スポーツツアラーの主な特徴

スポーツツアラーとは、文字通りスポーツバイクとツアラーそれぞれの性格をミックスしたバイクのことだ。

エンジン特性は、高回転域のピークパワーだけでなく、低・中回転域のトルク特性も重視することで、幅広いユーザーが扱いやすい性格に味付けしているバイクがほとんど。また、高速走行時やコーナーリングでの安定性も高く、初心者でも乗りやすく、ベテランライダーでも走りを楽しめる奥の深いバイクも数多い。

装備面では、ウィンドスクリーンやカウル(フェアリング)などで防風効果を高めたり、大容量の燃料タンクで長い航続距離を確保したモデルが主流だ。また、アップライトなポジションや広めのシートなどで、長距離走行での快適性も追求するモデルも多い。

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スポーツツアラーとは、スポーツバイクとツアラーそれぞれの性格をミックスし、とくにオンロードでの走りを磨いたモデル(写真はヤマハ・トレーサー9GT+ Y-AMT)

加えて、近年、大排気量バイクなどには、クラッチやスロットル操作をせずにシフトアップやダウンができるクイックシフターや、アクセル操作なしでも設定速度を維持するクルーズコントロールなど、高速道路などの巡航で疲労を軽減するような装備を採用するモデルも増えてきた。

さらに、大型高級モデルなどのなかには、先行車との車間距離を自動で維持しながら先行車を追従するACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を採用するなど、まるで4輪車並みの装備を持つモデルも増加傾向。より快適で、より安全なバイク旅を楽しめるようになってきた。

4輪並みの先進装備を持つモデルもある

では、実際に、スポーツツアラーにはどんなモデルがあるのか、国産車を例にいくつか紹介しよう。

【スポーツツアラーの例】
・ホンダ・NT1100
・ヤマハ・トレーサー9GT/9GT+ Y-AMT
・ヤマハ・TMAX560/テックマックス
・カワサキ・ニンジャH2 SX SE
・カワサキ・ニンジャ1100SX/SE
・スズキ・GSX-S1000GT

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ホンダ・NT1100
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ヤマハ・トレーサー9GT
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ヤマハ・TMAX560テックマックス
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カワサキ・ニンジャH2 SX SE
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カワサキ・ニンジャ1100SX SE
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スズキ・GSX-S1000GT

いずれも、先に述べたようなフェアリングやスクリーン、アップライトなポジションなど、スポーツツアラーの要件を満たしているモデルであることが分かるだろう。

これらのなかで、ヤマハ「トレーサー9GT+ Y-AMT」は、とくに、数々の先進装備を採用するモデルのひとつだ。

ヤマハ車で初のミリ波レーダーを搭載するこのモデルは、前述したACCをはじめ、前方の車などと衝突する危険がある場合にブレーキ力をアシストする「レーダー連携UBS(ユニファイドブレーキシステム)」を採用。シーンに応じ減衰力を自動で最適化する電子制御サスペンション、スマホと繋ぐことでアプリを画面に表示できる7インチ高輝度TFTメーターなど、高機能な装備が満載だ。

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トレーサー9GT+ Y-AMTはヤマハ車で初のミリ波レーダーを搭載するモデル

さらに、2025年モデルでは、障害物や他車両などを検知する車体前方の「ミリ波レーダー」に加え、新たに車体後方にもレーダーを追加。後方から接近してくる車両を検知しミラー内に表示する「BSD(ブラインド・スポット・ディテクション)」も新採用している。

加えて、電子制御シフト機構のY-AMTも新搭載。これは、クラッチレバーやシフトペダルを廃し、ハンドルに装備したシフトレバーでの変速操作を可能とする新開発の自動変速トランスミッションだ。しかも、パドルシフトで手動変速できるMTモードに加え、バイクがフルオートで変速を行うATモードを搭載。いずれのモードも、クラッチやシフトペダルの操作が不要になることで、ライダーは体重移動やスロットル開閉、ブレーキングなど、ほかの操作に集中できるメリットを生む。

また、独自のスーパーチャージドエンジンを搭載するカワサキの「ニンジャ1100SX SE」も、高機能な装備が光るモデルだ。ボッシュ社製「ARAS(アドバンスト・ライダー・アシスタンス・システム)」を搭載。車体の前後に搭載されたレーダーセンサーが周囲を検知することで、様々な先進安全装備を使うことができる。

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カワサキのニンジャ1100SX SEも、高機能な装備が光るモデル

搭載する主な機能は、まず、先行車と衝突する危険性がある場合にインストゥルメントパネル上部の赤色LEDランプが点滅してライダーに警告する「FCW(フォワードコリジョンワーニング/前方衝突警告)」。また、ヤマハ・9GT+ Y-AMTと同様に、ACCやBSDを採用するほか、停止時にライダーのブレーキ入力無しでもブレーキ効力を維持する「VHA(ビークルホールドアシスト)」も装備。幅広いシーンでの運転支援や利便性、快適性などを実現する。

スポーツツアラーとスーパースポーツの違い

スポーツツアラーは、前述の通り、スポーツバイクの要素とツアラーの要素を併せ持つが、スポーツバイクの代表選手といえるスーパースポーツとの違いは大きい。

たとえば、速さを徹底的に追求するスーパースポーツは、前傾姿勢が比較的きつく、荷物の積載性もほとんど考えられていない。

対するスポーツツアラーの場合、ツーリングのための性能と装備が充実。低。中回転域のトルクが太いため、発進からスムーズに走るし、タイトコーナーなども軽快。荷物などの積載性もいいのもバイク旅にぴったりだ。

そのうえ、タイヤにはスーパースポーツなどにも採用される前後17インチのハイグリップ系などを採用するモデルが多い。

たとえば、ヤマハのトレーサー9GT+ Y-AMTのタイヤサイズは以下の通り。

【ヤマハ・トレーサー9GT+ Y-AMTのタイヤサイズ】
・前:120/70ZR17M/C (58W)
・後:180/55ZR17M/C (73W)

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前後17インチのタイヤ&ホイールを装備するトレーサー9GT+ Y-AMT

このサイズは、トレーサー9GT+ Y-AMTと同じ888cc・3気筒エンジンを搭載するヤマハ最新のスーパースポーツ「YZF-R9」のタイヤと同サイズだ。前後17インチのタイヤ&ホイールは、舗装路での旋回性やブレーキ性能、高速道路など高い速度で巡航する場合の快適性などに優れているとして、今ではスポーツモデルの多くに採用されている。

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ヤマハ・YZF-R9

そういった意味で、スポーツツアラーは、あくまでオンロードで走ることを最優先し、舗装路でより軽快なハンドリングや乗り心地の良さを追求しているため、タイヤにスーパースポーツと同様のサイズを採用しているのだ。

スポーツツアラーとアドベンチャーバイクとの違い

一方、大型のウインドスクリーンやアップライトなポジションなど、スポーツツアラーとスタイルが似ているモデルには、アドベンチャーバイクもある。こちらは、スポーツツアラーと何が違うかといえば、最も分かりやすいは前後ホイールの大きさだ。

たとえば、ヤマハの「テネレ700」や、ホンダの「CRF1100Lアフリカツイン<s>/DCT」では、フロント21インチ、リア18インチを採用。また、電子制御サスペンションを採用する「CRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツES/DCT」は、フロント19インチ、リア18インチを採用している。いずれも後輪よりも前輪が大きいサイズ設定だ。

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ヤマハ・テネレ700
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ホンダ・CRF1100Lアフリカツイン<s>/DCT
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ホンダ・CRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツES/DCT

つまり、先に紹介したトレーサー9GT+ Y-AMTなど、スポーツツアラーの多くが前後17インチを採用するのとは大きく異なるのだ。

これは、アドベンチャーバイクと呼ばれるモデルの多くが、オンロードだけでなく、オフロードの走破性も重視しているからだといえる。一般的に、バイクで悪路を走る場合、前輪の径が小さいとギャップなどにはまりやすく、ひどい場合は前転してしまうこともある。逆に、大きい前輪の方が、少々路面が荒れていてもハンドルが取られにくいなどのメリットがあるのだ。

とくに、テネレ700やCRF1100Lアフリカツイン<s>などが採用するフロント21インチ、リヤ18インチというホイールは、オフロード競技用のエンデューロレーサーなどにもよく採用されるサイズだ(モトクロッサーはフロント21インチ、リヤ19インチが多い)。おそらく、長年のトライ&エラーから、比較的長距離を走るエンデューロレースでの最適解として採用例が多いのだろう。つまり、アドベンチャーバイクは、オフロードバイクにより近い性格を持ったモデルであるため、こうした前後タイヤのサイズを採用しているといえる。そして、こうした点が、あくまでオンロードメインのスポーツツアラーと違うのだ。

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アドベンチャーバイクは、オフロードバイクにより近い性格を持ったモデルといえる

近年はクロスオーバーモデルも登場

ちなみに、オンロードとオフロードの両方での走りを楽しめるモデルには、近年、ホンダ「NC750X/DCT」やスズキ「GSX-S1000GX」などのクロスオーバーモデルも登場してきた。ただし、こちらもタイヤには前後17インチを採用する例が多い。おそらく、アドベンチャーモデルよりもオンロード性能の方に重点を置ているモデルが多いのだろう。その意味で、クロスオーバーモデルは、スポーツツアラーとアドベンチャーモデルの中間的な存在だといえよう。

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ホンダ・NC750X/DCT
GSX-S1000GX トリトンブルーメタリック 01
スズキ・GSX-S1000GX

ともあれ、オンロードをメインに、スポーティな走りと長距離走行での快適性を楽しめるのがスポーツツアラー。このジャンルには、各メーカーがツアラー系のフラッグシップに位置づけているモデルも多く、今後も根強い人気を維持するジャンルであることは間違いない。