ファンティック・キャバレロスクランブラー

スクランブラーの風上にいるヤツ

最近はあらゆるメーカーから「スクランブラー」なるモデルが、排気量問わずに多数登場している。スーパースポーツモデルやアドベンチャーモデルといった流行もあったけれど、それに代わるようにスクランブラーが市民権を得始めているのは、おしゃれであることはもちろんのこと、オンロードやある程度のオフロード、そしてストリートやツーリング、タンデムまであらゆる使い方において高い平均点を提供してくれる万能選手だからだろうか。
そんな中でのキャバレロスクランブラー。モータリストが取り扱いを始めたのが2020年のため日本ではまだ5年ほどという歴史ではあるものの、同社のフラッグシップモデルということもあって「ファンティックはスクランブラーに強い」というイメージにもなっていると思うし、少なくとも国内においてはスクランブラーというカテゴリーの広がりに大きく貢献してきたモデルだろう。
そんなキャバレロスクランブラーがモデルチェンジ。全体的なルックスやカラーリングに大きな変更がなくマイナーチェンジに見えるが、実はフレームもエンジンも刷新し、しかも今回のモデルチェンジを機に完全なるイタリア生産にスイッチしているのだ。
スクランブラーの風を強く吹かせてきたキャバレロの新型、いかに⁇

乗りやすい!使いやすい!

オールラウンダー的ポジションにあるスクランブラーというカテゴリー、その中でも従来型キャバレロはストリートやオフロードシーンでも十分楽しさを発揮していたのに加え、オフロード向けのタイヤを履いているにもかかわらずオンロードでの性能/楽しさが高いのが大きな魅力だった。トルクフルで瞬発力のある449㏄エンジンと軽量な車体の組み合わせで、ワインディングも大得意だったのである。
しかし一方で、ちょっと尖った部分もあるにはあった。絶妙なインジェクションセッティングや排気管長を長くとったエキパイなどのおかげで常用域でも使いやすくなっていたものの、エンジンの基本的な姿勢は「コンペティション」を意識させるもので、どこか玄人向けな雰囲気があった。車体もしかりで、包容力のあるライディングポジションに助けられてはいたものの、ハンドリングは意外とクイックでこれまた玄人向け。もっともこの本格さがキャバレロの魅力でもあったわけだが。
ところが新型では「本格さ」は維持したまま、ずいぶんと付き合いやすくなっているのだ。常用域でのトルクの出方は扱いやすくなり、右手の入力に対して過敏さが抑えられた。また中回転域も従来型ではコンペモデルを意識させるガオッとフケだったのに対し、新型はナチュラルに高回転域へと橋渡ししてくれるイメージ。そして高回転域は頭打ち感なくパワーバンドを駆け抜けてレッドゾーンへと飛び込んでいくのは新設計DOHCヘッドの採用によるものだ。
特に1~4速の間では格段に扱いやすくなっている。あらゆる制御に緻密さが加わり、「開ければ速い!」という魅力は決して失われていないのに、意図した以上に開けてしまう、だとか、そんなつもりじゃなかった!といったライダーの想定を上回るような反応をしない。いい意味でズボラに運転しても許してくれる優しさが加わったことで、玄人でなくとも楽しめる設定になっている。
ワインディングロードでは2~3速を中心に使うととても楽しく走れる。3000回転を割り込んでもアクセルを開ければスムーズに加速してくれるし、わかりやすいパワーカーブで高回転へと伸びていくためアクセル操作に神経を使うこともない。むしろガンガン開けていく楽しみがますます大きくなっているのはこの開けやすさ、反応の素直さのおかげだ。
それを支えるのが、これまたNEWとなっている車体。簡単に言えばネック角を少し寝かせた、ということなのだが、加えてフォークのダンピングが見直されたためフロント回りに落ち着きがでた。先代モデルもこの方向に振ってあり、初期型のピョコタンとしたダンピングは改善されていたが、最新型ではさらにここに手を入れ別物のようにシットリ仕上げている。これによりオンロードも路面状況に左右されずにより積極的に走れるし、オフロードもかつてはちょっとフロント回りがクイックすぎて攻めきれないところがあったのが改善。真のスクランブラーとして、場面を選ばずにガンガン走れるようになったのだ。
エンジン、フレーム共に、新型キャバレロは落ち着いた方向へとシフトしている。しかしそれは全てにおいて良い方に作用していると感じる。らしさやエキサイティングさは失われずに、汎用性が高まっているのである。

イタリア製のDOHCエンジン

 もともとファンティックはイタリアンメーカーなわけだが、タイトルにわざわざALL ITALIANと記したのは、先代までのエンジンはファンティックが設計し、中国のエンジンメーカーに製造を依頼していたという経緯があったからだ。
先代のエンジンも大変魅力的ではあったのだが、今回のモデルチェンジではユーロ5+に対応させるのを機に排気量を449㏄から460㏄へと拡大し、またヘッドをこれまでのSOHCからDOHCに新作するなど大掛かりな変更を加えた。これを機に製造もイタリアのミナレリ社へと移したのだ。
 ミナレリ社といえば老舗エンジンメーカーであり、今度の新作エンジンはファンティックとミナレリが共同開発して生み出された。ベースは先代の設計を引き継ぐものの、DOHC化するとともに性格の変わったエンジンは2社による緻密な連携で作り上げられたもの。全てがイタリア国内で完結するという意味でも小回りが利いた開発だったことだろう。
DOHC化したからと言って高回転型エンジンになったわけではなく、常用域の活発さは変わらずだ。ファンティック輸入元モータリストによると「低回転域が少し薄くなって、その代わり高回転域がプラスされた感じでしょうか」と説明してくれたが、実感としては低回転域が(規制対応により)薄くなってしまったという感覚はなく、むしろそれが開けやすさ/扱いやすさにつながっているとさえ思えた。
ミッションは1~4速がクロスしているのに対して5速6速は離れていてオーバードライブ的な設定のようだ。「キャバレロらしい活発さを楽しんでもらえるのは4速まででしょう。新作DOHCエンジンになったこともあり、これら低いギアを使ってガンガン回して、軽量な車体を思い通りに振り回せる設定としています。逆にハイギアードな5速、6速は郊外でのツーリングや高速道路用と考えてもらってもいいかもしれません」(同)とのこと。またこの設定によって燃費も向上しているという。
確かに、ストリートとワインディングを中心に行った試乗時はワイドバンドに使える3速と4速をメインに使っていた。一般道をゆっくり走っているときでは、5速に入れるとちょっとギア比が高すぎてガチャガチャしてしまうイメージだ。回転数が低すぎる状態で間違って5速に入れてしまうと、ストールしないようにクラッチをつないだ時に自動でアクセルを微開してくれる制御が働く。これは不意なエンストや不必要なガチャガチャ感を回避してくれるシステムなわけだが、場面によっては車体がウッと前に出る感覚もあるため、4速、5速間のシフトチェンジはちょっと慣れが必要になる。

今回のモデルチェンジで全体的に接しやすくなったエンジン。1~4速はキャバレロらしい活発さを維持したままDOHC化により高回転域という新たな魅力もプラス。5速、6速のワイド化により燃費、高速巡航性といった汎用性が高まった。先代を知っている人も知らない人も「面白い!」と思えるはずだ。

車体は3cmスリム化で足つき向上

フレームは新作といっても基本的にはキャスターを寝かせたというのが大きな変更。キャスター角を0.5度ほど寝かせることでハンドリングにしっとり感が出たのは先述したとおりだ。先代までは19インチとは思えないようなクイックな反応も魅力ではあったのだが、一方でオフロードや、オンロードでも路面が悪いような場面ではちょっと気を使うこともあった。新型のネック角およびフォークのダンピング設定変更はこの点の心配を払しょくしてくれている。
同時にこのネック角変更はフロント21インチとしたバリエーションモデル(ラリー仕様)展開という意味合いもあった。21インチの大径ホイールはオフロード性能を向上させる一方でフルボトム時に前輪が車体に近づきすぎてしまい、最悪の場合フレームやエキパイにぶつかってしまうからだ。そんな都合もあったわけだが、しかしこの19インチ版の乗り味からしてもこの変更は大歓迎であり、今回のモデルチェンジのテーマである汎用性の向上に沿っていると感じる。
なお、ネックだけではなく新作エンジンを搭載すべく細部も変更されている。エアクリーナーボックスの形状変更などもあり、それに伴ってまたぐ位置は3㎝もスリム化させていて、足つきも向上しているのだ。

「遊ぶ」楽しさから「使う」楽しさへ

キャバレロはとにかく楽しいバイクだ。軽くてパンチがあって、そしてオシャレであることも大切な要素であり、乗って楽しく所有する楽しさもある。ただ先代までは「楽しみに行く」といったニュアンスもあった気がする。どこかコンペモデル的な、バイクそのものを楽しむ、というか。
対する新型はそのコンセプト通り、汎用性が高まったことでよりバイク「で」楽しむような場面が想像できた。キャバレロが主役にならなくてもいい。のんびりとツーリングに行っても良き相棒になってくれるだろうし、向上した燃費や使いやすくなった常用域で普段のストリート使いでも付き合いやすくなっているのだ。
先代までのように「今日はバイクを楽しむぞ」というアプローチももちろんいいし、新型はそんな使い方にも応える。しかし同時にそんなに高いモチベーションを持って臨まなくてもナチュラルに付き合えるような良さも備えたのだ。

オンロードのワインディングは先代も得意なシチュエーションだったが、新型ではエンジンも車体も落ち着きがプラスされたことで今回のようにウェットパッチが残るような難しい場面での安心感が高まった。オフロード向けと思えるタイヤ設定だがオンロードでのグリップも強力。車体を寝かせて頭を残すようなライディングスタイルがとりやすく、先の交通状況を把握したい公道ワインディングはもちろん、特に路面状況を確認しながら走りたい舗装林道といった道にはとても向いていると思う。

オンロード同様、フロント周りのしっとり感はオフロードでも強い味方になっている。先代まではキャスターが立ちすぎていたのか、無理をするとオフ素人には対処が難しいような敏感さが顔を出すイメージがあったが、この新型ではガンガン行けてしまうのだ。オフロードモードにすればABSのリアキャンセル、あるいは前後ともキャンセルが選択可能。前後ともキャンセルするとトラコンも連動してOFFとなるが、そもそもABSもトラコンもオフロードを考
慮して設定されているようで、全ての機能をONのままにしておいても十分オフロードを楽しめた。
エンジンもフレームも新設計のALL NEWと言われても、基本的な輪郭だけでなくカラーリングまで先代を引き継ぐのだからあまりピンと来ないかもしれない。しかし乗ってみると先代からは基本的な姿勢が違っていると感じられ、いかに大きなモデルチェンジかが実感できる。ルックス上ですぐ目に入るのは丸い縁取りのポジションライトがついた新作のヘッドライトやグッとモダナイズされたメーターだろう。

足つき

新作エンジンのエアクリーナーボックスをスリム化させたことなどにより、またがった位置は先代比で3㎝のスリム化を果たしているため足つきは向上。足はステップとペダルの間に降ろすのが自然でそこにストレスはない。またアップタイプマフラーにはカーボンのガードがついていてモモやふくらはぎが熱くなかったのもうれしい。ライディングポジションは先代と同じイメージ。シートの前の方に座ると意外とバックステップで、ロードモデルに近いポジションとなる。

ディテール解説

フロント21インチ仕様の「ラリー」モデルが追加されるという都合もありつつ、それだけではなくより汎用性の高いハンドリングを目指して寝かされたネック角。フロント周りはこれにより落ち着きを得て、路面状況を選ばない性格となった。先代でストロークが延ばされたフォークは径など変わらないものの、内部ダンピングを見直した。フロント周りの落ち着きはこのフォークの設定変更によるところも大きいだろう。またシングルディスクのブレーキは先代は初期制動が強烈だったのに対して、新型は逆に初期はマイルドで握り込んでいって初めて制動力が立ち上がる設定になっている。タイヤは安定のピレリスコーピオンラリーSTRである。
腰下は基本的に先代から引き継いだが、ボアアップによる排気量拡大(449㏄→460㏄)とDOHC化という大手術を受けたエンジン。ファンティック社とミナレリ社の共同開発で、製造はイタリアでミナレリ社が行う。エンジン左側のヘッドカバーにはBIALBERDの刻印、ツインカムという意味であり新作ヘッドをアピールしている。なおユーロ5+対応で熱量が増えており渋滞時は車体左側から熱気を感じることもあった。新型ではオイルクーラーも新設して熱対策を行っている。
ステムやトップブリッヂ同様にステッププレート部もアルミの削り出し品。こんな手作り感が少数生産の少数精鋭を連想させてくれる。フレームはスイングアームの内側を通るしなやかなもので、そのスイングアームの外側からこのプレートをボルト締結。ピボット部の剛性コントロールをしているのだろう。この構成そのものは先代から引き継ぐものだ。
17インチのリアホイールも先代から変わらない。ブレーキがとてもコントローラブルで、オフロードでも制御しやすかったのは好印象。なおABSはモードによってリアのみをカット、あるいは前後共にカット(前後共にカットのモードではトラコンもカットされる)から選ぶことが可能。
アップタイプの2本出しサイレンサーはキャバレロのアイデンティティ。ARROW社の刻印がまたALL ITALIANをアピールする。エキパイからサイレンサーまでカバー類が充実していて、やけどの心配がないのがうれしい。なお排気音はかなり静か。むしろエンジンからのにぎやかなメカニカルノイズと耳に届く吸気音にかき消されてほぼ聞こえないほどだ。
スクランブラーらしいテールとタンデムや荷物の固定にも役立つ大きなグラブレールは継承。一方で新作となったテールランプは中央に穴が開いているという個性的なデザインでとてもかわいらしい。LEDのウインカーにはわざわざFANTICの刻印が入っていて、細部にこだわった作りが見える。
リンク式のリアショックはダブルリングでプリロード調整が可能。なお手前に見えるゼッケンプレート風の丸いカバーは先代では両側にあったのに対し、新型では左側だけとなった。

フレームがスリムになり、足つきが向上したが、それでもシートは幅があって快適性を追求。ただクッションそのものは薄く硬めの座り心地だ。またライダー側は前に傾斜していてかなり前寄り座らせられる感がある。「ここに座るといいバランスでスポーツできるのです」と教えてくれているかのようだが、しかしツーリングも許容するような汎用性が魅力の新型としては、もう少し着座位置に自由度があるといいとも感じた。タンデム部は広く
平らのため、タンデムも荷物の積載も余裕だろう。シート下はあくまでバッテリーへのアクセスだけ。スペースは皆無のためETCなどつけるならば一体型を選ぶことになりそう。
先代は丸ライトの中にメインのライトが下にありその上に小さいライトが並ぶという特徴的なヘッドライトデザインだったが、新型はモダンで精悍な新作に。ぐるっと囲むリングに、上段がロービーム、下段がハイビームという構成だ。裏側は縦にエラが立っているデザインで、これはヒートシンク的な役割なのだろうがデザイン的にも個性的。
ハンドルは極ナチュラル。スクランブラー的にワイドというよりは、普通にロードモデル的な形状でなじみやすい。またグリップラバーの吸い付きが上々で、スロットルワークも正確にできたのがうれしい。クラッチレバーはレバー位置調整機能があったのにブレーキレバーにはなかったのが惜しいか。スイッチ類も先代から大きく進化した部分。先代まではあくまでコンペモデルに最低限のスイッチ類を付けましたというものだったのに対し、
新型は量産品らしい、使いやすい配置で、押した時の反応もわかりやすいものにアップデート。右側には上にハザードスイッチ、下はABSをカットするオフロードモードへと切り替えるボタンであり、長押しして使う。
左右のスイッチボックス同様、先代までは最低限という感だったメーターも一気にモダンなフルカラーへと進化。表示内容はODO、トリップのA&B、バッテリーのボルテージが切り替えられるほかは、常時表示の時計と燃料計、水温系とシンプルなもの。上部に示されるタコメーターもとても見やすく好印象だ。

主要諸元