スタイリングを磨いた正統進化の姿

ホンダの中核スポーツモデル、CBR650Rが2026年モデルとして欧州で登場した。テクニカルな変更はないが、熟成を極めた完成度と新しいカラーバリエーションが存在感を放つ。精悍な「グランプリレッド(トリコロール)」に加え、精密機械のような輝きを放つ「マットガンパウダーブラックメタリック」が新たに加わり、差し色のイエローディテールが力強い印象を与える。
ボディラインは2024年に刷新されたデザインを継承。鋭いフロントマスクと細身のカウル、そしてテールまで流れる一体感のある造形が、スーパースポーツの血統を感じさせる。5インチフルカラーTFTディスプレイは視認性に優れ、Honda RoadSyncによるスマートフォン連携でナビゲーションや音楽再生、メッセージの確認も可能だ。光学接着技術により反射を抑え、陽光下でもクリアな表示を実現している。
650cc直列4気筒が奏でる官能的な回転フィール

搭載されるエンジンは649cc水冷直列4気筒DOHC16バルブユニット。最高出力95PS/1万2000rpm、最大トルク63Nm/9500rpmを発揮し、伸びやかな吹け上がりと中回転域の厚みあるトルクが特徴だ。吸気ダクトを前方に設けたダイナミックインテークが高回転での充填効率を高め、官能的なエキゾーストサウンドを響かせる。
潤滑や冷却効率を高めるためにシリンダーには微細な突起加工を施し、ピストンは摩擦を抑える非対称設計を採用。軽快なシフト操作を支えるアシスト&スリッパークラッチとHSTC(トラクションコントロール)が標準装備され、快適さと制御性を両立する。燃費はWMTCモードで20.4km/Lを記録し、15.4Lのタンクと合わせて300kmを超える航続距離を確保する。
イタリアではE-Clutchのみのラインアップに

2026年型CBR650R最大の特徴は、イタリア市場ではE-Clutch(電子制御クラッチ)仕様のみの展開となった点にある。従来のクラッチレバー操作を不要とし、発進・停止・変速・シフトダウンすべてをペダル操作のみで完結させる機構だ。電子制御ユニットがクラッチ操作、点火カット、燃料制御を統合的に制御し、スムーズかつ確実な変速を実現。ライダーは意識せずとも最適なタイミングでクラッチが作動し、ストールやギクシャクを完全に排除する。
重量増はわずか2kgに抑えられ、マニュアルクラッチレバーも残されているため、必要に応じて従来どおり操作できる。さらに、ペダル操作の重さを「Hard/Medium/Soft」の3段階から選択可能。電子制御ながらもライダーの好みに応じたフィーリングを再現する。サーキットでのシフトスピードもクイックシフター以上の精度を発揮し、スポーツ走行の楽しさを次のステージへと押し上げている。
熟成のシャシーと高品質なディテール

スチール製ダイヤモンドフレームを核に、Showa製41mm倒立フォークSFF-BPとリンク式リアショックが路面を正確に捉える。ラジアルマウントの4ピストンキャリパーと310mmダブルディスクが強力な制動力を発揮。前後17インチホイールには120/70ZR17・180/55ZR17サイズのスポーツタイヤを装着する。
シート高810mm、車両重量はE-Clutch仕様で211kg。前傾姿勢ながら長時間のライディングにも疲れにくいポジション設定がなされ、スポーツからツーリングまで幅広く対応する。USB-C電源やシート下収納など、日常での利便性も忘れていない。
2026年型CBR650Rは、ミドルクラスながらホンダが培ってきたスーパースポーツの魂を凝縮した存在だ。進化したE-Clutchがもたらす新しいライディングフィールと、完成度を極めたスタイリング。電子制御とアナログの絶妙な融合が、これからのスポーツバイクの在り方を示している。
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