BMW・R 12 G/S……245万1000円~(2025年5月21日注文受付開始)

R 12 G/SのバリエーションはSTDとGSスポーツの2種類。後者にはエンデューロパッケージプロが組み込まれており、18インチのリヤホイール(STDは17インチ)をはじめ、エンデューロフットレストシステム、オフロードタイヤ、ハンドルバーライザー、ハンドプロテクター、ラージサイズエンジンガード、そしてロングサイドスタンドが採用される。今回試乗したのはGSスポーツで、STDに対して9万4000円高となる。
今回の試乗会に合わせて、前後のタイヤはよりオフロード走行に適したミシュラン・アナキーワイルドに交換されていた。
車体色は写真のライト・ホワイト(4万2000円高)のほか、ナイト・ブラック・マット、サンドローバー・マット Style Option 719(22万3000円高)を用意。

ワイルドな吹け上がり、これぞ空油冷ボクサーツインの醍醐味

9月下旬にモトフィールド榛名で開催された今回のプレス向け試乗会。タイトルは「BMW MOTORRAD ADVENTURE MODELS TEST RIDE」で、そのラインナップの中にR 12 G/SのGSスポーツがあった。今年5月に注文受付が開始されたばかりのニューモデルで、ヘリテイジシリーズに属することからも分かるように、エンジンは1170ccの空油冷ボクサーツインを搭載する。

エンジンは、ヘリテイジR 12シリーズ共通の1170cc空油冷DOHC 4バルブ水平対向2気筒で、ユーロ5+に適合しつつ最高出力は109PSを発生。ガソリンはハイオク指定で、トランスミッションは6段。バンク角および加速情報を考慮したトラクションコントロール(DTC)や、エンジンブレーキトルクレギュレーター(MSR)を採用する。

R 12 G/Sは、1980年に登場したR 80 G/Sをオマージュしたモデルであり、スタイリングには一切の隙がない。一時期、空冷2バルブのR100GSを買おうか本気で迷っていた筆者にとって、どストライクな1台だ。

まずはエンジンから。最新のR 1300 GSや同アドベンチャーのあとに試乗したこともあって、R 12 G/Sの吹け上がりはなかなかにワイルドに感じられる。特にバランサーの有無による違いは大きく、同じボクサーツインながらあらためてR 1300シリーズとの違いを実感した。

今回は前日の降雨によってメインとなるはずの森林コースが使えず、フラットな外周路を走るのみとなったが、それでもエンジンの低回転域からの扱いやすさと、DTC(ダイナミック・トラクション・コントロール)の自然な介入は十分に確認することができた。DTCが介入するとインジケーターが高速で点滅するが、失速するような雰囲気は皆無。排気音がわずかにくぐもった感じにはなるが、着実に前へ前へと進んでくれる。

双方向クイックシフターのシフトアシスタントプロについては、条件によってシフトアップ時に強めのショックが出ることもあるが、その場合はクラッチレバーを操作して回避することをBMWでは推奨している。一方、シフトダウンはどの場面でも非常にスムーズであり、MSR(エンジンブレーキトルクレギュレーター)との相乗効果もあってか、ダートにおいても一切不安を感じなかった。

フラットダートなら最高に振り回せそうな雰囲気あり

 R 12 G/Sのホイールトラベル量は、フロントが210mm、リヤが200mmで、これはSTDとGSスポーツの両仕様で共通だ。ちなみにR 1300 GSが190mm/210mm(スポーツサスペンションOE装備:210mm/220mm)なので、フロントサスがテレスコピックフォークかテレレバーか、フロントホイール径が21インチか19インチかという違いはあるものの、ヘリテイジシリーズながら同等の足周りを手に入れたと言えるだろう。

フロントのホイール径は21インチで、前後ともチューブレスタイヤ対応のクロススポークホイールを採用する。インテグラルABSプロ(パーシャリー)は、ブレーキレバーを操作すると前後が連動し、ペダルを操作するとリヤのみが作動。その前後配分はライディングモードごとに異なる。ABSプロはバンク角を考慮して制御が行われるので、思いがけない車体の立ち上がりが起こりにくくなる。なお、エンデューロプロモードでは、リヤのABS制御が解除される。ダイナミックブレーキコントロールは、フロントブレーキが瞬間的に力強く操作されると発動し、スロットル操作がキャンセルされる。
マルゾッキ製のφ45mm倒立式フロントフォークはフルアジャスタブル。プリロード調整について、マニュアルにはライダーの体重が95kgからのみ記載されており、日本人の標準体型ではスプリングレート自体が高いと思われる。ダンピング調整は、フォーク左側がコンプレッション、右側がリバウンドを担当。物理キーの先端でも回せるとの説明があったが、実際にはハンドルと干渉するためうまく回すことができない。なお、GSスポーツはリヤホイールの18インチ化に伴い、フォークの突き出し量を15mmから3mmにすることで、シャシーの水平を保っている。
リヤサスペンションはリンクレスのモノショックで、ショックユニットはフロントと同じマルゾッキ製。下側にコンプレッション、上側にリバウンドのダンピングアジャスターを設ける。
リヤショックの油圧式プリロードコントローラー。乗車した状態でも回せる位置にあるのがうれしい。ただし、フロントと同様に基準となるライダーの体重設定が高いため、プリロードを最弱まで調整しても作動性は硬い印象だった。

 R 12 G/Sのフレームは、R 12シリーズをベースにステアリングヘッドを前方かつ上方に移動。これによって長いフロントフォークを使用するためのスペースを確保している。キャスター角は26.9°(GSスポーツは26.8°)、トレール量は120.8mm(同121.3mm)だ。

 走り出して感じたのは、R 1300 GSよりもダート走行のハードルが高いということだ。しっかりと車体をピッチングさせられるシチュエーションであればクルリと向きを変えるが、それをするには前後サスの設定がやや硬めである。腕に覚えのあるライダーなら、ブレーキングでガツンとフロントに荷重を掛け、リヤをアウト側へスライドさせながら向きを変えることもできるだろうし、おそらくそうした走りに応えられそうな雰囲気は十分に感じられる。だが、未舗装路走行に慣れていない筆者にとって、R 12 G/Sのプリミティブな走りに触れたことで、R 1300 GSのイージーかつ優しいオフロード性能に感心するきっかけとなったのは皮肉だ。

 ブレーキについては、パーシャリーインテグラルABSプロが優秀だ。木の根などで滑りやすい急な下り坂でも、ブレーキレバーのみの操作で安定して下ることができた。ライディングモードごとに変わるという前後の制動配分までは体感できなかったが、DTCと並んでブレーキについても操縦の一部を先進安全技術に任せられるというのは実に頼もしい。

 身長175cmの筆者でも足着き性は大いに難アリだが、このスタイリングに惚れ込み、ボクサーツインでフラットダートをかっ飛ばしたいというエキスパートライダーなら、そんなことは1ミリもマイナス要素にならないだろう。旧世代の空油冷ボクサーツインのワイルドさと、シンプルな足周りによる高い悪路走破性。それらを電子デバイスが優しくフォローするという図式は唯一無二であり、ヘリテイジシリーズにおいても異色の存在であることは間違いない。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

GSスポーツはライザーによってハンドルバーの位置が20mm上げられているほか、ブーツのソールに食い付きやすいワイドなステップバーも採用。これらにより、STDよりもオフロード走行に適したライディングポジションが形成される。
GSスポーツのシート高はSTDよりも15mm高い875mmを公称。最低地上高も240mmから255mmへと15mmアップしている。足着き性はご覧の通りで、リヤショックのプリロードを全抜きしても両方のツマ先を同時に接地させるのは不可能だ。

ディテール解説

スイングアームはシングルサイドで、シャフトドライブのトルクリアクションを軽減するパラレバーを採用。ブレーキシステムにはヒルスタートコントロールプロが組み込まれており、レバーを強く引く、もしくはペダルを強く踏むことで作動させることができる。タイヤ空気圧センサーを標準装備する。
STDに対してGSスポーツは全幅が70mm広く、また全高は10mm高い。キーレスライドを採用するが、ステアリングロックやタンクキャップのロック解除は物理キーで行う。標準装備されるグリップヒーターの温度設定は低/中/高の3段階。
指針式の速度計と液晶ディスプレイを組み合わせた丸型メーター。ライディングモードプロは、レイン/ロード/エンデューロのほか、オフロードタイヤ装着時の未舗装路走行に適したエンデューロプロが選べ、それぞれでABSやDTC、エンブレ、スロットルレスポンスが調整される。12V電源ソケットをメーターの右側に装備。
標準装備のクルーズコントロールは30~180km/hの間(選択したギヤによって異なる)で設定可能だ。
シートはボルトで固定されており、取り外しに必要なトルクスレンチはリヤショックのプリロードアジャスター付近に隠されている。ETC2.0車載器を標準装備。
灯火類はオールLED。ヘッドライトにはデイタイムランニングランプが組み込まれ、ロービームと自動で切り替えるオートマチックデイライト機能も搭載。
急ブレーキをかけるとブレーキランプが高速で点滅するダイナミックブレーキライトを採用。15km/hまで減速するとハザードランプがオンとなり、車速が20km/hを超えると自動的にオフとなる。
GSスポーツはエンデューロフットレストシステムを採用。ギヤシフトアシスタントプロは、シフトアップとダウンの双方でクラッチレバーの操作が不要だ。

BMW・R 12 G/S 主要諸元

【エンジン】
最高出力 80 kW (109 PS) / 7,000 rpm
エミッション制御 クローズドループ制御式三元触媒コンバーター
タイプ 空/油冷 2気筒 4ストローク ボクサーエンジン
ボア × ストローク 101 mm × 73 mm
排気量 1,169cc
最大トルク 115 Nm / 6,500 rpm
圧縮比 12.0 : 1
点火 / 噴射制御 電子制御インテークパイプ・インジェクション、デジタルエンジンマネジメントシステム: BMS-O、スロットル・バイ・ワイヤ
排ガス基準 EU 5+

【走行性能 / 燃費】
最高速度 210 km/h
WMTCに準拠した1Lあたり燃料消費率(1名乗車時) 19.6 km/L
WMTCに準拠したCO2排出量 119 g/km
燃料種類 無鉛プレミアムガソリン(ハイオク)(最大15%エタノール、E15)、95 ROZ/RON、90 AKI

【電装関係】
バッテリー 12 V / 12 Ah、メンテナンスフリー

【パワートランスミッション】
クラッチ 乾式単板クラッチ、油圧作動式
ミッション 常時噛み合い式6 速トランスミッション、分離式ギヤボックスハウジング
駆動方式 カルダンシャフト

【サスペンション / ブレーキ】
フレーム チューブラー・スペースフレーム
フロントサスペンション 倒立式テレスコピックフォーク、直径45mm、スプリングプリロード調整可能、リバウンドおよびコンプレッション調整可能
リアサスペンション アルミキャストシングルスイングアーム
サスペンションストローク、フロント/リア 210 mm / 200 mm
最低地上高 240 mm
軸距 1,585 mm
キャスター 120.8 mm
ステアリングヘッド角度 63.1°
ステアリングロック角度 42°
ホイール クロススポークホイール
リム(フロント) 2.15″ × 21″
リム(リア) 4.00″ × 17″
タイヤ(フロント) 90/90 -21
タイヤ(リア) 150/70 R17
ブレーキ(フロント) ダブルディスクブレーキ、 2ピストンフローティングキャリパー
ブレーキ(リア) シングルディスクブレーキ、2ピストンフローティングキャリパー
ABS BMW Motorrad インテグラル ABS Pro(パーシャリー・インテグラル)

【寸法 / 重量】
シート高、空車時 860 mm(GSスポーツ:875 mm)
インナーレッグ曲線、空車時 1,935 mm
燃料タンク容量 約15.5 L
リザーブ容量 約4 L
全長 2,285 mm
全高 1,240 mm(ミラーを含まない) ※GSスポーツ:1,250 mm(ミラーを含まない)
全幅 900 mm ※GSスポーツ:970 mm (ミラーを含まない)
乾燥重量 216 kg
車両重量(ドイツ工業規格DIN 空車時、走行可能状態、燃料満載時の90%、オプション非装備) 229 kg
許容総重量 430 kg
最大積載荷重(標準装備の場合) 201 kg
車両重量(日本国内国土交通省届出値、燃料100%時) 234 kg

生産国:ドイツ