連載

自動車エンブレム秘話

MINI

英国の創造力が生んだ「小さな車体に大きなスペース」

初代MINIと設計主任を務めたサー・アレック・イシゴニス。
初代MINIと設計主任を務めたサー・アレック・イシゴニス。

MINIの物語は、第二次世界大戦後の燃料不足と経済の合理化が求められた1950年代後半に始まる。当時、英国の大手自動車メーカー BMC(British Motor Corporation)は、傘下に Austin(オースチン)と Morris(モーリス)という2つのブランドを抱えていた。同社は限られた全長で最大限の室内空間を確保するため、フロント横置きエンジンと前輪駆動という当時としては革新的なレイアウトを開発した。

BMCはこの小型車にオースチン セブン(Austin Seven)とモーリス MINI マイナー(Morris Mini-Minor)と名付け、1959年に同時発売した。二重ブランド展開だったが、次第にMINIという車名が象徴的に独立していく。1962年にはオースチン MINI(Austin Mini)に統一され、1969年に単独ブランド「MINI」が確立された。

ホイールと翼が語るMINIのブランド価値

最新のMINIのエンブレム。円=ホイールはエンジニアリングの緻密さを、翼は自由と俊敏さを象徴する。
最新のMINIのエンブレム。時代を反映して、シンプルで視認性の良いデザインが施されている。

MINIのエンブレムを形づくる円と翼は、ブランドの誕生以来受け継がれてきた伝統的モチーフであり、その組み合わせがMINIの個性を象徴している。BMWグループは、2017年の公式リリースで「翼の付いたホイールという伝統に根ざした基本要素を保持することが、ロゴの即時認知性を担保する」と説明している。「クロームのホイールと様式化された翼は、driving fun(走る喜び)、individual style(個性)、premium quality(プレミアム品質)の象徴として世界的に知られている」と述べており、MINIが掲げる価値を可視化するデザインとしての役割を強調している。

英国ブランドに共通する“翼”の文化的背景

同じ英国ブランドのベントレーやアストンマーティンもまた、エンブレムに翼を採用している。ベントレーでは力強さと気高さ、アストンマーティンではスピードと気品を象徴する。公式な情報はないようだが、MINIの翼は親しみやすく、日常に自由をもたらす軽やかさを表現したのではないだろうか。ウイングモチーフという共通言語の中で、MINIは当時の英国における庶民のカルチャーを自由と俊敏さに翻訳したのかもしれない。

ロゴの進化:時代に合わせた3段階の刷新

2つのブランドに始まる原点

1959年登場の初代モデルの場合モーリス MINI マイナーにはオックスフォード市の紋章である赤い雄牛と三本の波を円の中に描き、左右に翼を配したバッジが装着された。一方、オースチン セブンでは五角形のバッジを用い、販売チャネルによって異なるロゴが使われていた。

単独ブランド化と意匠の整理

1969年にMINIが単独ブランドとして独立すると、複数のバッジ体系は整理された。しかし、一部に円形を基調にしたバリエーションのほか、 “MINI shield”呼ばれる盾型の派生エンブレムなども存在した。

完全に“ウイングド・ホイール”に統一されたのは、1990年の新型MINI クーパーの登場がきっかけだ。モーリス MINI マイナーが纏ったエンブレムの意匠を受け継ぎながらも、雄牛と3本の波の代わりに”MINI COOPER”の文字が円の中に刻まれた。1996年には、MINIの四文字が円の中に書かれたバージョンが登場し、すべてのモデルに装着されるようになった。

BMW傘下での再出発

2001年のBMW傘下での再出発では、この伝統的モチーフを受け継ぎつつ、立体的でメタリックなロゴに進化。新生MINIの象徴として、モダンで洗練されたブランドイメージを確立した。さらに2018年にはデジタル化に対応するフラットなデザインへ移行する。陰影を排し、円と翼だけを残した新しいロゴは、シンプルでありながらもMINIらしい俊敏さと自由を表現している。

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