6 1/2 Litre Speed6
性能的優位を得るためにさらに排気量を拡大

「3リッター」が成功を収める一方で、W.O.ベントレーの元にはレースの現場からも、一般ユーザーからもさらなるパワー、そしてスムーズさを求める声が届くようになる。そこで彼らは排気量をさらに拡大したエンジンの開発をスタートする。
こうして完成した4 1/2リッター(4.5リッター)直6SOHC4バルブエンジンは、単純に3リッター直4を2気筒増やしたもので、ウェイマン製ツアラーボディをもつ「SUN」と呼ばれたプロトタイプに搭載され、リヨンGPの観戦を兼ねフランスで実走テストが行われた。
その際、たまたま路上で居合わせたロールス・ロイスのプロトタイプと競い合いとなった結果、性能的な優位性が確認されなかったことで、ベントレーは排気量のさらなる拡大を決意。ピストンのボアを拡大し、6 1/2リッター(正確には6597cc)としたというエピソードが残っている。
スポーツ・バージョンとして開発

スタンダード仕様はスミス5ジェット・シングルキャブレターを装着し、149PSを発生。さらに大型化したラダーフレームシャシーは132~152.5インチ(3353~3874mm)まで、いくつかのホイールベースを用意。そこにツアラーやリムジンなど各コーチビルダーによるボディを架装して、合計362台が製造された。
そして1928年、ベントレーは「6 1/2リッター」のスポーツバージョンとして「スピード6」を開発する。その最大の特徴は直列6気筒SOHCエンジンで排気量はそのままながら、圧縮比を5.3:1へと高め、専用のカムシャフト、2基のSUキャブレターの装着などにより、スタンダードを大きく上回る182PSの最高出力を発生した。
組み合わせるシャシーは、138インチ(3505mm)、140.5インチ(3569mm)、152.5インチ(3874mm)と3種類のホイールベースが用意されたが、最も人気だったのは138インチで、1928年から1930年にかけて合計182台が製造されている。
愛称は「ブルートレイン」

さらにベントレーは132インチ(3353mm)のシャシーに、圧縮比を6.1:1に高めて202PSへとチューンしたエンジンを積むレーシングバージョンも開発。初投入した1929年のル・マン24時間ではウルフ・バーナート/サー・ヘンリー・“ティム”・バーキン組のスピード6が従来の最高記録を46秒も更新する7分21秒の新ラップレコードを樹立して優勝。また174周、2844kmの走行距離も新記録となった。
続く1930年もウルフ・バーナート/グレン・キッドストン組のスピード6が優勝。結果としてこれが、W.O.ベントレー時代最後のル・マン優勝となったのである。
またバーナートは、1930年3月にH.J.マリナー製サルーンボディのスピードシックスで、カンヌから特急列車ブルートレインと同時にスタートし、列車がカレーに到着するまでにロンドンの自身のクラブにたどり着くという賭けに勝利。さらにその年の5月に彼の元に納車された、スピード6に流麗なクーペボディを架装したガーニー・ナッティング製スポーツマンクーペが「ブルートレイン」の愛称で呼ばれたことも、6 1/2スピード6のカリスマ性を高めることに貢献した。
忠実に再現したコンティニュエーションを製造

そうした故事をふまえ、ベントレー・マリナーは2023年にすべてを忠実に再現した「スピード6コンティニュエーション」を12台限定で製造、販売することを発表した。
これはW.O.ベントレー記念財団を通じて発見された全体の80%にあたる図面、1929年と1930年のレース間の変更点を詳細に記したオリジナルの整備士ノート、ビューリーのナショナル・モーター・ミュージアムに保存されていた膨大なアーカイブのほか、現存する1930年のル・マン24時間出場車「オールドナンバー3」と、ベントレーが所有するスピード6「GU409」を徹底的に調査したうえで、オリジナル車両と同じ製造工程で製作されるもので、2020年に発表されたブロワー・コンティニュエーション・シリーズでの知見も大いに活かされている。
すでにプロトタイプである「スピードシックス・カーゼロ」は、8000kmに及ぶトラック・テストを終了。十分な機能性、信頼性を確保しており、2025年末までに1台あたり10ヵ月の生産期間を経て納車される予定である。
