JAGUAR
起源とブランドの誕生


ジャガーの起源は1922年、ウィリアム・ライオンズとウィリアム・ウォルムズリーによる「スワロー・サイドカー・カンパニー」に遡る。初期のエンブレムはツバメ(スワロー)を描いた軽快な意匠だった。その後、サイドカーから自動車ボディ製造へ事業を拡大し、社名を「SSカー」に変更。最初のクルマ「SS1」が登場した。1935年には「SSジャガー2.5Lセダン」が登場。この瞬間、初めて“ジャガー”の名がブランドに刻まれた。俊敏な孤高の捕食者である猛獣ジャガーは、英国車に求められる高性能と品格を兼ね備えた理想像を象徴したといわれる。
なお、「SS」という名称がナチス親衛隊を連想させるため第二次世界大戦後に廃止され、ブランド名はシンプルにジャガーに改められた。ここから現在に至るエンブレムの物語が本格的に始まった。
エンブレムの変遷

ジャガーのエンブレムは90年以上にわたり進化し続け、ブランドの歩みを映し出してきた。
- 1920〜1930年代前半:「スワロー(ツバメ)」が翼を広げたデザイン。アールデコ調で軽快な印象だった。
- 1935年:「SSジャガー」のロゴが誕生。米国の正規ディーラー(Jaguar Darien)の解説によれば、当時のロゴはJAGUARの文字を鳥の翼と尻尾が取り囲むデザインだったと紹介されている。
- 戦後(1945年以降):“リーピング・ジャガー”(飛びかかる姿)と“グロウリング・ジャガー”(吠える顔)が登場。立体マスコットと平面バッジ、2つの表現がブランドを補完し合う形となった。円形のエンブレムには、赤い背景と銀の縁取りの中に吼えるシルバーのジャガーが描かれた。同ディーラーの資料では、黒い縁取りと金のジャガーを組み合わせた仕様もあり、高性能モデルに使用された例が紹介されている。
- 1970~1990年代:クローム仕上げのリーピング・ジャガーがフラッグシップであるXJなどに装着され、英国産高級車としての威厳を強調。
- 2000年代:歩行者保護規制の影響で立体マスコットは徐々に姿を消し、代わって赤い背景のグロウリング・ジャガーが強調されるようになった。
- 2010年代以降:モダンな3D風グロウリング・ジャガーがブランドのシンボルとして統一された。リーピング・ジャガーは一部の装飾やバッジとして残る。
クラシックモデルとエンブレム


XK120(1948年)
戦後、ジャガーの名を世界に轟かせた名車XK120。最高速度は時速120マイル(実際には133マイルだったとされる)を誇り、「世界最速の量産車」と称された。後継モデルであるXK150の長いボンネット先端に取り付けられたリーピング・ジャガーが、その俊敏な性能を象徴した。
マーク2(1959年)
コンパクトながら高性能で知られたマーク2。優美なボディラインとウッドパネルを配したインテリアに、クローム仕上げのリーピング・ジャガーが輝いた。英国的な美しさとスポーティさを両立し、モータースポーツでも実績を残した。
Eタイプ(1961年)
「世界で最も美しい車」と評されたEタイプにはボンネットマスコットを使用せず、フロントグリルにグロウリング・ジャガーが配置された。牙をむき咆哮するその顔は、このクルマの革新的なデザインと高性能を示した。エンツォ・フェラーリが「これまでで最も美しいクルマ」と称えたことでも知られる。
XJ(1968年~)
フラッグシップサルーンのXJシリーズは初代からリーピング・ジャガーを掲げた。ボンネット上で英国高級サルーンの風格を示したマスコットだったが、安全規制の強化によって姿を消したとされる。クラシックジャガーにおいては、今もなおオーナーの誇りを示す存在である。
電動化時代と現代のシンボル


現在のジャガーは電動化を推進し、2018年登場のIペイスを皮切りにEVに舵を切った。未来志向のブランドへとシフトする中でも、ステアリングやホイールに輝くグロウリング・ジャガーは変わらぬ存在感を放つ。ボンネットから立体マスコットは消えたがジャガーとしての象徴性は進化を続け、クラシックモデルから最新のEVまで一貫して「俊敏さと優雅さ」を体現している。
リーピング・ジャガーとグロウリング・ジャガー。2つのエンブレムはクラシックモデルとともに進化し、俊敏さ、優雅さ、猛々しさ、そして品格を表してきた。ツバメから猛獣へ、立体から平面へ──その変遷は、ジャガーというブランドがいかに時代を超えて愛されてきたかを示している。

