RAND ROVER
砂浜に描かれたスケッチとブランド哲学

ランドローバーの起源は1947年に遡る。創始者のモーリス・ウィルクス(Maurice Wilks)が、ウェールズの海岸で砂浜にクルマのシルエットを描いた。「このクルマがランドローバーだ」(The car is the Land Rover.)と公式ストーリー「ABOVE & BEYOND」(≒限界を超えて)で紹介されている。
ウィルクスが思い描いたランドローバーは、高い走破性能と安定した走りを両立させるクルマだった。この理念は創業以来、楕円のエンブレムを持つすべてのモデルに込められている。「未知の領域に挑み、切り拓いていく」精神がランドローバーには息づいている。
ランドローバー「シリーズⅠ」の誕生


最初のランドローバーは、1948年のアムステルダム・モーターショーで公開された「シリーズI」である。第2次世界大戦後の復興期に、農作業や産業用途に使える実用的で頑丈な四輪駆動車を求める声に応える形で誕生した。ボディにはアルミを採用し、シンプルで修理しやすい構造と悪路走破性を兼ね備えていた。
当時のロゴには稲妻のようなジグザグ矢印が描かれており、頑丈さと機械的な力強さを象徴していたとされる。バーミンガムの工場で偶然発案されたとも言われるデザインは、道具としてのクルマを象徴する飾らないデザインだった。
ランドローバー エンブレムの変遷

ランドローバー エンブレムの起源
シリーズⅠに装着された初代エンブレムは、楕円形のプレートに「LAND ROVER」の文字、中央にジグザグ線を描いたものだった。このモチーフについて公式な解釈は示されていないが、米国の正規ディーラー「Land Rover Freeport」は “Land”と “Rover”を結ぶデザインであり、 “Above and Beyond”を視覚化したものだとしている。
緑の意味するもの
深緑の楕円に白抜き文字のデザインが登場したのは1960年代。それ以来、ブランドの象徴としてこのエンブレムが定着した。緑は「自然との共生を示し、英国の伝統色ブリティッシュレーシンググリーンに由来する」(Land Rover Freeport)と解釈される。ランドローバー本社が公式にその意味を明示したことはないが、冒険心と英国らしさを伝える抽象的な記号として、深緑が用いられてきたと理解できる。
楕円は魚の缶詰? 都市伝説的エピソード
ランドローバーエンブレムの楕円形は、大地や地球をイメージしたものと解釈されている。一方で、当時のデザイナーが昼食に食べていた魚の缶詰から発想を得たという説もある。公式資料に裏付けはないため都市伝説の域を出ないが、ファンの間ではブランドの“遊び心”を示す逸話として知られている。
高級化に伴うデザインのアップデート


1948年の誕生以来、ランドローバーはシリーズII、IIIへと進化し、やがて「レンジローバー」を筆頭に高級SUVブランドとしての地位を確立した。これに合わせてエンブレムも洗練され、2000年代以降は光沢感のあるメタリック調仕上げや立体的な表現が採用されている。荒野を駆け抜けるオフロード性能に加え、都市に映えるプレミアムSUVとしての存在感をアピールしている。
縁取りの太さやロゴの書体などは時代ごとにアップデートを続けてきた。一方で、ジグザグの矢印は現在まで継承されている。イギリスの田園地帯からサハラ砂漠、都会の街中まで“どこへでも行ける”万能性を、この小さな楕円が語り続けてきた。
未来のランドローバー


近年、ランドローバーも電動化を進めており、完全電動のSUV「Range Rover Electric」の投入が予定されている。レンジローバー、ディフェンダー、ディスカバリーといったサブブランドも独立した存在感を示し始めているが、深緑の楕円ロゴはいまもなお「冒険と英国らしさの象徴」として受け継がれている。将来的には、どのような形で継承されていくのかが注目される。
