ヤマハが描く未来の展望

Yamaha(ヤマハ発動機)は、「感じて動きだす」をテーマに、 ジャパンモビリティショー2025 において、ワールドプレミア6機種を含む16モデルを披露する展示ブースを構える。 その中で「TRICERA proto(トライセラ プロト)」は“参考出展車”という扱いながら、ヤマハが描く次世代モビリティの方向性を鮮明に示す1台として注目だ。

このモデルは、単なる未来コンセプトではなく“操る喜び”を検証するためのプロトタイプとして位置づけられ、その存在自体が今後の量産・実装の可能性を示唆している。

構造・操縦系における革新性

TRICERA protoの最大の特徴は、三輪構成かつ 前後輪操舵可能な3WS(三輪手動操舵)機構 を採用している点である。 従来の二輪車や四輪車がもつ操舵感とは異なり、前輪・後輪が協調して角度を変化させることで、極めて高次元の旋回応答性を実現する。ヤマハ自身が「最もFUNを感じる旋回制御」を人間研究の視点から追求したと説明する。

この構造により、運転者は“車体の動き”と“身体の動き”との一体感をこれまで以上に感じられるよう設計されており、“操る”というより“共鳴する”感覚へと近づけている。さらに、車体構成も従来型のバイクや車とは異なり、センターフレームをアーチ型に設計し、機能空間(駆動構成)と人間空間(座席・操作系)を対置させることで、三輪構造そのものを視覚的にも機能的にも主張するデザインとした。

音と感覚を高める演出「αlive AD」搭載

電動化を進めるモビリティにおいて、エンジン音や振動といった“感覚的刺激”が希薄化してしまうという課題がある。その点、TRICERA protoは音響演出に独自のアプローチを取っており、 「αlive AD(アルファライブ・エーディー)」 と呼ばれるサウンドデバイスを搭載。 走行音(駆動音)を単なるノイズではなく“操る喜び”として演出することで、操縦時の没入感・高揚感を増幅しようという狙いである。

このように、車体構造・操舵系・音響演出を包括的に統合することで、TRICERA protoは“移動手段”以上の「操る体験」をデザインしている。

未来モビリティとしての可能性

TRICERA protoは現時点では“参考出展車”であり、量産仕様が即座に示されたわけではない。しかしながら、その構造・演出・デザインのすべてが、ヤマハのブランドスローガン「Revs Your Heart(“心を震わせる”)」をモビリティの次なる形で体現しようという試みだ。

三輪構成という選択は、二輪の軽快さ・遊び感と、四輪の安定性・安心感の中間を目指しており、しかも「操る楽しみ」を主軸に据えている点がユニークである。電動化が進む中、ただ“移動できる”から“操って楽しい”へとシフトするというメッセージを、このモビリティは伝えている。

また、音響演出を設けることで、電動モーター特有の静けさの中に“存在感”や“高揚感”を演出し、新たなユーザー感覚を探っている。量産化を前提としたモデルかどうかは未定だが、TRICERA protoが示す方向性は、ヤマハが将来のモビリティをどのように捉えているかを読み解く重要な鍵となる。

このモデルが今後どのように進化し、あるいは市販化の布石となるのか、注目すべき一台である。