Ferrari 296 GTB
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Ferrari 12 Cilindri


フェラーリの魂とも言うべき自然吸気のV型12気筒エンジンを搭載した最新モデル、その名もずばり「12 Cilindri」(イタリア語で「12シリンダー」)が、遂に日本の道を走り出した。その実力を推し量るべく本誌が用意したのは、同じフェラーリの「296GTB」だ。その理由は至ってシンプルで、296GTBが12チリンドリと同じ830PSをモーター込みで発揮しているからである。
気筒数は、まさに半分。排気量に至っては半分以下となる3.0リッターV型6気筒エンジンをツインターボで過給し、さらにはF1よりも高出力な167PSのMGU(モーター・ジェネレーター・ユニット)をトランスミッションとの間に組み合わせて、スーパースポーツの未来を提案する、プラグインハイブリッドシリーズのエントリーモデルとなる。
エンジンの搭載位置も12チリンドリのフロントミッドシップに対して296GTBは正真正銘のミッドシップであり、車重に至っては約150kgもの違いがあるから(車検証上。もちろん重たいのは12チリンドリの方だ)、数字だけで考えれば実はもう答えが出てしまっているようにも思うが、果たしてオーバー800PSという途方もないアウトプットをオープンロードで走らせたとき、その評価がどうなるのかは読めないし、心の片隅にフェラーリの12気筒が、モーター付きのV型6気筒ターボに負けるはずはないという気持ちがあるのも否定できない。
だからこの対決は、とても面白い試みだと思えた。296GTBを真っ向からぶつけることで、ピュア・ガソリンエンジン時代の終焉を今のうちだとばかりに駆け抜けようとする12チリンドリの、真価を見極めてみることにしよう。
そのシャシーワークに脱帽

初めて相対した12チリンドリは、呆れんばかりの大きさだった。365GTB/4“デイトナ”を想起させるスラントノーズ。そこから緩やかに盛り上がるフェンダーの峰。小さいキャビンを経てボリューミーなテールに収束するそのスタイリングは、ロングノーズ・ショートデッキのお手本といえる美しさだ。
しかし郷愁を誘うプロポーションにうっとりできるのはこれを斜めから眺めているうちだけで、真正面から見たときの幅の広さにはかなり引いた。昨今のフェラーリはどれもワイドだが、12チリンドリの全幅は遂に2176mmにまで膨らんでしまったのだ。ちなみにそのサイズは、先代812スーパーファーストより205mm、296GTBより218mmも大きいのである。
だから街中の取り回しはすこぶる悪いかと思いきや、実際に走らせてみるとそうでもないことには、さらに驚かされた。普通に走っていても車幅は常に道路に対してぎりぎりだから、車線逸脱警報がまぁよく鳴る。だが、それ以外は操舵レスポンスも実に軽やかで、小回りも効く。恐らくこうした取り回しの良さはV12がフロントミッドシップされている以上に、後輪操舵の影響が大きいはず。しかしながらその制御は自然で、動きにまったく違和感がないのである。




そして乗り味も同じく軽やかなのが、フェラーリらしくてまた面白い。普通であればこうしたフラッグシップGTはしっとりとしたロールや重厚な乗り味で乗り手に威厳をアピールしてくるものだが、そんなものは古い価値観だといわんばかりに12チリンドリの身のこなしは若々しいのである。足まわりはタイヤも含めて適度に剛性が高く、快適性はダンパーの制御やブッシュのコンプライアンスで巧みにバランスされており、総じて動きが洗練されている。だからワインディングに赴いても、すんなりと走り出すことができた。
ハンドルを切り始めたときの、確かな手応え。特別タイヤをウォームアップさせなくてもグリップ感が高いのは、これこそがフロントエンジンのアドバンテージだ。そしてアンダーステア知らずな曲がりやすさは今度こそ、大きなV12エンジンをフロントミッドシップした恩恵である。
ターンミドルからの安定感と、トラクションの掛かりの良さは、押し込まれたエンジンによって行き場をなくしたトランスミッションを、後輪軸上へと配置した前後重量配分の良さ(前輪軸重850kgに対して後輪軸重は920kg)が効いている。その実影では後輪操舵と電子制御が、危うい走りを文句も言わずに丸く収めてくれているはずだが、その挙動には不安のかけらもない。よくぞ4WD機構なしに、これだけのパワーを扱いやすさへと昇華するものだと、そのシャシーワークに脱帽した。
ほとんどレーシングマシン

これと較べてしまうと296GTBのハンドリングは、ちょっとナーバスだ。微かな舵角でもフロントが正確に反応するから、街中を走らせているだけでも割と気が抜けない。
特に今回のように気温が低い状況だと、ワインディングを走らせても12チリンドリのようには素早く路面に順応できず、タイヤの表面温度と同時にドライバーの気持ちをも温めないと、ただただうすら怖いだけで、その良さがまったく引き出せない手強さを感じた。
しかしウォームアップが整ってくると、その状況は一変する。ザラザラとした感触だったブレーキのタッチが粘りを帯び始め、フロントタイヤのグリップが路面を捉え出しさえすれば、クイックなだけだったターンインに一体感が出てくる。そしてアクセルのタイミングまでもが整うから、走りにリズムが生まれる。




リヤから響くエキゾーストノートは、V6ツインターボとは思えないほどにハイトーンだ。もちろん自然吸気のV型12気筒がもたらすテノールと比べれば音域は一段低く、その音圧も迫力に欠けてしまうが、120度のバンク角がもたらす等間隔燃焼のスムーズさと、ホットVターボおよびMGUがもたらすレスポンスは、まったくひけを取らない。
12チリンドリがただただこのV型12気筒を走らせるために造られた至高のパッケージングだとすれば、296GTBにはシャシーとパワーユニットだけでなく、ドライバーまでもが一体となることで得られる快感がある。それはまさに、ミッドシップレーシングの楽しさそのものだ。
V型12気筒自然吸気の行方

誤解を恐れず言えば、そういう意味では12チリンドリのV型12気筒には、もっと野性味があってもよい。6.5リッターの排気量にして9000rpmを超えてなお回り、その果てに得られる830PSの最高出力に、不満などあろうはずがない。むしろF140HDユニットの回転上昇感は洗練され過ぎていて、常用域では贅沢にも物足りなさを感じてしまうのだ。いや、正確にいえばもっともっと、回したくなる。
ターボの過給もモーターのアシストもなしに、大排気量エンジンを回しきる高圧縮なフィーリングの心地良さ。その吹け上がりは人間の感性に対して実に自然であり、アクセルを踏み続ける限りどこまでも素直に上を目指して行く。4000rpmなんて、生ぬるい。本当にカムに乗るフィーリングが出てくるのは、レブリミットを迎えるまでの、最後の1000rpmの領域だ。


だからその最も美味しいゾーンを味わい尽くすには、それ相応の場所が必要になる。とはいえ12チリンドリにとってサーキットが最善の場所とは思えないし、いっそのこと830PSのパワーをデチューンしてでも、もう少し低い回転からV型12気筒の鼓動やメカニカルフィールが味わえるようにしてもよいのではないかしらん? とさえ筆者は感じた。
だがそれは、フェラーリにしてみればまったくもって言いがかりだろう。自然吸気のエンジンとしてレブリミット直前に最高出力を発揮する特性は、レーシングテクノロジーそのものであり、それをして普段は極めてジェントルに街中を走れる柔軟性を与えたことに、何の文句があるというのか? しかしそんなジレンマが、この12チリンドリにはある。


そしてここには、次世代へのヒントも隠されている気がした。特にV型12気筒という文化遺産を後生に残す上で、そろそろパワーよりエモーショナルさにこだわる時期にさしかかっているのではないかと思う。次期V12はいよいよ電動化かと噂される中、こうしたパラダイムシフトは必要になるだろう。一方でこの時代に混じりけのないV型12気筒を搭載した12チリンドリは、名車としてフェラーリの歴史にその名を残すことになるのだろう。
REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2026年1月号
SPECIFICATIONS
フェラーリ12チリンドリ
ボディサイズ:全長4733 全幅2176 全高1292mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1560kg
エンジン:V型12気筒DOHC
総排気量:6496cc
最高出力:610kW(830PS)/9250rpm
最大トルク:678Nm(69.2kgm)/7250rpm
モーター最高出力:──
モーター最大トルク:──
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35R21 後315/35R21
最高速度:340km/h
0-100km/h加速:2.9秒
車両本体価格:5674万円
フェラーリ296 GTB
ボディサイズ:全長4565 全幅1958 全高1187mm
ホイールベース:2600mm
車両重量:1470kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2992cc
最高出力:488kW(663PS)/8000rpm
最大トルク:740Nm(75.5kgm)/6250rpm
モーター最高出力:122kW(167PS)
モーター最大トルク:315Nm(32.1kgm)
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/35ZR20 後305/35ZR20
最高速度:330km/h以上
0-100km/h加速:2.9秒
車両本体価格:3939万円
【オフィシャルサイト】
フェラーリ・ジャパン
https://www.ferrari.com/ja_jp/

