ルーツは50年代や60年代のオンロード車
スクランブラーとは、英語で「scrambler」。直訳すると「スクランブルをする人」みたいな意味になる。
スクランブルというと、領空侵犯に対する「緊急発進」といった意味もあるから、どことなく戦闘機などに使われる軍事用語のような感じもする。だが、バイクでいうとことのスクランブルは、「はい上る」とか「よじ登る」といった意味。つまり、スクランブラーバイクは、「オフロードなどの坂道をグングンと駆けのぼる」バイクということになるのだ。
スクランブラーバイクの元祖は、1950年代や1960年代に作られた市販車のなかで、オンロードバイクをベースに、オフロード走行に対応させたモデルだといわれている。
例えば、1962年に登場したホンダの「ドリームCL72スクランブラー」。現行の「CL250」や「CL500」の元祖となる250ccモデルだ。

このモデルは、ホンダが当時販売していたオンロードモデル「CB72」のスクランブラー版だといえる。当時は、日本はもちろん、欧州や北米などでもまだまだ未舗装路が多かった時代。ところが、本格的なオフロード車はまだ存在していなかったため、オンロードバイクを使い、マフラーをアップタイプにしたり、サスペンションのストローク量を増やすなどで、悪路走行向けにモディファイしていたことが特徴だ。

国産初のスクランブラーとして発売されたこのモデルは、日本や北米などで大ヒットを記録。その後、シリーズ化され、50ccや125cc、250ccや450ccなど、さまざまな排気量のモデルが人気を博することとなる。
その往年の名車が持つ車名や雰囲気などを引き継いだといえるのが、現行のCL250とCL500。アップタイプのマフラーや上体が起きる自由度の高いポジション、フロント19インチ・リア17インチのホイールやセミブロックパターンタイヤなど、まさにスクランブラー的なスタイルや装備を誇っていることが特徴だ。
ちなみに、CL250とCL500は、2026年モデルで一部仕様を変更。メインステップをより足つき性に考慮した形状に変更するとともに、シート内部の素材を変更し、走行中の快適性を向上している。また、メーターは、構造を見直すことで太陽光の反射を抑え、日中の視認性により配慮した仕様に変更されている。
さらに、CL250には、電子制御シフト機構「ホンダE-クラッチ」搭載モデルも追加。ホンダE-クラッチとは、発進、変速、停止など、駆動力が変化するシーンで、ライダーのクラッチレバー操作を不要とし、最適なクラッチコントロールを自動制御する最新技術だ。ライダーがクラッチレバー操作を行えば、手動によるクラッチコントロールも可能とすることで、幅広いスキルや好みに対応する。

映画でも活躍したスクランブラーバイク
往年のスクランブラーバイクには、ほかにも、映画に登場したことで伝説となっているモデルもある。それが、1959年に登場したトライアンフの650ccツイン(2気筒)モデル「TR-6トロフィー」。当時、北米のオフロードレースなどで大活躍したモデルなのだが、1963年に公開されたハリウッド映画「大脱走」に使われたことでも知られている。

映画ファンの多くが知っている通り、第2次世界大戦を描いたアクション大作が大脱走。主人公のスティーブ・マックィーンをはじめ、チャールズ・ブロンソン、ジェームズ・コバーンなど、当時の人気アクションスターが数多く出演し、まさにオールスターキャストで映画化した戦争ドラマだ。
その劇中で登場するのが、軍用仕様のTR-6トロフィー。名優スティーブ・マックイーン扮するアメリカ兵が、ドイツ軍の捕虜収容所から脱走するために、このバイクを駆って疾走。有刺鉄線付きの大きなフェンスを超える迫力のジャンプを披露し、大きな話題となったのだ。
スクランブラーの進化形がオフロードバイク
このように、スクランブラーとは、メーカーがオンロードバイクをベースに、オフロード走行にも対応する装備を施したバイクだといえる。昔からのバイクファンには、カスタムバイクのスタイルとして知る人も多いだろうが、その成り立ちは、市販車が先だ。
ちなみに、その後、前輪を後輪より大径化したり、専用の前後サスペンションなどを装備した、いわゆるオフロードバイクが登場。スクランブラーが、オンロードバイク的なフォルムなども残していたのに対し、それをより進化させ、さらに悪路走破性に特化したスタイルや装備を持たせたのがオフロードバイクだといえる。
その意味で、スクランブラーは、現在のオフロードバイクの源流となるバイクといえるだろう。

原付二種から大排気量車までラインアップが充実
スクランブラーバイクは、これも前述の通り、近年、国内外のメーカーがさまざまな市販モデルをリリースしている。
たとえば、国産車では、前述したホンダのCL250やCL500。また、ヤマハの原付二種モデル「XSR125」も、ブロックパターンのタイヤやアップライトなハンドル、丸目一灯ヘッドライトなどを装備。これらにより、スクランブラー的なスタイルを持つ1台だといえるだろう。

また、ホンダの125ccモデル「CT125・ハンターカブ」や、110ccモデルの「クロスカブ110」などの原付二種モデルも、アップタイプマフラーなどを装備し、街乗りからアウトドアまで幅広いシーンに対応。こうした装備により、やはりスクランブラーバイクの仲間だといっても過言ではないだろう。


輸入車では、大排気量モデルも数多くラインアップする。たとえば、803cc〜1079ccの豊富なランアップを揃えるドゥカティの「スクランブラー」シリーズ。

また、トライアンフでも、1200cc・並列2気筒の「スクランブラー1200X/1200XE」、900cc・並列2気筒の「スクランブラー900」などを用意する。


さらに、近年のトライアンフは、普通二輪免許で運転できるスクランブラーも国内に投入する。2024年には、398.15cc・水冷単気筒エンジンを搭載する「スクランブラー400X」をリリース。2025年9月には、フライスクリーンや軽量なアルミ製ホイールなどでオフロード機能をアップした「スクランブラー400XC」も追加し、より多様なニーズに対応している。


都市からアウトドアまで幅広く楽しめる
これら各モデルの共通点は、レトロな雰囲気と、ワイルドなテイストを合わせ持つこと。また、都会にもマッチするスタイリッシュなバイクとして、幅広い層に認知されていることも同様だ。

しかも、フラットダートなど、ある程度のオフロード走行にも対応。街乗りだけでなく、最近人気のバイクキャンプなど、アウトドアでも楽しめることも魅力といえるだろう。特に、普通二輪免許に対応するモデルは、バイクのエントリーライダーなどが、通勤・通学などの普段使いからツーリングまで、多様なシーンで気軽に乗れる相棒として最適だ。
肩肘を張らずに、オン・オフ両方の道を走れ、さまざまなスキルや年齢のライダーに対応するのがスクランブラーというバイクの魅力。その奥深さなどにより、今後も根強い人気を誇ることが予想される。
