Audi RS 3 Sportback

Volkswagen Golf R Advance

スーパースポーツ並みの性能を誇るRS3に驚愕

RS専用の前後バンパーやアウディスポーツ製のマットブラックホイールを装着していた試乗車。非常にスポーティな佇まいだ。
RS専用の前後バンパーやアウディスポーツ製のマットブラックホイールを装着していた試乗車。非常にスポーティな佇まいだ。

日本では絶滅状態のCセグメントホットハッチだが、欧州ではいまも高い人気を維持している。個人的には“ホットハッチ”という言葉にはどうしても、かつての走り屋・峠文化を思わせる匂いを感じてしまう。だからこそ、ここではあえて“プレミアムコンパクト”と呼びたい。

プレミアムコンパクトに特に熱心なのがドイツ勢だ。今回比較に連れ出した「アウディ RS 3 スポーツバック」、「フォルクスワーゲン ゴルフR」をはじめ、「BMW 135xドライブ」、「メルセデスAMG A 45 S 4マティック」など、挙げれば枚挙に暇がない。

現実と乖離した速度規制を敷く日本とは違い、ドイツでは高速域で走行可能なアウトバーンが存在する。そのような土壌で開発されたクルマは、Cセグメントの高性能バージョンとはいえ、超本格的な性能を有している。いわばハイパフォーマンスカーを所有するということは、ステータスの他に、移動時間をカネで買う感覚に近いのだ。それゆえにファミリーカーでありながらも300PSオーバーのパワーを持つAWDプレミアムコンパクトというカテゴリーが成り立つのであろう。

珠玉のアウディ2.5リッターユニットを味わうなら今しかない!

少し前置きが長くなってしまった。さて、今回の主役である2台、アウディ RS 3 スポーツバック(以下、RS 3)とフォルクスワーゲン ゴルフR(以下、ゴルフR)に話を戻そう。まず2台を眼の前にして、外観があまりに対照的なことに驚いた。

RS専用の前後パンパーやアウディスポーツ製のマットブラックホイールを纏い、すこぶるスポーティな雰囲気のRS 3に対し、ゴルフRは極めて控えめ。フロントグリルにさりげなく配される「R」バッヂやお馴染みの鮮やかなラピスブルーのボディカラーがさりげなく“R”を主張する程度。好みが分かれるところだが、アンダーステートメントを好む層には受けが良さそうだ。

パワートレインも両車は大きく異なる。25年に改良版が登場したゴルフRは最高出力が13‌PS増の333PSまで引き上げられた。EA888型エンジンに組み合わされる4WDは、左右後輪のトルク配分を0〜100%まで調整可能な「Rパフォーマンストルクベクタリング」を備え、自在なコーナリングを可能とする。

スパルタンなRS 3のコクピット

ライバルたちがこぞって2.0リッター直列4気筒ターボを積むのに対し、RS 3は伝統の2.5リッター直列5気筒ターボを搭載。実はアウディの象徴ともいえるこの2.5リッター5気筒エンジンは、現行RS 3をもって生産が終了する予定だ。なぜなら厳格化するユーロ7排出ガス規制をクリアできないからだ。このエンジンを味わうだけでも、RS 3を所有する価値があるといえる。

ゴルフ同様RS 3はRS専用のトルクベクタリング機構「トルクスプリッター」を採用する。今回の試乗では試すことができなかったがリヤ外輪に100%トルクを与えることで自在なドリフトを楽しめる「RSトルクリヤ」モードも用意される。

まずはRS 3に乗り込む。走り出すとCセグメントとは思えぬシートの重厚な作りに思わず唸った。硬めの感触のレザーシートはしっかりと身体を支え、包みこまれる安心感がある。上下がフラットな形状のスウェード巻きステアリングと相まって、思わず気分が高揚してしまった。高速道路に入り、走行モードを「オート」から「ダイナミック」に切り替えると、周りの景色が一変した。

エンスーに訴えるゴルフRのインパネ

スマートなトランスミッションはより低いギヤを選択し、エンジン回転の上昇とともにアウディの代名詞でもある直5の野太い「ボオオオッッー」という咆哮が室内に轟き、脳内アドレナリンが吹き出てくる。あまりにも惜しい! これほど素晴らしいフィーリングのエンジンは今後味わうことができないだろう。アウディの直5に惹かれているエンスージアストは現行RS 3を買うべきだ。

足はやや硬めだが、不快な硬さでは決してない。アウディらしい雑味の一切感じられない上質なステアフィールも美点のひとつだ。コーナリングの振る舞いはまるでスーパースポーツのよう。アクセルを踏めば踏むほどトルクベクタリング効果でぐいぐいとノーズがインに入っていく。RS 3を軽快に走らせるにはちょっとしたコツがいるかもしれない。

一方ゴルフRも走りでは引けをとらない。エンジンはRS 3ほどの官能性はないものの、EA888型2.0リッターターボは実にリニアな加速を味わわせてくれる。印象的だったのはシャシーとエンジンのバランスの良さだ。車重が1520kgと軽いこともあり、軽快感ある走りを楽しめる。RS3同様トルクベクタリングによりターンイン後にスロットルを入れると超速コーナリングを披露する。

完成度の高すぎる2台に感動!

ドイツ2メーカーのプレミアムコンパクト。いずれも異次元のレベルの走りとクオリティを実現していた。
ドイツ2メーカーのプレミアムコンパクト。いずれも異次元のレベルの走りとクオリティを実現していた。

その一方でやや気になったのは低速域のマナーだ。純正装着されるハンコック・ベンタスS1エボ3とのマッチングがいまいちなのか、道路の凹凸の突き上げが鋭い。高性能な走りのポテンシャルを持っているだけに、日常域の乗り心地が惜しかった。

スーパースポーツ顔負けの走りの実力を如何なく発揮したRS 3、酸いも甘いも噛み分けたエンスー好みのゴルフR。個人的には官能の極みとも言える伝統の直5を日常域から味わえるRS 3に軍配を上げたい。

REPORT/石川亮平(Ryohei ISHIKAWA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2025年12月号

 

SPECIFICATIONS

アウディRS 3スポーツバック


ボディサイズ:全長4380 全幅1850 全高1435mm
ホイールベース:2630mm
車両重量:1580kg
エンジンタイプ:直列5気筒DOHCターボ
総排気量:2480cc
最高出力:294kW(400PS)/5600-7000rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/2250-5600rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
燃料消費率(WLTC):10.6km/L
タイヤサイズ:前265/30R19 後245/35R19
車両本体価格:906万円

フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス

 

ボディサイズ:全長4295 全幅1790 全高1460mm
ホイールベース:2620mm
車両重量:1520kg
エンジンタイプ:直列4気筒ターボ
総排気量:1984cc
最高出力:245kW(333PS)/5600-6500rpm
最大トルク:420Nm(42.8kgm)/2100-5500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前マクファーソンストラット後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
燃料消費率(WLTC):──
タイヤサイズ:前後235/35R19
車両本体価格:749万9000円

 

 【問い合わせ】
アウディ コミュニケーションセンター
TEL 0120-598-106
https://www.audi.co.jp/

フォルクスワーゲン カスタマーセンター
TEL 0120-993-199
https://www.volkswagen.co.jp/

Volkswagen Golf R × Audi RS 3 Sportback

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