4、A6、A8)をフル電動車をあてがい、エンジン車は奇数モデル(A5、A7、A9?)にすると宣言し、実際に昨年エンジン車のA5とフル電動車のA6を発表した。しかし世界中で関係者、ステークホルダーのブーイングが鳴り響いたのか、今年3月に登場したエンジン搭載「A6」登場を機に、その方針を転換した。
今後はフル電動車もエンジン車も同じアルファベット(A、Q)と数字を組み合わせ、ボディ形状(アバント、セダン、スポーツバック)とパワートレインコード(電動=e-tron、ハイブリッド=TFSI e、ガソリン=TFSI、ディーゼル=TDI)を連ねるという。以上、クルマそのものとは無関係だが、車名ルール混乱期に登場したモデルとしてA5の背景を説明した。
長年積み重ねた歴史こそがブランドを形成する。1990年代のデビュー以来30年の時を重ねてきたアウディA4には、歴代モデルを買い続けたファンもいるのではなかろうか。「今回からA5なんでよろしく」と言っても、すんなり受け入れ難いこともあるだろう。
WRCマシンを彷彿させるリヤフェンダー


というわけで実質的6代目A4にあたる新生A5は、エンジン車向けの新プラットフォームPPC(プレミアムプラットフォームコンバッション)を採用する最新サルーンだ。ボディタイプは電動リヤハッチゲートを備えたセダンタイプと、アバント(ステーションワゴン)の2種がラインナップされる。
A5は元々クーペやカブリオレ、スポーツバックがラインナップされるA4の亜種とも言えるモデルだったと記憶しているが、今回試乗した「A5 TFSI クワトロ 150kW」はセダン“タイプ”と説明されるだけあって、実際のところ、リヤゲートが備わるスポーツバックなので、セダンに関してはA5的と言える。
ボディサイズは全長4835mm(先代比+75mm)、全幅1860mm(同+15mm)、全高1455mm(同+45mm)、ホイールベース2895mm(同+70mm)で全方位で拡大している。それに倣って車重も2.0リッターガソリンターボAWD同士(A4 45 TFSIクワトロ)で較べると、180kg増の1800kgとかなりの重量級となった。
フロントセクションは、ワイドでフラットなシングルフレームグリルとスリムなヘッドランプが配置される正統派デザインの印象だ。リヤのブリスターフェンダーは、WRCチャンピオンマシンの「アウディ クワトロ」を彷彿させると謳うだけあって、ショルダーが力強く張り出して純粋にかっこいい。
洗練され先進的な室内




試乗車はオプションのラグジュアリーパッケージSファインナッパレザー(77万円)が備わる豪華仕様だ。上質なレザー製Sスポーツシート(ヒーター&ベンチレーション+マッサージ機能)だけでなく、アウディ定番のバング&オルフセン(3Dプレミアムサウンド+フロントヘッドレストスピーカー)などが装備される。
ユーザーニーズに合わせた乗員中心のデザインを導入したというインテリアは、ジャーマンスリーで近年流行中の助手席まで大画面が備わるタイプだ。アウディの場合デジタルステージと呼ばれ、11.9インチアウディバーチャルコクピットと、14.5インチMMIタッチディスプレイで構成され、試乗車はオプションの10.9インチのMMIフロントパッセンジャーディスプレイとヘッドアップディスプレイも備えていた。
「ハイ、アウディ」で起動する音声認識システムが備わるが、乗員の会話に反応するくらいに感度良好。音声コマンドがメーターパネルに表示されるので、コマンドがどのように入力されたのか分かりやすく気に入った。
ステアリングはやや六角形で、アウディのシングルフレームグリルをイメージさせた。好みもあるが私は運転しやすいと感じた。ライトスイッチはドアのミラー調整スイッチの脇にコンパクトにまとめられ、セレクタレバーも時流に乗って小型化し、全般にクリック感などの操作フィールが洗練されている。試乗車はオプションのパノラミックガラスルーフ(33万円)を装備していたが、エレクトロクロミック式なので瞬時に切り替えられ、これも先進的だ。その分、従来と大差ないウインカー、ワイパー、ACCのレバー類はやや古さを感じさせた。
低回転付近の実用域が充実したエンジン

新型A5に搭載されるエンジンは4機種で、駆動方式によって出力が異なる2.0リッター直列4気筒ターボ(FWDは110kW、AWDは150kW)と、2.0リッター直列4気筒ディーゼルターボそして3.0リッターV型6気筒ツインターボがラインナップされる。トランスミッションは全車7速Sトロニック(DCT)が組み合わされる。
今回試乗したA5 TFSI クワトロ 150kWは、2.0リッター直4ガソリンターボのAWDモデルだ。先代までは35、40、45といった少し前の自然吸気排気量を想像させる数値を採用していたが、前述の車名混乱期を経て、最高出力を明記するようになった。ちなみに150kWは204PSで最大トルク340Nmなので先代ガソリンモデルの35(150PS、270Nm)と同45(265PS、400Nm)の中間に位置する。
今回は山間部も含めて200kmほど走行したが、前述の重量増もあって、上り勾配の高速道路では加速がもどかしくなる場面もあった。レッドゾーンは6200rpmから。2.0リッターディーゼルと3.0リッターV6に備わる新48V MHEVプラスシステムが2.0リッターガソリンには備わらず、アイドルストップからの再始動時にどうしてもブルンとする。良くも悪くも実用エンジンといった感じで、低回転付近の実用域が充実している印象だ。2.0リッターガソリンターボは、VTG(可変タービンジオメトリー)付きターボチャージャーを装備しており、低回転域でトルクの立ち上がりが俊敏でディーゼル的な頼もしさを感じた。燃費はリッター15kmを記録したので期待以上だった。
スタビリティとブレーキのタッチは感動的


重量増の影響もあって、ややおとなしめと感じる動力性能だが、山道に入ってからのスタビリティとブレーキのタッチは感動的だ。スポーツグレードのS5には試乗していないが、これ以上の高いレベルであることは想像できる。乗り心地も良好でドライブセレクトでインディビジュアルを選べば、個別にステアリングやサスペンションだけでなく、ドライブアシストやヴァーチャルコクピットレイアウトなど仔細にセッティングできるが、よほどハードな走りを求めない限り、標準モードのバランストを選んでおけば不満はないだろう。
上質な室内と高い安定性、さらにアウディ伝統のAWDを備えながら価格は681万円。円安を考えればお買い得と言えるかもしれない。だが試乗車には前述のラグジュアリーパッケージSファインナッパレザーの他、テクノロジーパッケージプロ(MMIパッセンジャーディスプレイやステアリングヒーター、シートヒーター、ダンピングコントロールSスポーツサスペンション、OLEDリヤライト含む、45万円)など総額236万円分のオプションが装備され、価格は900万円を超えていた。この辺りの多彩なオプションの要不要を見極めるのは、オンライン見積もりでもいいがディーラーに足繁く通い、実際の違いを吟味した方がいいだろう。
※室内解説の項で書かれた「先代はオルガンペダルを採用していた」は、誤りでしたので削除しました。謹んでお詫び申し上げます。(2025.9.8)
PHOTO/GENROQ
SPECIFICATIONS
アウディ A5 TFSI クワトロ 150kW
ボディサイズ:全長4835 全幅1860 全高1455mm
ホイールベース:2895mm
車両重量:1800kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1984cc
最高出力:150kW(204PS)/4300〜6000rpm
最大トルク:340Nm(34.kgm)/2000〜4000rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後225/55R17
車両本体価格:681万円
