Maserati GranCabrio

グラントゥーリズモのオープン版

キャンバス製のソフトトップは、ベージュ、グレー、レッド、ブラック、ブルーの5色から選択することができる。開閉に要する時間は14秒。50km/h以下なら走行中でも操作することが可能だ。操作はタッチスクリーンで行う。
キャンバス製のソフトトップは、ベージュ、グレー、レッド、ブラック、ブルーの5色から選択することができる。開閉に要する時間は14秒。50km/h以下なら走行中でも操作することが可能だ。操作はタッチスクリーンで行う。

クーペボディのグラントゥーリズモに続いて、そのオープンモデルがデビューするのは定石通り。今回の主役は2ドア・フル4シーターのオープンモデル、新型「グランカブリオ」である。

以前新型グラントゥーリズモを試乗した際に感心させられたのは、先代の流れを引き継いだスタイリングと、しっかりと進化した中身の部分だった。今の基準に合致したシャシー剛性に対し、たっぷりとした容量を感じさせるエアサスのマッチングは「これぞラグジュアリーカー」というべき動的質感を誇っていた。一方スロットルの動きをリニアに拾って繰り出される鋭いターボキックと、ドライバーを包み込むエレガントな室内空間のギャップにもマセラティの伝統が強く感じられたのである。

輸入車の多くはプレミアムカーにカテゴライズされるわけだが、新型グラントゥーリズモのそれは価格やスペックを超越した領域にある「真の高級車は何たるか」を提示してくれた気がする。だからこそ今回、その派生モデルに期待しないわけにはいかないのである。

日本に導入されるグランカブリオのトリムレベルは最上級というべきトロフェオ一択。ロングノーズの下に隠されたパワーユニットは3.0リッター V6ツインターボのネットゥーノで、最高出力は550PS、駆動システムはAWDとなっている。

サイズを活かした流麗なスタイリング

MC20に初搭載された3.0リッターV6ツインターボは、F1由来の技術であるプレチャンバー燃焼を行い、熱効率を高めた「ネットゥーノ」エンジン。トランスミッションはZF製の8速AT。
MC20に初搭載された3.0リッターV6ツインターボは、F1由来の技術であるプレチャンバー燃焼を行い、熱効率を高めた「ネットゥーノ」エンジン。トランスミッションはZF製の8速AT。
マセラティの歴史には印象的なオープンモデルが非常に多い。1958年の3500GTスパイダーにはじまり、スパイダー・ザガート、グランスポーツ・スパイダー、そして近年のグランカブリオ。今回、その2代目が日本上陸を果たした。
リヤクォーターパネルやトランクなどのボディパーツはグラントゥーリズモとは異なる専用品となる。

今回の試乗車、グリージョ・インコグニトというグレーでペイントされたグランカブリオは幌を下ろした状態で止まっていた。かつてのグランプリ・マセラティを彷彿とさせるシュッと長細いノーズからリヤエンドに続くラインには美しい連続性がありホッとさせられた。最近はボンネットもウェストライン高めというクルマが多く、そのオープン版のシルエットが今ひとつ美しくないという例がいくつかあったからである。グランカブリオの場合はサイズ感を活かしつつ、専用のボディパネルを惜しみなく新造した結果、オープンモデルならではの優雅さを醸し出すことに成功しているのである。

優雅という表現はインテリアの仕立てにも当てはめることができる。フロントシートや太めのセンターコンソールがゆったりとした印象を感じさせてくれたのである。またリヤシートの足元も十分に広く、2+2ではなくフル4シーターと呼びたくなる設えになっていた。

ドライバーズシートからの眺め、操作系の逐一はグラントゥーリズモと同じはずだが、アイボリー系のシートに光が降り注いでいるだけで雰囲気がずいぶんと違って見えた。とはいえ今回の試乗は箱根の山の中で、今にも雨が降り出しそうな空の下だった。それでも雨を気にしてオープンエアドライブを諦める必要がないのは現代のオープンモデルのすばらしい点といえる。雨を感じたら、例え走行中でも(50km/h以下なら)わずか14秒でクーペスタイルに早変わりできるのだから。

事前の説明ではグランカブリオのサスペンションはクーペよりも若干柔らかめで、車高も10mm上げられているとのことだった。けれど走りはじめてみても、特に柔らかいとか、フワついた感じはしなかった。

それよりもオープン化によって若干落ちてしまったであろうボディ剛性を補強材によって補い、エアサスとのバランス取りを入念に取った跡が伺えたのである。

わりと短めのサスペンションストロークの中で、路面の凹凸をスッと丁寧に往なす感じは最新のエアサスならでは。それとともに驚かされたのは、一般的なペースで箱根を走らせた限りでは「ミシリ」という音が少しもしなかったことだ。ひと昔前のマセラティだったら、しかもオープンモデルともなれば新車でも各部がギシギシと賑やかだったことを覚えている。マセラティのクオリティは確実に向上しているのである。

サスセッティングはカブリオレ専用

車重はクーペに比べ120kg増加しているが、少なくとも単独で走らせている限りそのネガを感じることはなかった。走行モードは「コンフォート」「GT」「スポーツ」「コルサ」の4種類。
車重はクーペに比べ120kg増加しているが、少なくとも単独で走らせている限りそのネガを感じることはなかった。走行モードは「コンフォート」「GT」「スポーツ」「コルサ」の4種類。

運転していてもフロントノーズが長い感じはよくわかるのだが、それとは対照的にハンドリングはとても素直な感じで、エンジンの重さを感じさせない。そしてひとたびスロットルを踏み込めば、トラクションのほとんどがリヤタイヤに掛かり、ボディサイズを忘れさせるような加速をみせる。幌を下ろしていると、耳元に巻き込む風に負けないくらいの音量の排気音がしっかりと響いてきて、実に気持ちがよかった。

一方幌を閉めると、今度はノイズをピシャリとシャットアウトする感じに厚みのある、ソフトトップの作りの良さに感心した。サイドの遮音ガラスもいい仕事をしており、「クーペ化」した瞬間に静寂が訪れるのだ。スロットルを踏み込んでも、今度は前方向からシリンダーヘッド周りやウェイストゲートのノイズが心地よく入ってくるのも気に入った。

華やかさを幌で隠したようなクーペ状態と、賑やかさ溢れるオープン。そんな二面性をはっきりと使い分けられる点こそが、グランカブリオのようなラグジュアリーでスポーティなモデルの真骨頂なのだと思う。

そう考えるならば、このクルマのライバルはミニマムなリヤシートを備えたスポーツモデルではなく、ベントレー・コンチネンタルGTCのような豪奢なモデルに違いない。

クーペとカブリオ選ぶならどちら?

筆者がグラントゥーリズモとグランカブリオ、どちらか1台を選べと言われたら迷うことなく後者を選ぶだろう。両者の価格差は“たったの”120万円ほどだが、そのエクストラコストで得られるアソビの幅は計り知れないものがあるはずだ。

現代はラフな格好で乗れるクロスオーバーSUV、速いだけのスポーツモデル、電動で容易にトップを開け閉めできるオープンカーといったかゆい所に手が届くクルマが珍しくない。その一方でボディカラーに合わせてジャケットを選びたくなるような高尚な1台となると、選択肢はかなり限られてしまったように思う。

グランカブリオはまさに、そんな稀有な色気と、ワル目立ちしない存在感、そして一線級のパフォーマンスを秘めた1台なのである。

REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2025年1月号

SPECIFICATIONS

マセラティ・グランカブリオ・トロフェオ

ボディサイズ:全長4966mm 全幅1957mm 全高1385mm
ホイールベース:2929mm
車両重量:1895kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2992cc
最高出力:404kW(550PS)/6500rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/3000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/30ZR20 後295/30ZR21
最高速度:316km/h
0-100km/h加速:3.6秒
車両本体価格:3120万円

【問い合わせ】
マセラティコールセンター
TEL 0120-965-120
https://www.maserati.co.jp/

ベーシックなモデナとハイパワー版のトロフェオが用意されるが、今回試乗したのはトロフェオ。

3000万円のラグジュアリークーペ「マセラティ グラントゥーリズモ トロフェオ」に試乗して歴史の転換を痛感

マセラティを象徴するGTモデルであるグラントゥーリズモがついに復活した。2代目となるグラントゥーリズモはMC20を彷彿とさせるスタイリッシュなデザインと軽量&高剛性ボディ、ネットゥーノエンジンが生み出す爽快な走りを楽しめるGTだ。(GENROQ 2024年2月号より転載・再構成)