「SENSESー五感で感じるLEXUS体験」でレクサス電動化の現在地を知る

レクサスは10月1日、東京都内でメディア向けのイベント「SENSESー五感で感じるLEXUS体験」を開催した。レクサスは1989年、アメリカで事業展開をスタート。2005年から導入が開始された日本では今年で20周年を迎え、10月末に開催を控えたジャパンモビリティショー2025では新たなブランドのあり方を表現するという。それを目前に控えて、今回のイベントでは新型ESや新型RZが国内で初お披露目されたほか、エンジニアやデザイナーを交えた体験型コンテンツを通じて、レクサスが取り組んでいる電動化の現在地が示された。

「SENSES-五感で感じるLEXUS体験」の様子。

レクサスが取り組んでいる電動化、その中核となるのは単なるバッテリーEV(BEV)の普及だけではない。それは電動化技術を活用して「走りの楽しさ」や「クルマとの対話」といった本質的な価値を深化させるという思想だ。新型RZでは電気信号を介して操舵を行う「ステアバイワイヤシステム」や、シフト操作の楽しさを演出する「インタラクティブマニュアルドライブ」を搭載するが、これらの新技術はドライバーの感性に響く直感的な操作性を追求するという思想の具現化なのである。

2023年から発売が始まったレクサスRZだが、その大規模改良モデルが2025年に発表された。日本での発売もそう遠くない将来と思われる。
新型RZではステアバイワイヤシステムを採用。ロック・トゥ・ロックは約200度となり、ステアリングホイールのデザインもヨーク型を採用する。
新型RZのドアトリム単体。時の移ろいや水の波紋など、自然の要素から着想を得たパターンが、微細なレーザー加工で再現されている。

その開発プロセスにおいては、シミュレーションや机上検討だけに頼ることなく、マスタードライバーらとともに「汗をかきながら」現地現物でクルマを走らせ、“五感”で感じたことを性能に落とし込むプロセスを重視する。こうした開発体制はRZの立ち上げから始まり、レクサスの開発文化として根付いている。

新型RZの開発においてアシスタントチーフエンジニアを務めた寺田寧之氏。

また、レクサスの電動化戦略は新車開発にとどまらない。カーボンニュートラルへの貢献を「楽しく、笑顔で」目指すマルチパスウェイ戦略の一環として、既存の愛車をBEV化するコンバージョン事業にも着手し、AE86をプロトタイプとして往年の名車を未来へと継承する試みも進行中だ。

さらに、レクサスはクルマそのものを超えたライフスタイル体験の提供にも注力している。「Touch Japan Journey」では、BEVの静粛性を活かして自然と一体化するドライブ体験を創出し、「Lexus Electrified Program」では充電インフラの提供に加えて、ブランドの世界観と共鳴する特別な体験を提供する。

レクサスが取り組む電動化の意義や現状、そして将来への展望を語った井藤進矢氏(レクサスエレクトリファイド開発部 部長/写真右)と、横濱拓哉氏(レクサス事業企画部 部長/写真左)。

新型ES:床下にバッテリーを搭載しながら、新しいセダンのプロポーションを描く

さて、本イベントで注目を集めていたのがフルモデルチェンジを果たした新型ESだ。「Experience, Elegance, Electrified Sedan」という3つの「E」を掲げたコンセプトに基づき開発された8代目は、2025年4月の上海モーターショー(中国)でワールドプレミアされ、日本では2026年春頃の発売を予定している。日本に導入されるのは3グレードで、新システムが採用されたハイブリッドの「ES350h」はFFだけでなく4WDが選べるようになったのがトピック。そして歴代で初となるBEVモデルはFWDの「ES350e」、4WDの「ES500e」がラインナップする。

イベントで初お披露目された日本仕様の新型ES。日本発売は2026年春頃が予定されている。
新型ESのボディサイズは全長5140mm(先代比+165mm)、全幅1920mm(同+55mm)、全高1555〜1560mm(同+110〜115mm)、ホイールベースは2950mm(同80mm)。ボディが大型化しているが、特にバッテリーを床下に搭載するため全高が高くなっているのが特徴だ。

新型ESのデザインコンセプトは、「Clean Tech × Elegance」。電動化技術による新しいパッケージングの制約を克服しつつ、レクサスが目指す「エレガンス」と「新しい世界観」を表現することに焦点が当てられた。エクステリアではジャパンモビリティショー2023で発表された次世代BEVコンセプトカー「LF-ZC」から着想を得て、新世代のスピンドルボディを体現している。

スリークなプロポーションをもつLF-ZC。スピンドルをテーマにしたフロントマスクの造形は、新型ESにも共通する印象だ。

新型ESでチーフデザイナーを務めたのは熊井弥彦氏だ。1991年にトヨタ入社後、先代LSやiQ、GRスープラ、レクサスNXなどのエクステリアデザインを手掛けた経歴を持つ。本イベントで熊井氏は即興でスケッチを描きながら、新型ESのデザインのポイントを解説してくれた。

新型ESの熊井弥彦チーフデザイナー。

先代と新型では、ESのプロポーションはまったく異なる。先代は乗員をできるだけ低い位置に配置し、「スリークでエレガント」という歴代ESで受け継がれてきたDNAを継承しつつ、王道セダンたるスタイリッシュさを追求していた。しかし、BEV化された新型ESは床下バッテリーを搭載するため床面が高くなり、乗員を適切な姿勢で座らせようとすれば、必然的に全高を上げる必要が生じる。「セダンは背が高くなると途端にバランスが崩れてしまう。過去にも背が高いセダンがありましたが、なかなか成功したモデルはありません」と語った熊井氏。そうした難易度の高いハードルをいかに乗り越えるかが、新型ESにおけるデザイン開発の核心となった。

熊井氏が即興で描いたスケッチ。上が先代ESで、そのプロポーションのまま床下にバッテリーを搭載しようとすると、乗員の足の角度が窮屈になってしまう。下の新型ESでは、最適な乗車姿勢が取れるように全高を上げつつ、美しいプロポーションを実現するための試行錯誤が繰り返された。ボディサイズがひと回り大きくなったのも、その結果なのだ。

開発チームはこの課題に対し、ゼロベースからパッケージングを研究。使いやすさや乗り降りのしやすさを熟慮した結果、新型ESは従来のセダンのように腰を落として乗り込むのではなく、自然で快適に乗り降りできるフィーリングを獲得した。その上で、ボディが背高であることを感じさせないよう前後方向の長さや高さをバランスさせることにより、今までに見たことのない「背が高くても美しいプロポーション」を具現化、次世代セダンに相応しいエレガントな世界観を表現することができたという。

視覚的な工夫も盛り込まれた。ボディサイドにあしらわれたモールは、車高を低く見せる効果を狙ったものだ。さらにサイドモールが後方に向かって下がる動きとリヤウインドウが最後に跳ね上がる動きを組み合わせることで、クルマ全体がひとつの動的な塊として感じられるようにしたという。こうした工夫により、新型ESはこれまでのセダンにはない新鮮な世界観を表現している。

全高の高さを感じさせないための工夫がサイドデザインにはいくつも盛り込まれている。ブラックのモールもそのひとつだ。

インテリアで注目なのは、「Sensory Concierge(センサリー コンシェルジェ)」だ。これはイルミネーションや空調、マルチメディア画面、フレグランス、さらにはシートに内蔵されたエアブラダー(空気袋)などを連動させて、室内空間をアレンジするもの。気持ちを高揚させる「インスパイア」、集中をサポートする「ラディエンス」、リラックスできる雰囲気の「リバイタライズ」といった3つのモードが用意されている。

ドライバーの正面には12.3インチの異形液晶メーターを配置する。センターディスプレイの下部には、普段は隠れていて手をかざすとアイコンが点灯するユニークな物理スイッチが備わる。
ドアトリムはレクサスのシグネチャーアイテムであるバンブーがモチーフとなったレイヤーパターンを立体印刷技術で再現。ストライプ状の面発光加飾は、竹林の木漏れ日のような光の動きを表現したもの。

その中でもフレグランスは、単体での操作も可能だ。このシステムでは、「レクサスならではの時間」という概念に基づき、時の流れをテーマにした5種類の香りを展開。新型ESのグローブボックス内に設置された発生器には3種類のカートリッジを搭載することができ、インパネ奥のスピーカーグリルから香りを拡散させる仕組みとなっている。ちなみに3種類の香りは、マルチメディア画面の操作で切り替えられる。

空間と演出で魅了する「パフォーミングアーツ」がコンセプトの新機能「センサリーコンシェルジェ」の体験ブース。「天光(TENKO)」「恵風(KEIFU)」「青陽(SEIYO)」「半夜(HANYA)」「晨明(SHINMEI)」という5種類のフレグランスが揃い、それぞれのテーマに合わせた映像(CGではなく実写にこだわって撮影されたもの)も用意される。

フレグランスの開発は、世界最大の香料メーカーであるジボダンとレクサスが共同で行った。すべてのフレグランスにはシグネチャーマテリアルである「バンブー」を表現した「バンブーアコード(竹の香り)」をシグネチャーセントとして共通採用して、ブランド独自の香りの世界観が構築されている。また、自然科学を応用した香料テクノロジーや、交換可能なカートリッジによるサステナビリティといった点も重視された。

セラミック樹脂に香りを含侵させたカートリッジ。収納ケースのデザインもこだわりが感じられる。

実際にフレグランスを試してみると、なるほど、5種類がそれぞれ個性を持ったキャラクターを持っており、その日の気分やシチュエーションに応じて香りを使い分けてみるのが楽しそうだ。いま、多くのニューモデルのインテリアがディスプレイのサイズや数、イルミネーションによる演出などで他車と差別化を図ろうとしている。そして今後は、フレグランスもラグジュアリーカーの必須アイテムになる…そんな時代が来るのもそれほど先のことではないのかもしれない。

写真は中国仕様の新型ESによる、「センサリーコンシェルジュ」のデモ風景。イルミネーションや音楽、映像、空調、そしてシートのマッサージ機能などが連動して車内空間を彩る。

レクサスでは、従来のColor(色)、Material(素材)、Finish(仕上げ)に加えて、五感を含むExperience(体験価値)をデザインする「CMFX」チームが存在する。クルマの機能的価値と、素材を通じて伝わる情緒的価値を融合させ、レクサスならではの上質な移動体験を創出するというCMFX。その価値は、これからのレクサスを語るうえで欠かせない要素となるだろう。

イベント内では「Sensory Lounge」と題された、オリジナルスイーツの試食コンテンツも提供された。これらはフレグランスのエッセンスとして使用されている「バンブーアコード」からインスピレーションを得て創作されたもの。羊羹に杏ソースをあしらい、さらにアクセントとして山椒も加えられている。山椒の粒のプチプチとした食感がいい意味での違和感を生み出しているのだが、これは心地良いだけの調和ではなく、意図的な刺激や対比を加えることで全体の魅力を深化させるというレクサスのデザイン哲学とも共鳴する。
オリジナルスイーツをプロデュースしたのは、京都に居を構えるミシュラン二つ星レストラン「美山荘」の四代目当主・中東久人氏(写真右端)。美山荘は「Lexus Electrified Program」においても、BEVオーナー向けの特別プログラムを提供している。大川正洋氏(写真右からふたり目)は、ジボダンジャパンのシニアパフューマーで、バンブーアコードの開発に尽力。その際は、筍の灰汁のような成分を微量に加えることで、心地良い香りに深みとリアリティを与えたという。戸澤早紀氏(写真左からふたり目)は、レクサスのカラー&感性デザイン部に所属するデザイナー。従来のCMFに加えて五感での体験を追加した「CMFX」の開発に携わっている。