849テスタロッサ登場

ミラノでの発表会にはクーペとともにスパイダーも同時発表され、アセット・フィオラノ(Assetto Fiorano)も準備されていた。登場した新型車は新世代のフェラーリデザインへの積極的な移行を感じる現代的なテーマをもったデザインを纏っていた。まずは造形の構成をご紹介する。

クーペ(下)とスパイダー(上) 最近はスパイダーも同時発表するようにしている。
アセット・フィオラノ(Assetto Fiorano)

エクステリアデザイン

サイドビュー
プロポーションの破綻はない。ティンテッドされた黒いエリアのキャビンから後方に流れるラインは美しく、ミッドシップのシルエットはSF90 Stradaleから受け継がれている。フロントウィンドウはかなり寝ているがAピラーからルーフサイドを通るオープニングラインが前車軸との関係性を保っているので、運動性能の高さを感じることができる。車両の重心位置は間違いなく最良の位置に決まっておりミッドシップの運動性能とともにエンジニアリングパッケージを外観からも感じ取ることができる。

ノーズからテールを貫くシャープなウェッジキャラクターは適正で、力強く盛り上がるリアフェンダーのボリュームは後車軸を過ぎるとルーフから流れるキャビンのカーブに重なり、後端のテールフィンはサイドビューで見る車の流れを切り上げて車全体を引き締めるとともに、この車の極めて高いパフォーマンスを感じさせてくれている。

見事なプロポーションを見せる849 Testarossa

そしてこのサイドのキャラクターラインを縦に分断するブラックのエアインテークが今回の849 Testarossaの最大のアイコニックな特徴である。今回フェラーリではこれを「3Dリベリー( 3D-Livery )」と呼んでいる。
空力性能アップのために彫刻的に深く掘り込まれたサイドインテークへ導くダクトの造形と、それを象徴的に受け止める縦型のブラックパーツは極めて立体的で、性能と形状の高次元での特徴としている。事実このダクト形状とインテークはF80に対して+30%のエア流入量を得られているという。

見事なまでに綺麗に仕上げられた立体的なドアは1枚のアルミニウム合金をホットプレスして成形したというのだから驚きである。彼らはこれをフェラーリの持つクラフトマンシップであるといい、フェラーリだけに残されたものであるという。
この立体的に構成された「3Dリベリー」は建築的でもありテクノロジーとスタイリングの高い次元での融合だと言え、マンツォーニ氏率いるチェントロスティーレが849Testarossaに込めた新たなフェラーリデザインの表現だ。

3Dリベリーと呼ぶ1枚のアルミ合金で成形されたダクト形状とそれを受けるインテークの黒いパーツ。

サイドビューでティンテッドされたガラスとブラックのルーフで黒く見えるキャビンのエリア、ドアとして成形された堀の深いエアダクトとその直後に位置する黒い縦型のインテークは、ジェット戦闘機の一体型キャノピーと機体サイドのエアインテークにつながるイメージだ。フェラーリが伝統的なフェラーリ像を感じさせつつも最新のテクノロジー感を見せる表現を両立させようと試みる象徴的な造形部分であるということができる。

フロントビュー
空気を切り裂き物理特性のなかで高速に移動する物体は凹凸のないシンプルで滑らかな形状になる。フロントフェンダーやフード周囲もほとんど情緒的な造形を廃し極めてスムーズだ。849 Testarossaの性能の高さをデジタル時代のデザインとして敢えて幾何学的に表現した様に感じる。
12CilindoriやF80から続く横一文字のランプ部のバイザー的グラフィックはよりシャープになり、さらにフェンダー側まで回り込むことでノーズ先端を1枚のウィングに見せ、フロントに上下2枚のワイドなスポイラーを作り出している。
849 Testarossaのフロントはそういう進化型のメッセージとなっている。

リアビュー
ボディ後端両サイドに配置されたツインの可動ウィングが特徴だ。すでに横に細長い形状となったテールランプは、テクノロジーとともに進化し変化する表現になっている。丸型4灯をフェラーリの証と考えるユーザーには不満だろう。
ボディ幅いっぱいのディフーザーを含んだリアバンパー部は849 Testarossaのパフォーマンスの証とともに、車両の安定感を表現している。
2本出しの丸型テールパイプこそ特徴を守ったが、この周囲の造形感はそれ以外の部分の表現とややニュアンスが異なっており、気になる部分だ。

プランビュー
前輪から前方に流れるカーブ、Aピラー部から後輪を覆う極めて綺麗なカーブが見える。形状の出入りを抑えた滑らかな表現であり、また前方からフロントウィンドウスクリーンを掠めて両サイドに周り込むエアの流れは確実に3Dリバリー部へ空気を導く。
またリアスクリーンを挟んでツインテールへ連続する台形形状は最近のフェラーリに通じる大胆で整理された立体アイコニックな表現だ。

インテリアデザイン

水平基調のダッシュボードにドライバーのコックピットが融合している、シンプルな形状で、視界の邪魔をしない。特徴的な形状の仕切りはドアトリムにも反復され、ドライバーだけでなく助手席の同乗者にも同等のフィーリング感じさせてくれる。ステアリングとその周囲に配置されたスイッチ類は物理スイッチに戻ってきている。やはり人間の感性に沿ったものだろうと思われる。

今回の展示車両であるクーペのブルーの内装色がとても綺麗だった。シートはタイトではないがホールド性は良い。アルカンターラの生地については改めて語ることもないのだが、外装色も合わせてカラーデザイナーのセンスの良さを感じるCMFであった。

フェラーリデザインとは:

マンツォーニ氏とのインタビュー
発表会の会場で私はフラヴィオ・マンツォーニ氏と話をする時間をいただいた。
世界中のフェラーリファンが、それぞれのフェラーリ観をもち、「らしさ」の表現でもつい外側に見えるディティールモチーフになりがちだ。マンツォーニ氏はそれらについてどう考えるのか。
私は今回の849Testarossaのデザイン開発にあたってチェントロ・スティーレがどの様に考え、進めてきたのかを聞いた。以下は長いインタビューからの抜粋である。

私たちは新型車をデザインする時に、まずニーズをきちんと理解し、そのニーズに応えるためにどういう形状が必要かを考えます。そしてどのようなコンセプトが必要かということについて考え抜きます。技術的なニーズにもすべて応え、ボリュームのアーキテクチャーについて深く考えるのです。4年間にわたる非常に長いプロセスです。しかしそうすることで全体的な、モノの一貫性をきちんと考えることができます。ですから私たちは装飾とか処理だけに集中するわけではないのです。
何か新しいものを作ることに当たって、新しい形状も作り上げる必要があります。過去のエレメントだけを使ってしまえば、おそらくいろいろな人に気に入ってもらえるかもしれませんが、イノベーションに欠けてしまうことになります。そしてまたタイムレスな効果がなくなってしまいます。
3Dリベリーはその考え。幾何学的なエレメントがあると同時に立体感のあるものです。リベリーはグラフィック的な要素ももち、ドアの彫刻的処理と新しい方法で両立させたかったのです。ダブルテールはエアロダイナミクスのチームとともにこのアイデアのソリューションを考えました。結果として、彫刻性とグラフィックの要素を両立させたランゲージでオリジナリティの高いデザインができました。

美しさと技術がフェラーリには必要なのです。
私にとってフェラーリは夢。美しさとスピードがつながっている夢なのです。

(インタビューの詳細は12月に発売予定の Car Styling Vol.2をお待ちいただきたい)