モトクロッサーは生粋のレーシングマシンである。ライバルたちに勝つため、レーシングマシンが進化を続けるのはある意味で宿命だ。今回はヤマハのモトクロッサーYZ450Fに2026年モデルに試乗。その進化の度合を確認することにした。
勝つための選択

モトクロッサーのトップカテゴリーでは国内4メーカーに加えてKTM、ハスクバーナ、GASGASなども加わって激しい戦いが繰り広げられている。そんな中でYZ450Fはライダーたちから評価が高い。特に2023年モデルが登場したときはスリムでコントロールしやすく、ストックのサスペンションでも十分な性能を持つことなどが高く評価された。ところが2025年にはライバルであるKTMやホンダもポテンシャルを上げて追従。2026年モデルのYZ450Fは、エンジンから車体、サスペンションなどすべてを見直すことで、レースで勝てるNo.1性能を目指している。

エンジンに求められたのはパワフルでありながら扱いやすいこと。この目標を達成するためエンジンには細部まで手が入れられている。エンジンは吸気ポートと吸気ダクトの見直し、ACMローターの慣性マスアップによるコントロール性向上、排気レゾネーターによって中速トルクアップなどが図られている。激しいバトルでは強い武器になることは間違いない。

今回のエンジンで最も注目すべきはレブリミットアップと油圧クラッチ化だろう。レブリミットアップはレースでの戦い方を確実に有利にすることができる。忙しいコースでは、シフトアップして、すぐにシフトダウンしなければならないようなシチュエーションも少なくない。レブリミットが高くなれば、こういうセクションでもギアチェンジせずに走ることができる。変速によるロスがなくなればライダーはライディングに集中できるのである。

油圧クラッチは、ライバルたちが先行して採用しつつある装備である。走行中に遊びの変化がないことからYZ450Fでもアフターマーケット製の油圧クラッチを装着するライダーもいた。しかし市販レーサーヘの採用は簡単ではない。ワイヤー式のクラッチに慣れたライダー達の中にはフィーリングが異なるため油圧クラッチに対して違和感を覚えるライダーもいるからだ。新型のYZ450Fではこの点を徹底的に対策してワイヤー式と同等以上のフィーリングを実現。さらにスプリング荷重をあげて伝達率をアップさせ、クラッチが焼けにくい構造にしている。
高性能なのに乗りやすい

テスターのゴトーはオフロードが大好きだが、モトクロッサーの経験はそれほど多くない。競技車両でオフロード(と言えるかは微妙だが)レースをしたのはハスクバーナで数年間モタードをやっていたのが最後である。こうなると2026年式YZ450Fのパフォーマンスの向上に関しては少しコメントしにくい。定期的にオフロードバイクでダートは走っているが、最高峰のモトクロッサーというものは市販車とは別次元の乗り物である。450ccモトクロッサーのレスポンスとパワーの出方は凄まじく、うっかりスロットルを開けたら振り落とされかねない。実際数年前に某メーカーのモトクロッサーを試乗したときは、張り切って走ったものだからすぐに腕が上がってしまい、ギャップで右腕が動いたときにバイクが勝手に加速してしまって慌てたこともある。このパワーの乗り物を、本格的なモトクロスコースで走らせるのは、林道をストリート用のオフロードバイクで走るのとはわけが違うのだ。
そんな感じで今回の市場に関してはかなり警戒していたのだけれど、バイクに跨った時点で拍子抜けしてしまった。エンジンの始動ははセルになっているし、トラクションコントロールもついているというではないか。「ずいぶんフレンドリーに進化しているんだな」と思って走り出してみると、この印象が更に強くなった。想像して以上に乗りやすいことに気がついたからだ。
一昔前の450ccモトクロッサーは、かなりの上級者じゃないと乗れたもんじゃないという感じがしたものだが、パワーモードをスムーズにして走っていれば極めて扱いやすい。様子見でコースを流して走っていても軽さとパワーのおかげでスイスイと走ることができる。スロットルのマネージメントが素晴らしいからライダーの意思に忠実。思わぬ勢いで加速して慌てるようなことはない。もちろんスムーズモードでもパワーは十分に発揮されていて、スロットルをひねれば瞬間的に加速するのだけれど、スロットルの開け始めのリニアな感じが分かりやすいから恐怖感がない。テスターのレベルではサスペンションの性能をフルに使い切ることはできないが、それでも動きの素晴らしさは実感することができる。フロントの接地感が高さにも助けられて少しずつ慣れてきてペースを上げると、かなりのスピードでギャップに突っ込んでしまったりするが、バイクはまったく何事もなかったかのうよに走ってしまう。ピンポイントで性能を発揮するのではなく、許容度がとても広いのである。
ある程度走って体が慣れてきたところでパワーモードをスタンダードにするとレスポンスが2割くらいアップして短い距離で鋭く加速することができるようになった。それでもスロットルの反応に唐突感はなく、ライダーが意図したとおりにマシンが加速する点はまったく変わらない。450cc本来のパワーを磨き上げているだけでなく、扱いやすさを大幅に進化させたYZ450Fは、中級レベルのライダーでもモトクロスを楽しむことができるくらいの楽しさを身に着けていた。この特性はトップライダーたちが、激しいバトルを繰り広げていときでも効果を発揮することだろう。
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