Mark VI

わずか11台のみ製作されたマークⅤ

「ベントレー マークV」
「ベントレー マークV」

1939年、ベントレーはX型のクロスフレームで剛性を強化したラダーフレーム・シャシーにフロント・ダブルウイッシュボーン・サスペンションを組み込んだ「マークⅤ」を開発。同年のロンドン・ショーで発表する予定だったが、第2次世界大戦の勃発により中止。マークⅤも11台が製作されただけでお蔵入りとなってしまった。

その頃ロールス・ロイスは暗雲立ち込めるヨーロッパ情勢の中、航空機エンジンの需要増加を見越してチェシャー州クルーに60エーカーの大規模な工場を建設。1939年から液冷V型12気筒のマーリン・エンジンの製造を開始した。

そして1945年5月にヨーロッパでの戦争が終結すると、ロールス・ロイスは航空機用ジェット・エンジンの生産拠点をダービーに移動。広大なクルー工場は自動車工場に転用されることとなったのである。

こうして自動車工場として再始動することとなったクルー工場の生産第1弾として1946年に登場したのが「ベントレー マークⅥ」だ。

オーナードライバー需要の増加を見越して

「ベントレー マークⅥ」
「ベントレー マークⅥ」

その最大の特徴は、ローリングシャシーで出荷されていたこれまでのモデルと違い、クルー工場でスタンダードのスチール製4ドアサルーンボディを装着したことにあった。ジョン・ポルウェル・ブラッチリーがデザインしたボディは、オーナードライバー需要の増加を見越したコンパクトかつスポーティーなもので、カウリーのプレスト・スチール社で製造されたのちクルーに運び込まれ、コノリー革張りのシート、ウォールナット材のダッシュボードとドアトリム、ウィルトンパイルカーペットからなるインテリアの取り付けを行ったあとでシャシーにアッセンブリーされる手順となっていた。

またチーフエンジニアのイヴァン・エヴァンデンの元で開発が進められたシャシーは、マークⅤをベースにホイールベースを120インチに短縮したもので、フロントにコイルスプリングをもつダブルウイッシュボーンサスペンションを採用している。

直列6気筒OHVエンジンは排気量こそ4257ccと戦前の4 1/4リッターと同じながら、シリンダーヘッドとブロックを一体化し剛性アップを図った新設計のB60型エンジンを採用。陸軍の装甲車にも使用されたこのエンジンの設計上の目標は10万マイルとされるほど、高い耐久性を誇るのも特徴であった。そこに組み合わされるトランスミッションはシンクロメッシュ付きの4速MTで、右ハンドル車は右側フロアシフト、左ハンドル車はコラムシフトの設定となっていた。

1952年にRタイプへと進化

「ベントレー マークⅥ」
「ベントレー マークⅥ」

1952年までに5208台が製造されたマークⅥだが、このうちクルー製のサルーンボディをもつのは4196台で、それ以外にはパークウォード製2ドア・ドロップヘッドクーペ、ジェームス・ヤング製4ドア・スポーツサルーン、H.J.マリナー製4ドア・サルーンなど様々なコーチビルド・モデルが製作されている。

またマークⅥ自身も1952年にリヤを6インチ延長してラゲッジスペースを拡大したRタイプに進化。それに伴いハイドラマティック4速オートマティック・トランスミッションもオプション装備されるようになったこともあり、1955年までに姉妹車の「ロールス・ロイス シルバードーン」を大きく上回る2500台が生産された。

戦後のベントレーの復興を支えたモデル

「ベントレー マークⅥ」
「ベントレー マークⅥ」

このように飛躍的に生産台数が伸びたことで、マークⅥ、Rタイプは戦後のベントレーの復興を支えるという重要な役割を果たした。しかしながら、イギリスの厳格な配給制度による鉄鋼不足、また鉄鋼自体の質の悪さから、深刻な生産台数不足や品質問題に悩まされたのも事実である。

現在ベントレー・モーターズが所有するマークⅥは、H.J.マリナーによって製作された241台のコーチビルド製4ドア・6ライト・サルーンのうちの1台。1950年1月に最初の所有者であるアラバスティン社のウィリアム・ラウントに引き渡された後、数人のオーナーの手を経て2021年にベントレー・ヘリテージ・コレクションへと帰還。そこから徹底的なレストアが施され、往年の姿を取り戻している。

サイレント・スポーツカーとも称された「ベントレー 3 1/2リッター ダービー」。

洗練と速さを実現したサイレントスポーツカー「3 1/2リッター」とは【ベントレー100年車史】

今や高級スポーツカー・メーカーとしての地位を確固たるものとしたベントレー。その誕生の原動力となったのはウォルター・オーウェン・ベントレーの情熱と独創的技術だ。そこから始まった100年に渡るクルマ作りの歴史を紐解いていこう。今回はサイレント・スポーツカーとも称された「3 1/2リッター ダービー」。