GR Yaris
24式を経て、さらなる熟成を遂げた25式



ゲンロクWebは輸入スーパースポーツカーを取り扱うことが多いが、時折日本車でも、あるいはコンパクトカーでも読者の興味を掻き立ててくれるモデルがある。今回紹介するGRヤリスもそんな注目モデルである。
トヨタのスポーツブランドを司るトヨタ・ガズー・レーシング(以下TGR)が、新型となる25式GRヤリスを投入した。GRヤリスは、2020年モータースポーツのベース車両として、WRC(世界ラリー選手権)での勝利を目指して開発された特殊な背景を持って誕生した競技志向の強いモデルだが、初期型の20式、出力向上や新開発8速AT、GR-DATなど大規模な改良を受けた24式を経て、さらなる熟成を遂げたモデルとして25式へ進化した。
24式で1.6リッター直3ターボエンジンを最高出力304PS(20式比+32PS)、最大トルク400Nm(同+30Nm)としたが、サーキット愛好家の声に応えてさらに性能に磨きをかけたのが25式だ。今回、袖ヶ浦フォレストレースウェイで25式に試乗し、そのモータースポーツ領域のポテンシャルに触れた。
プロドライバーのフィードバックに応えて



その改良点は多岐にわたる。GR-DATのシフトアップタイミングの最適化やパドル操作時の変速時間短縮(1000分の16秒短縮)など、WRCだけではないスーパー耐久やニュルブルクリンク24時間などモータースポーツの現場の知見を生かして一段と緻密化した。さらにボディ剛性の強化やEPSとショックアブソーバーの最適化の他、ラリーで有効な縦引きサイドブレーキの全グレード設定など、プロドライバーのフィードバックに応える改良が加えられた。
比較用の20式MTにも試乗できたが、勇ましく吹け上がるエンジンはこれしか知らなければ充分パワフルだが、25式MTはやはり別物だった。304PSで1290kgレーシングドライバーが開発に携わったというだけあって、12.3インチTFTメーターはレーシングカーさながらにシフトタイミングでディスプレイが点灯したり、ドライビングモードが一目瞭然で、20式の小さなアナログメーターはやはり不便だ。
4WD調整ダイヤルの操作方法変更もあり、サーキット走行が飛躍的に向上した。初期の20式では左に回してスポーツ(フロント30対リヤ70、以下同)、右に回してトラック(50対50)、押してノーマル(60対40)だったのを、24式では左に回してノーマル(60対40)、右に回してグラベル(53対47)、押してトラック(60対40〜30対70)に変更し、本気で走る時はダイヤルを押すことで気持ちを切り替えるようなロジックに変えた。ちなみにこれはGRカローラも同様に変えているという。なおトラックでは減速時のリヤの締結がなくなるので、ブレーキング時に不安定さを感じる場合もあるがより曲がりやすくなっているという。
今回の主役エアロパフォーマンスパッケージ




続いて25式DAT車を試す。2ペダル操作は運転に集中しやすく、パドル操作でレブリミットぎりぎりまで引っ張る走りはMTに迫る達成感だ。Dレンジでニュル24時間をこなせると謳うだけあって、賢く加減速をこなす。ブレーキングポイント直前でシフトアップを迫られるような状況で、レブに当て続けても(3秒間)出力制御を行わない点にも競技志向を感じた。
最後に今回の主役とも言える、25式RZハイパフォーマンスをベースとしたエアロパフォーマンスパッケージ装着車に試乗できた。モータースポーツで得た課題を克服するために開発され、その構成はダクト付きアルミフード、フロントリップスポイラー、フェンダーダクト、燃料タンクアンダーカバー、可変式リヤウイング、リヤバンパーダクトの6点。
高速走行時の空力の最適化と冷却を狙い、すべて装着することで効果を最大化するという。開発段階で富士スピードウェイにおけるラップタイム1秒短縮を確認し、下山テストコースではコーナリング速度が20km/h向上した例もあるという。レース直結の成果が数字に現れた。
実際、巨大な手動可変式リヤウイングの効果は絶大で、高速コーナーでのリヤの安定感が圧倒的だ。袖ヶ浦のような低速主体のコースでもダウンフォースが効いており、4コーナーなどの低速域でもグリップが勝り、意図的でないとテールを振り出すことが難しいほどだった。モータースポーツ由来の徹底した空力開発が注ぎ込まれていると実感した。
市販車ながら競技志向を追求

24式から間を置かない25式への進化は、仕向地を従来の倍の70ヵ国以上へ供給を拡大するという時機もあったが、「やりたいことを盛り込んだ」と語る開発陣の熱意が実現させたとも言える。ボルトの材質やアッパーマウント形状まで見直し、走りの楽しさと耐久性を両立した。競技車の理想を惜しみなく具現した。サンデーラリーストとして青春を過ごした私にとって、30年前に夢見た理想が形となったような1台だった。
市販スポーツカーでここまで徹底して競技志向を追求するモデルを久々に見た。WRCで培った知見と情熱が注ぎ込まれた最新GRヤリスは、自信を持ってモータースポーツ愛好家に太鼓判を押せる仕上がりだった。
PHOTO/平野陽(HIRANO Akio)
SPECIFICATIONS
トヨタGRヤリスRZハイパフォーマンス・エアロパフォーマンスパッケージ DAT〈6速MT〉
ボディサイズ:全長3995×全幅1805×全高1455mm
ホイールベース:2560mm
車両重量:1310〈1290〉kg
エンジン:直列3気筒DOHCツインターボ
総排気量:1618cc
最高出力:224kW(304PS)/6500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/3250〜4600rpm
トランスミッション:8速AT〈6速MT〉
駆動方式:AWD
サスペンション形式:Fマクファーソンストラット Rダブルウイッシュボーン
ブレーキ:F&Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:F&R225/40ZR18
車両本体価格:582万5000円〈547万5000円〉
