Porsche 963
数々の勝利を積み重ねてきたポルシェ

世界最高峰の耐久レースとして2012年にスタートしたFIA世界耐久選手権(WEC)、ポルシェはシリーズ全戦に参戦してきた実績を持つ。総合優勝は21回、クラス優勝50回以上を誇るポルシェは、シリーズで最も成功を収めた自動車メーカーだと言えるだろう。
2025年シーズンは、米国・テキサス州オースティンで開催された第6戦「ローン・スター・ル・マン」においてポルシェ 963が今季初勝利。2024年の富士6時間では、ケヴィン・エストレ、ローレンス・ヴァンスール、アンドレ・ロッテラーが2勝目を挙げ、タイトル獲得への道を切り開いている。
ポルシェモータースポーツの責任者であるトーマス・ローデンバッハは、「第6戦が開催されたオースティンでの成功をベースに、マニュファクチャーズ選手権での差を縮めていきたいと考えてます」と、富士に向けて意気込みを語っている。
今回の富士は、963の5号車をジュリアン・アンドラーとマシュー・ジャミネがドライブ。前戦で勝利を収めた6号車は、エストレとヴァンスールがステアリングを握る。カスタマーチームのプロトン・コンペティションは3台目の963を、ニール・ジャニ、ニコ・ピノ、ニコラス・バローネの3人に託す。
LMGT3カテゴリーでは、マンタイ・ファーストフォルムのポルシェ 911 GT3 Rが、ランキングトップで富士に挑む。マンタイ・ファーストフォルムは富士でシーズン3勝目を獲得し、ライバルのフェラーリやアストンマーティンとのポイント差拡大を狙う。
2025年の富士6時間レースは、すべての参加者にとって大きな節目となる。今回の日本ラウンドは、2012年のWEC立ち上げ以来、100戦目となる記念すべきレースなのだ。ポルシェ・ワークスとカスタマーチームは、これまでシリーズの発展に重要な役割を果たし、数々の輝かしい瞬間を生み出してきた。多くのレースのなかから、印象的な20戦を振り返ってみよう
2012年、セブリング12時間レース

FIA世界耐久選手権(WEC)が、2012年3月18日、長い伝統を誇るフロリダ州の「セブリング12時間レース」で華々しく開幕した。カスタマーチーム「フェルバーマイヤー・プロトン」のポルシェ 911 RSR(タイプ997)を駆ったクリスチャン・リード、ジャンルカ・ローダ、パオロ・ルベルティの3人が、GTE-Amクラスで優勝を飾った。
「前年にインターコンチネンタル・ル・マン・カップで優勝していたので、世界選手権へのステップアップは当然の流れでした。最初のレースでクラス優勝を飾れたのは、まさにセンセーショナルな出来事でした」と、WEC最多参戦記録を誇るチームオーナーのリードは振り返っている。
2012年、スパ6時間レース

アメリカでのデビュー戦を成功に導くと、WECは2012年5月にヨーロッパで初開催を迎えた。スパ・フランコルシャン6時間レースでは、ファクトリードライバーのマルク・リープとリヒャルト・リーツがポルシェ911 RSRを駆り、GTE-Proクラスで優勝を手にした。
「WECは数多くの忘れられない瞬間を与えてくれました。最初のシーズンから成功を収め、今日までグリッドに立っています。本当に信じられないですよね。」と、リーツは笑顔で語った。
2013年、ル・マン24時間レース

2013年シーズン、ポルシェはWECに初めてファクトリーチームとして参戦した。激戦のGTE-Proクラスに「ポルシェAGチーム・マンタイ」のチーム名のもと、2台のポルシェ 911 RSRを投入。911の50周年を記念するこのチームは、センセーショナルな結果をもたらした。
ル・マン24時間レースにおいて、ファクトリーチームが1-2フィニッシュを飾るとともに、カスタマーチームのIMSAパフォーマンス・マットムートもアマチュアカテゴリーでクラス優勝を果たしたのだ。これらの勝利は、ポルシェにとってル・マンにおける99回目と100回目のクラス優勝となった。
2014年、シルバーストーン6時間レース

WECは2014年シーズンより革新的なトップカテゴリーとして、圧倒的な技術的自由度を誇る「LMP1」クラスを導入。ル・マン24時間レースで最多優勝記録を持つポルシェは「919 ハイブリッド」でトップカテゴリーに復帰した。初レースとなったシルバーストーン6時間レース、ワークスドライバーのマーク・ウェバー、ティモ・ベルンハルト、ブレンドン・ハートレーが表彰台を獲得し、その後に続くサクセスストーリーが幕を開けた。
2014年、サンパウロ6時間レース

開幕7戦で5度の表彰台を獲得した後、サンパウロ6時間レースで開催された最終戦でニール・ジャニ、マルク・リーブ、ロマン・デュマの3人が、919 ハイブリッドに初勝利をもたらした。「チームにとって信じられないほど素晴らしい1日になりました」と、リーブはフィニッシュ時にコメント。ジャニは「次の目標である世界選手権のタイトル獲得とル・マンでの勝利は、すぐそこにあると信じています」と、付け加えている。
2015年、ル・マン24時間レース

デビューシーズンは振るわなかったものの、徹底的に改良された919 ハイブリッドは、翌2015年シーズンのWECを席巻。ポルシェ・ワークスチームは8戦中6勝を挙げ、ル・マン24時間レースで通算17回目の総合優勝を果たした。
ニック・タンディ、アール・バンバー、そしてF1ドライバーのニコ・ヒュルケンベルグは、チームメイトのベルンハルト/ウェーバー/ハートレーを抑え、伝統あるル・マン24時間で勝利。ベルンハルト/ウェーバー/ハートレーは、この年のドライバーズ選手権チャンピオンを獲得している。
2016年、ル・マン24時間レース

2016年のル・マン24時間レース、レース最終版まで919 ハイブリッドは2位を走行していたが、トップを走るトヨタが最終ラップでまさかの大失速。ポルシェが前年に引き続き総合優勝を果たした。
「現実とは思えません」と、リーブは、ポルシェ18回目のル・マン総合優勝までの道のりを振り返った。リーブ、ジャニ、デュマの3人は2016年シーズンのドライバーズタイトルを獲得。ポルシェはマニュファクチャラーズ選手権とチームズ選手権のタイトル防衛にも成功している。
2017年、ル・マン24時間レース

2017年、ポルシェはル・マン24時間レースで19回目の総合優勝を達成。ティモ・ベルンハルト、アール・バンバー、ブレンドン・ハートレーの3人が、息を呑むような逆転劇の末、919 ハイブリッドでル・マン3連覇を飾ったのだ。この記念すべきトロフィーは、ポルシェミュージアムに永久保存されることとなる。ベルンハルト、バンバー、ハートレー3人は、このシーズンのドライバーズタイトルを制し、ポルシェは3冠を手にした。
2018年、ル・マン24時間レース

919 ハイブリッドでのLMP1プログラムにピリオドを打ったポルシェは、2018/19シーズンからGTレースに集中。ブランド創立70周年を記念し、ル・マンで大胆かつ鮮やかなパフォーマンスで注目を集めることになった。
2台の911 RSRは、歴史ある「ピンクピッグ」と「ロスマンズ」のカラーリングをまとってグリッドに登場。「ピンクピッグ」が、チームメイトを抑えてクラス優勝を達成した。 「今日は人生最高の日です。世界で最も過酷で美しいレースに勝利しました」と、ファクトリードライバーのエストレは喜びを語っている。
2019年、ル・マン24時間レース

2018/2019年シーズン、WECは新たなカレンダーコンセプトを採用。9レースで構成されるシーズンは、ル・マン24時間で幕を開け、12ヵ月後の2回目のル・マン24時間レースで幕を閉じた。2018年のピンクピッグの勝利に続き、2019年6月には、ワークスドライバーのイェルク・ベルクマイスターがドライブするカスタマーチームのプロジェクト1が、GTE-Amクラスで優勝を果たした。
2020年、バーレーン8時間レース

前年のル・マン24時間レースでのクラス優勝と、ドライバーズ選手権とマニュファクチャラーズ選手権の両タイトルを獲得したポルシェは、新型911 RSR(2019年モデル)を2019/2020年シーズンに投入する。
高回転型の4.2リッター水平対向6気筒エンジンを搭載した911は、その爽快なサウンドで瞬く間にファンを虜にする。成功までに時間が掛かったものの、バーレーンで行われたシーズン最終戦では、ファクトリーチームがGTE-Proクラスで1-2フィニッシュを達成。RSRの先代モデルが引き続き参戦していたGTE-Amクラスでは、カスタマーチームのプロジェクト1が優勝を手にしている。
2022年、ル・マン24時間レース

新型レーシングカー「ポルシェ 963」の登場を目前にし大成功を収めた911 RSRがル・マンに最後の別れを告げる。そして、ワークスチームの911 RSRが、サルト・サーキットで再び輝きを放った。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる困難を乗り越え、リヒャルト・リーツ、ジャンマリア・ブルーニ、フレデリック・マコヴィッキの3人が、GTE-Proクラスの表彰台の頂点に立った。「ル・マンにおける最後のワークス911 RSRでの勝利は、言葉では言い表せないほどの喜びになりました」と、ポルシェモータースポーツ責任者のローデンバッハは感慨深げに語っている。
2023年、セブリング12時間レース

2023年シーズン、ポルシェはWECのトップカテゴリーに復帰。開幕戦セブリング12時間において、2台のポルシェ 963がデビューを飾った。このレース、963は5位と6位でフィニッシュ。WEC最高峰のハイパーカークラスは参戦メーカーが次々に登場し、現代の耐久レースにおいて、かつてないほどの盛り上がりを見せている。
2023年、バーレーン8時間レース

GTE-Amクラスへの移行期間を経て、911 RSRは2023年シーズンをもって表舞台を降りることになった。この年、サラ・ボビ―、ラヘル・フレイ、ミシェル・ガッティンのアイアン・デイムズがバーレーン8時間レースにおいて、クラス優勝を達成。これは、WECにおける女性3人組による、初めてにして唯一の勝利となった。「ただただ素晴らしい勝利です。5年間懸命に努力してきましたが、911 RSRの最終戦でついに報われました」と、フレイは喜びを語っている。
2024年、カタール1812km

WECでの厳しい初年度、北米IMSAシリーズでの成功を経て、2024年シーズンはポルシェにとって飛躍の1年となった。開幕戦カタール1812kmで、3台のポルシェ 963がトップフィニッシュ。エストレ、ローレンス・ヴァンスール、アンドレ・ロッテラーが優勝、同じくポルシェペンスキーモータースポーツのポルシェ 963が3位、カスタマーチームのハーツチーム・ジョタの963が2位に入り、ポルシェが表彰台を独占することになった。
2024年、スパ6時間レース

カスタマー仕様の963がデビューしてから、ちょうど1年後。ハーツチーム・ジョタのポルシェ 963がスパ6時間レースで総合優勝に輝いた。また、長引く赤旗中断を挟んだ混沌としたレースにおいて、プロトン・コンペティションの963を駆るジュリアン・アンドラーが驚異的なドライビングで一時トップを快走。2025年からのワークスチーム入りを確固たるものにしている。
2024年、ル・マン24時間レース

2024年のル・マン24時間レース、手に汗握るハイパーポールセッションにおいて、ワークスドライバーのエストレが、963 6号車に乗り込み、ポールポジションを獲得。しかし、理想的なスタートポジションからのスタートは勝利をもたらさず、6号車は4位でレースを終えた。
2024年、ル・マン24時間レース

新設のLMGT3クラス初開催となったル・マン24時間レースで、マンタイEMAのポルシェ 911 GT3 Rが圧倒的な勝利を収める。ファクトリードライバーのリーツは、ヤッセル・シャヒン、モーリス・シューリングと共にライバルを猛追し、圧倒的な勝利を収めた。
2024年、バーレーン8時間レース

カタールと富士スピードウェイで勝利し、イモラ、スパ、サンパウロで表彰台を獲得したエストレ、ロッテラー、ヴァンスール組は、ドライバーズランキング首位でバーレーン開催の最終戦に臨む。 8時間のレースでは幾度となくペナルティに見舞われたものの、10位入賞でドライバーズタイトルを獲得。しかし、ポルシェはマニュファクチャーズ選手権タイトルを、わずか2ポイント差で逃している。
2025年、ル・マン24時間レース

2025年のル・マン24時間レースに、ポルシェペンスキーモータースポーツは3台の963を投入した。3台あわせて100周近くトップを走り、キャンベル、エストレ、ヴァンスールが最終的に2位を獲得した。LMGT3クラスでは、ポルシェ911 GT3 Rが再び表彰台のトップに立ち、ワークスドライバーのリーツとチームメイトのリカルド・ペラ、ライアン・ハードウィックが優勝を果たした。