Ferrari 499P

53年ぶりの世界制覇

FIA世界耐久選手権(WEC)トップカテゴリー参戦3年目となるフェラーリは、シーズンを通してハイパーカークラスをリードし続け、1972年以来53年ぶりに世界スポーツカー選手権以来となる世界耐久選手権のタイトルを獲得した。とはいえ、まったくの無風の勝利ではない。開幕戦カタールで1-2-3フィニッシュを達成以降4連勝を飾った「499P」であるが終盤その勢いが衰え、ライバルのポルシェとトヨタの追撃を受けた。それでも最終的にはトヨタに75ポイント差をつけマニュファクチャラーズ選手権で圧勝した。

ドライバーズ選手権でも、第7戦までポイントリーダーに君臨した51号車フェラーリ AFコルセ(アントニオ・ジョヴィナッツィ、ジェームス・カラド、アレッサンドロ・ピエール・グイディ)が最終戦で4位に入り王座を獲得。4月のイモラ戦での母国勝利以降、シーズンを通じてランキング首位を守り続けた。

僚友の50号車フェラーリAF コルセ(アントニオ・フォコ、ニクラス・ニールセン、ミゲル・モリーナ)も最終戦3位でランキング3位に入り、さらにプライベートチームながらル・マン24時間を制した83号車AFコルセ(ロバート・クビサ、フィル・ハンソン、イェ・イーフェイ)の「499P」もランキング2位に入り、フェラーリ勢が1〜3位を独占した。最終戦を制したのは、昨年王者の「トヨタ GR010 ハイブリッド」だった。

冷静な戦略でもぎ取った勝利

今シーズンのWEC最終戦「バーレーン8時間」で、フェラーリ勢は予選ハイパーポールに進めたのが51号車(予選7位)のみと苦戦。残りの2台も50号車11位、83号車12位と下位に沈んだものの、いざレースが始まると2時間経過時点で51号車が4位、83号車が7位、50号車が8位まで挽回。その後は完璧なスティントと戦略により3台が常に7位以上を維持。終盤、グイディがチームメイトのニールセンに3位を譲り、50号車クルーを表彰台に送り込む形でシーズンを締めくくった。

フェラーリにとって今回の戴冠は、1953年初勝利以来、総合およびクラス別を含む通算24度目の世界耐久タイトルとなる。総合優勝タイトルとしては、1972年の「フェラーリ 312P」以来9度目、トップカテゴリーでのドライバーズタイトル獲得は実質的に初となる。これは1973年まではマニュファクチャラーズのみがタイトル対象であったためだ。グイディとカラドにとっては、2017年、2021年、2022年のLMGTE Proクラスに続く4度目の王座となる。51号車の精神的支柱であるグイディは、18年ぶりの偉業達成を次のように振り返った。

「ここで成し遂げたことの大きさを実感するには、数日かかると思います。この3年間、目標達成のためにたゆまぬ努力を続けてきたチームのすべての仲間に心から感謝します。私たちは一歩ずつ成長を重ね、ル・マン24時間で3度の勝利を挙げ、ついに世界マニュファクチャラーズタイトルとドライバーズタイトルの両方を手にすることができました」

WEC創設(2012年)以来、フェラーリはGTクラスで7度のマニュファクチャラーズタイトルを獲得しており、今回が初の総合タイトルとなる。実は、マラネッロが世界タイトルを獲得するのは、F1における2008年のフェラーリF2008以来17年ぶり。ドライバーズタイトルとしては2007年キミ・ライコネン以来の快挙だ。

チームを束ねた名指揮者

歓喜の表彰台で。左からアレッサンドロ・ピエール・グイディ、アントニオ・ジョヴィナッツィ、アントネッロ・コレッタ、ジェームス・カラド、ジョン・エルカン会長、耐久レーストップのフェルディナンド・カニッツォ。
歓喜の表彰台で。左からアレッサンドロ・ピエール・グイディ、アントニオ・ジョヴィナッツィ、アントネッロ・コレッタ、ジェームス・カラド、ジョン・エルカン会長、耐久レーストップのフェルディナンド・カニッツォ。

現在のモータースポーツ界における最高の指揮者として呼び声高いフェラーリ・エンデュランス&コルセ・クリエンティ部門統括責任者のアントネッロ・コレッタはバーレーンでの戴冠後、静かに語った。

「我々はバーレーンで歴史的な成果を挙げ、この特別なシーズンを締めくくりました。499Pプロジェクトによって再びトップクラスに戻って以来、ル・マン優勝、マニュファクチャラーズタイトル、そしてドライバーズタイトルを成し遂げ、3台すべてがランキング上位を独占する結果となりました」

「この偉業を可能にしたのは、チーム全員の努力と情熱であり、彼らこそ真の主役です。レース後に全員で喜びを分かち合う姿を見て、このチームの結束力の強さを改めて感じました。最後に、最近亡くなったアンドレア・デ・アダミッチ氏に思いを馳せたい。きっと彼もこの成功を共に喜んでくれたでしょう」

ディフェンディングチャンピオンとして新たな挑戦を迎える2026年シーズン、フェラーリAFコルセは主要ドライバーの継続がすでに決定しており、連覇への期待が高まる。一方で2026年にはヒョンデの高級ブランドであるジェネシスが、2027年にはフォードやマクラーレンの参戦も予定されており、WECはかつてない群雄割拠の時代に突入しようとしている。跳ね馬が再び、世界の耐久レースシーンの中心として君臨するのか。ますます目の離せない展開となるだろう。

バーレーン8時間のフリープラクティスに挑んだ、フェラーリ 499P

「フェラーリのWECダブルタイトル決まるか」最終戦バーレーン8時間に挑む3台の499P

11月6日、2025年シーズン世界耐久選手権(WEC)最終戦「バーレーン8時間」のフリープラクティスが実施された。フェラーリは3台の「499P」をエントリー。ワークスチームのフェラーリ・AFコルセから、50号車(アントニオ・フォコ、ミゲル・モリーナ、ニクラス・ニールセン)と51号車(アレッサンドロ・ピエール・グイディ、ジェームス・カラド、アントニオ・ジョヴィナッツィ)、サテライトチームのAFコルセの83号車(ロバート・クビサ、イェ・イーフェイ、フィリップ・ハンソン)が最終戦に挑む。