この試乗会では全車がダート走行に適したタイヤを装着

「BMW MOTORRAD ADVENTURE MODELS TEST RIDE」に用意された試乗車。

群馬県にあるモトフィールド榛名で開催された「BMW MOTORRAD ADVENTURE MODELS TEST RIDE」。上はR 1300 GS アドベンチャーから、下はF 310 GSまで、GSと名が付く現行モデル全機種に乗れるというまたとない試乗会だ。前日の降雨によってメインの森林コースはクローズドとなり、フラットな外周路を走るのみとなったが、それでも各車の違いは十分に感じ取ることができた。

BMW・R 1300 GS トロフィー……300万2000円~

エンジン形式:空水冷DOHC 4バルブ水平対向2気筒 排気量:1,300cc 最高出力:145PS/7,750rpm 最大トルク:149Nm/6,500rpm サスストローク:フロント210mm・リヤ220mm タイヤ:フロント120/70R19・リヤ170/60R17 シート高:870mm 車重:260kg
試乗車はGSスポーツ(エンデューロパッケージプロを採用)という仕様で、試乗車は鍛造エンデューロホイールを履いていた。なお、このGSトロフィーにもアダプティブ車高調整やASAなどを装備したGSツーリング仕様が用意されており、そちらは327万6000円となる。

最初に紹介するのは、GSシリーズの王道“R 1300 GS”だ。試乗した仕様は、このレーシング・ブルー・メタリックのみに設定されるGSスポーツで、「GSトロフィー」という名前が付けられている。電子制御サスペンション(DSA)は、前後ともホイールトラベル量を20mm延長したスポーツ仕様となる。なお、速度が25km/hを下回ると自動的に車高を下げるアダプティブ車高調整機能は備わっておらず、シート高は公称870mmとかなり高めだ。

最高出力145PSを発揮する空水冷ボクサーツインは、歩くような極低回転から力強く粘り、スロットルの開け方次第で自在にパワーを引き出せる。滑りやすい路面であえて大きくスロットルを操作しても、空転することなくスルスルと前へ進む。その制御の要となるのが、ライディングモードごとに介入度が自動調整される優秀なDTC(ダイナミック・トラクション・コントロール)だ。エンデューロ・プロモードでは、介入を完全にオフにすることもできる。

ハンドリングは、この車格と重量を感じさせない軽快さ。特に印象的だったのは、足周りの動きの素晴らしさだ。コース上の木の根が連続するセクションでも、スタタタッと軽やかに通過し、その衝撃はライダーにほとんど伝わらない。前後輪が完全に浮くようなジャンプスポットでも、着地後の姿勢変化は一瞬で収束し、ライダーを慌てさせることがない。高く飛びすぎた際には、テレレバー&パラレバー特有のバネ下の重さを感じることもあるが、それでも「BMWがESAを採用して20年、電子制御サスはここまで進化したのか」と思わず唸らされた。

筆者自身、かつてKDX200SRやセロー250を所有していたものの、オフロード走行はあまり得意ではない。それでもR 1300 GSなら、走る・曲がる・止まるという指示さえすれば、あとはバイク任せで林道も楽しく走れてしまう。まさに“頼れる相棒”と呼ぶにふさわしい存在だ。

BMW・R 1300 GS GSツーリング ASA……339万8000円~

エンジン形式:空水冷DOHC 4バルブ水平対向2気筒 排気量:1,300cc 最高出力:145PS/7,750rpm 最大トルク:149Nm/6,500rpm サスストローク:フロント190mm・リヤ200mm タイヤ:フロント120/70R19・リヤ170/60R17 シート高:820~850mm 車重:258kg
試乗車はオプション719のアウレリウス・グリーン・メタリック(+35万円)で、車両価格は358万7000円となる。

次に紹介するのは、クラッチ操作を自動化する新機構「ASA(オートメイテッド・シフト・アシスタント)」を搭載した“R 1300 GS GSツーリング ASA”だ。クラッチレバーは存在せず、シフトペダルによるマニュアル操作と、完全オートマチックモードの切り替えが可能となっている。

このASAの制御は非常に緻密で、舗装路でもダートでも、発進や停止時のクラッチミートに違和感はまったくない。オートマチックモードでは、発進直後にスムーズにローから2速へシフトアップし、停止直前までローには戻らない。たとえば20km/hほどでダートを流していても、常に2速のまま走れるほど制御が巧みであり、ノッキングの気配すらない。そして、そのままスロットルを開ければ、軽くジャンプスポットを飛び越えてしまうほどだ。

さらに、この“GSツーリング ASA”にはアダプティブ車高調整機能が備わっており、停車時の足着き性は抜群。エンデューロモードを選択すると、常に車高が低い状態で保たれ、ライダーがいつでも安心して足を着けるよう配慮されている。そのため、先に紹介したスポーツサスペンション仕様の「GSスポーツ」と比べると、ハンドリングはより穏やかで落ち着いた印象だ。

筆者のように、たまにしかダートへ足を踏み入れないライダーにとっては、この“ツーリング ASA”の方が気負わず楽しめる。オンもオフも、より身近に感じられるGSといえるだろう。

BMW・R 1300 GS アドベンチャー……333万5000円~

エンジン形式:空水冷DOHC 4バルブ水平対向2気筒 排気量:1,300cc 最高出力:145PS/7,750rpm 最大トルク:149Nm/6,500rpm サスストローク:フロント210mm・リヤ220mm タイヤ:フロント120/70R19・リヤ170/60R17 シート高:820/840~850/870mm 車重:284kg
試乗車はブラック・ストーム・メタリック(+10万円)のツーリング(コンフォート&ダイナミックパッケージを採用)仕様で、車両価格は339万7000円。これにASAを加えたものが349万4000円となる。

“R 1300 GS アドベンチャー”は、その名の通り、ビッグタンクとロングトラベルサスペンションを備えたバリエーションモデルだ。「アダプティブ車高調整コンフォート」を標準装備しており、R 1300 GSと同様に停車時の足着き性は良好。しかし、燃料タンクの見た目のボリューム感は2倍ほどあり、実際の重量と高めの重心位置が相まって、オフロードでは相当な緊張感を強いられる。

タイトな場所での取り回しは、舗装・未舗装を問わずやや苦戦する印象で、短時間の試乗においてそれに慣れることはできなかった。一方、ワインディングロードでペースを上げたときの安定感は格別。R 1300 GSとは明確に異なる“重厚な安定性”を感じさせ、まさに大陸横断を想定したグランドツアラーといった走りを見せる。

R 1300 GSおよびアドベンチャーに共通するのが、その秀逸なブレーキ性能だ。前後ブレーキのコントロール性が非常に高く、さらに滑りやすい急な下り坂でも、ブレーキレバーかペダルのどちらか一方を操作するだけで、フルインテグラルABSプロが前後の制動力を的確に配分してくれる。苔むしたアスファルトの下りでも、ABSの介入はごく自然。先進技術の進化を改めて実感させられる一台である。

BMW・R 12 G/S GSスポーツ……245万1000円~

エンジン形式:空油冷DOHC 4バルブ水平対向2気筒 排気量:1,169cc 最高出力:109PS/7,000rpm 最大トルク:115Nm/6,500rpm サスストローク:フロント210mm・リヤ200mm タイヤ:フロント90/90-21・リヤ150/70R18 シート高:875mm 車重:234kg
試乗車はライト・ホワイト(+4万2000円)のGSスポーツなので、車両価格は258万7000円。単独の詳しいインプレッション記事はこちら

今回用意されたラインナップで唯一、ヘリテイジシリーズに属するのが“R 12 G/S”だ。エンジンは空油冷時代のボクサーツインで、最高出力はR 1300 GSの145PSに対し、109PSを発生。フロントサスペンションはテレレバーではなく、φ45mm倒立式テレスコピックフォークを採用し、前後ともフルアジャスタブル仕様だ。試乗したのは、リヤタイヤをSTDの150/70R17から150/70R18へ変更し、これに合わせてフォークの突き出し量を12mm減らした“GSスポーツ”という仕様だ。

最新のR 1300 GSからR 12 G/Sに乗り換えると、まず感じるのはエンジンの荒々しい鼓動だ。どこかワイルドで、往年のボクサーツインらしい“生きたフィーリング”が蘇る。この時代の味わいを残してくれたことに、思わず感謝の念が湧くほどだ。レスポンスが鋭い分、後輪が地面を掻きそうになる場面でも、DTCやMSR(エンジンブレーキトルク・レギュレーター)が違和感なく介入し、結果としてダートでの扱いやすさはR 1300 GSと遜色ない。

ハンドリング面では、やや高めのバネレートが影響してか、今回のように速度が抑えられた試乗環境では、サスペンションの潤沢な長さを実感するまでには至らなかった。とはいえ、軽量でシンプルな構造ゆえ、エキスパートライダーならR 1300 GS以上に自在に操れるだろう。ヘリテイジシリーズながら、ここまでの悪路走破性を備えた点は、素直に称賛に値する。

BMW・F 900 GS……204万3000円~

エンジン形式:水冷DOHC 4バルブ並列2気筒 排気量:894cc 最高出力:105PS/8,500rpm 最大トルク:93Nm/6,750rpm サスストローク:フロント230mm・リヤ215mm タイヤ:フロント90/90R21・リヤ150/70R17 シート高:870mm 車重:224kg
試乗車はサンパウロ・イエロー(+3万円)なので、車両価格は207万3000円。

続いては、2024年のフルモデルチェンジで排気量を引き上げ(853cc→895cc)、名称もF 850 GSから変更された“F 900 GS”だ。全体の約80%のパーツが新設計となり、車体は14kgもの軽量化を達成。フロントにはショーワ製φ45mm倒立式テレスコピックフォーク、リヤにはZF/ザックス製ショックユニットを採用し、いずれもフルアジャスタブル仕様だ。さらに、アクラポヴィッチ製スポーツマフラーを標準装備している。

270°位相クランクの水冷パラツインは、全域で軽快に吹け上がり、低回転でもしっかり粘る。20km/h程度で流してもスナッチ感がなく、扱いやすさとスポーティさを高次元で両立。最高出力はR 12 G/Sに限りなく近いが、回転上昇の鋭さと車体の軽さが相まって、走りの印象はより軽快で俊敏だ。

また、コンベンショナルなサスペンションはストローク感が豊かで、ダート走行時の安心感も高い。モデルチェンジの方向性が、明確にオフロード寄りへとシフトしているのが伝わってくる。林道から本格的なトレイルまで、“オフのGS”を求めるライダーに最適な一台と言えよう。

BMW・F 800 GS……138万5000円~

エンジン形式:水冷DOHC 4バルブ並列2気筒 排気量:894cc 最高出力:87PS/6,750rpm 最大トルク:91Nm/6,750rpm サスストローク:フロント170mm・リヤ170mm タイヤ:フロント110/80R19・リヤ150/70R17 シート高:760mm 車重:238kg
試乗車はレーシング・ブルー・メタリック(+2万7000円)のGSツーリング ローシートモデルなので、車両価格は155万4000円。

試乗車はレーシング・ブルー・メタリック(+2万7000円)のGSツーリング ローシートモデルなので、車両価格は155万4000円。

F 900 GSと同じタイミングでF 750 GSからモデルチェンジを果たしたのが“F 800 GS”だ。排気量は兄弟モデルと同じ894ccながら、最高出力を105PSから87PSへ抑え、低中回転域での扱いやすさを重視したチューニングが施されている。

試乗したのは、ローダウンサスペンションとエクストラ・ローシートを組み合わせた仕様で、シート高はわずか760mm。ホンダの原付二種スクーター・リード125と同値と聞けば、その低さが伝わるだろう。

この車高の低さは、最初こそ違和感を覚えるものの、すぐに足が届くという安心感が圧倒的だ。さらに、900よりも一層粘り強いエンジン特性が相まって、気付けばダート走行も自然と楽しめてしまう。低重心化により舗装路ではハンドリングに多少のクセは感じるものの、それ以上にダートで得られる安心感と扱いやすさは大きな魅力だ。

BMW・G 310 GS……74万円

エンジン形式:水冷DOHC 4バルブ単気筒 排気量:312cc 最高出力:34PS/9,250rpm 最大トルク:28Nm/7,250rpm サスストローク:フロント180mm・リヤ180mm タイヤ:フロント110/80R19・リヤ150/70R17 シート高:835mm 車重:175kg ※試乗車はポーラー・ホワイト/レーシング・ブルー・メタリック(+1万3000円)なので車両価格は75万3000円。

最後に紹介するのは、GSシリーズの末弟“G 310 GS”だ。今年の東京モーターサイクルショーで公開された「コンセプトF 450 GS(水冷パラツイン)」の登場を控えているが、とはいえ普通二輪免許で乗れるこの310の魅力は今なお健在だ。

筆者は初期型の2018年モデルを含め、これまで何度か試乗してきたが、今回はオフロードタイヤを装着してのダート走行に初挑戦。F 800 GSと共通サイズのタイヤを履くこともあり、軽量な車体と相まって安定感は上々だ。ペースを上げるとサスペンションの動きに限界を感じる場面もあるが、ツーリング中に偶然見つけた林道を抜ける程度なら何の不安もない。

単気筒ながら低回転域でエンストしにくく、スロットル操作に対する反応も素直。軽さとという絶対的なアドバンテージを持つ“スモールGS”は、初心者からベテランまで安心して楽しめる一台だ。

それは「どんな道でも、自分らしく走れるという自由」

1980年に登場したR 80 G/S以来、BMWモトラッドのGSシリーズは45年にわたりアドベンチャーバイクの代名詞であり続けてきた。最新のR 1300 GSファミリーからコンパクトなG 310 GSまで、そのラインナップは幅広いが、すべてのモデルに共通して流れる思想がある。それは「ライダーの意思を尊重しながら、あらゆる路面で走りの自由をもたらす」というフィロソフィーだ。

こうして改めて見渡すと、GSシリーズの本質は「走破性」や「電子制御」といった単なる機能の集合体ではなく、“人とバイクがどんな状況でも前に進めること”への信頼にあると感じた。BMWモトラッドが追求しているのは、技術の進化そのものではなく、ライダーに「自由」という体験を与えることのような気がしてならない。