Phantom Centenary
ファントム100年の歩み






1925年の初代誕生以来、ロールス・ロイスの頂点に君臨してきた「ファントム」。その1世紀に及ぶ歴史は、ラグジュアリーとクラフツマンシップ、そして革新性の象徴として、ロールス・ロイスの魂を常に映し出してきた。その核心に迫る特別イベントのメディア向けプレゼンテーションを取材した。
今回のイベント会場には、その系譜を物語る4台の特別モデルが集結した。まず注目すべきは、日本初公開となる最新プライベート・コレクション「ファントム センテナリー」である。3年にわたる開発と4万時間以上の作業を経て完成したこの世界限定25台の特別モデルは、メタル、ウッド、レザー、刺繍などの素材を通じて、歴代ファントムが体現してきた文化・人物・場所を象徴的に表現しているのが印象的だった。この車両そのものが、まるで一冊の書物のように100年の歴史を紐解くアートピースとなっているのが特徴だ。
100年という時間の重み




このイベントの見どころはセンテナリーだけではない。今回は「ファントム シンティラ」も展示された。こちらは永遠のミューズ「スピリット・オブ・エクスタシー」へのオマージュを込めた世界限定10台のモデルである。ラテン語で「閃光」を意味するその名の通り、地中海の水面の煌めきを彷彿させるトラキアン・ブルーとアンダルシアン・ホワイトのツートーンが印象的だ。ギリシャの名彫刻「サモトラケのニケ」を想起させる造形にインスピレーションを得て、スピリット・オブ・エクスタシーをセラミック仕上げとしているのが面白い。
会場には、2021年に誕生した「ファントム オリベ」も展示されていた。その名前が表すとおり、日本古来の陶芸「織部焼」の暗緑色とクリーム色から着想を得て、実業家の前澤友作氏のためにエルメスと共同制作した1台だという。深みのあるボディカラー“オリベ・グリーン”に、両ブランドの職人技が結晶したビスポークモデルは、プライベートジェットと対をなす「陸のジェット」として構想されたという。
そしてその長い歴史を物語るヘリテージモデルとして、1930年代にわずか279台のみが生産された「ファントムIIコンチネンタル」も登場した。ワクイミュージアム所蔵の1台は、戦前のロールス・ロイスを代表する存在として、会場に100年という時間の重みをもたらしていた。
時代を超える“Bespoke”の精神

今回のイベントで来場者は“世界最高峰のクラフツマンシップが織りなす美と感性の旅”へと誘われたのではないだろうか。そんな情動は4台のファントムがもたらしただけでなく、100年の歴史を映像と音楽で想起させるマルチスクリーン演出や、リアルな現物として色鮮やかなビスポーク素材やアクセサリーが展示されたためだ。今回の特別イベントは主にビスポーク体験にフォーカスを当てていたが、ロールス・ロイス・モーター・カーズ アジア太平洋リージョナル・ディレクター、アイリーン・ニッケイン氏は日本市場への期待を以下のように説明する。
「依然として日本市場は非常に健全で持続的な成長を見せています。価値観の成熟と質的な拡がりを感じます。特に『ビスポーク』に対する理解が深まり、単なるオプション選択ではなく、“自分の物語を形にする表現”として定着してきました。これは日本だけでなく、アジア全体でも見られる傾向ですが、日本はその先頭に立っています」
実際、販売される車両のうち、90%以上にはオーダーメイドの要素が含まれていると、ファントム・プロダクト・マネージャーを務めるマシュー・バット氏は語る。しかも、その範囲は年々広がっているそうで、たとえば単なる色や素材の指定に留まらず、「コミッション」つまり1台まるまる創造するような領域に踏み込むカスタマーが増えているという。
ロールス・ロイスにとってのビスポークとは?

このイベントにはビスポーク・インテリア・サーフェス・センターでビスポークプロジェクトに携わるイノベーション・スペシャリストのポール・フェリス氏もグッドウッドから駆けつけていた。日本にもルーツを持つフェリス氏が、流暢な日本語でロールス・ロイスのビスポークについて解説してくれた。
「我々には、ブランド側から提案する『コレクション型』と、お客様のビジョンから始まる『コミッション型』の2つのアプローチがあります。後者では、お客様がインスピレーションを持ち込み、我々のデザイナーや職人がそれを技術的に支える。ときには新しい素材や加工法を開発することもあります。つまり“期待を超える提案”こそが、ビスポークの本質なのです」
100年の歴史の中でロールス・ロイスは、カスタマーに対して、さまざまなビスポークを提供してきた。しかし、それは単なる仕様の選択ではなく、顧客の想像を職人の手で現実へと橋渡しするプロセスであり、時としてその想像を超越する芸術だ。ビスポークの頂点として、そして時代の象徴として歩み続けるファントム。創造性とクラフツマンシップの結晶ともいえるこのモデルは、今後もロールス・ロイスの“想像力の限界を超える”哲学を体現し続けるだろう。
PHOTO/ロールス・ロイス・モーター・カーズ


