Audi SQ5 Sportback
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BMW X3 M50 xDrive
新開発プラットフォーム「PPC」を土台とするSQ5スポーツバック

アウディのミドルクラスSUVのQ5シリーズが刷新された。「Q5」「SQ5」といえば、アウディ世界販売の約2割を占めるというベストセラーアウディである。そのボディサイズはBEVの「Q6 e-tron」に近いが、プラットフォームはQ6(やポルシェの新型マカン)が採用するPPEとは別物の、エンジン専用の新開発PPC(プレミアムプラットフォームコンバッション)を土台とする。
アウディといえばつい先日まで、2025年に最後のエンジン車を発表して、翌2026年以降の新型車をすべてBEV化、そして2033年にエンジン搭載車の生産終了……というロードマップを掲げていた。その意味ではこのQ5/SQ5などは、まさにエンジンを搭載する(ほぼ)最後のアウディとなる(はずだった)。しかし、BEV需要が踊り場を迎えていることを受けて、アウディはエンジン生産延長を表明。この新しいQ5/SQ5にしても、当初予定より長く生き残るか、あるいは、次のモデルも用意される可能性も出てきた。
しかし、このQ5/SQ5そのものが、エンジン搭載アウディの集大成としての開発されたことはまず間違いない。しかも、そのために(この世代限りになる可能性が高かった)PPCまで新開発したほどで、いかにも力作というほかない。
その一方で、もともとが超売れ筋商品でもあるQ5/SQ5は、新型もまさに正常進化というほかない。内外装デザインやプラットフォームこそ新しいが、ボディサイズはほぼ踏襲。高性能なSQ5は、今回の試乗車であるスポーツバックも含めて、お馴染みの3.0リッターV6ターボを積む。エンジン本体は先代より最高出力で13PS、最大トルク50Nmの上乗せとなるが、MHEVプラスという新しいマイルドハイブリッドが組み合わせられることが最大のキモだ。従来型MHEVのベルト駆動スターター兼発電機も残しつつ、最高出力24PS、最大トルク230Nmの電動駆動ユニットの「パワートレインジェネレーター」を、新しい7速DCT(Sトロニック)の出力軸に“プラス=追加”しているのだ。
すこぶる軽快なMHEVのBMW X3 M50

Dセグメント高性能SUV頂上決戦として、SQ5スポーツバックとともに連れ出したX3 xドライブM50(以下、M50)も、MHEVである。こちらはエンジンと8速ATの間に13PS、200Nmのモーターを配するISGタイプだ。SQ5が新たにエンジンを停止してのBEV走行も可能としたの対して、BMWはあくまでスターターと駆動アシスト、そして回生充電のみに専念する一般的なMHEVとなる。
ちなみに今回の試乗車がそうであるように、Q5シリーズにはボディ後半を軽快なデザインとした「スポーツバック」が、従来どおり用意される。一方、BMWも先代まではX3ベースのクーペSUVのX4が存在していたが、新型は未登場である。
ほぼ同様のスペックを誇る2台、だがその走りは!?


それにしても、今回の2台はスペック上の数字からもまさに好敵手だ。スリーサイズやホイールベースについては実質的にほぼ同等といってよいが、後席の足もとなどはSQ5の方がちょっと広い。エンジンもともに3.0リッターの排気量を過給する。
ボディサイズが少し大きなM50の車重が、SQ5より100kg以上軽く、最高出力もM50が14PS高いのに、“ゼロヒャク”はなぜかSQ5が0.1秒速く、WLTCモードによるカタログ燃費もアウディの方が少し優秀だ。これはアウディ自慢のMHEVプラスの優秀さに加えて、SQスポーツバックの方がX3より全高が低くて全幅も少しだけナローで、全面投影面積が小さいことも有利には働いているのだろう。
アウディのSは、通常時には普通のアウディと区別がつかないほど快適に洗練されているのが伝統だが、それは最新のSQ5も例外ではない。MHEVプラスも基本的にはエンジン主体のマイルドハイブリッドだが、発進時はエンジンを停止したBEV状態で転がり出して、あるところでエンジンがかかって加速にかかる。で、そのエンジンの出入りがすこぶる滑らかなのだ。これもMHEVプラスの美点で、SQ5の伝統ともいえる洗練性をさらに高めている。
モダンな最新のインフォテインメントシステムが映えるSQ5


これに対して、BMWは良くも悪くも典型的なMHEVである。モーター走行できる機能はなく、信号待ちなどでの停止時はエンジンも落ちているが、再発進のために右足をブレーキからアクセルに移そうとすると、まずは必ずエンジンがかかって、そこからクルマが動き出す。エンジンの存在感はアウディ以上なので、走行中は良くも悪くもBMWの方がいろいろな音も多く聞こえる。
電子制御のアダプティブエアサスペンションスポーツはオプションだが、SQ5の真髄を味わうには必須アイテムいうべきだろう。実際、それを装着した試乗車は、コンフォートモードではまるでラグジュアリーサルーンのようにふわりと凹凸をいなしたかと思えば、標準のバランストモードでは超モダンなフラットライドを披露し、そしてダイナミックモードでは路面の不整をしなやなに吸収しながら、上屋の動きを最小限に抑える。そのアシさばきはお世辞ぬきに見事というほかなく、高度なクワトロとも相まって、V6ターボとMHEVの潜在性能を全解放しても、安定感は微動だにしないのだ。
M専用ディスプレイがスポーティさを演出する


これと比較すると、お馴染みのCLARプラットフォームを今も受け継ぐX3は、良くも悪くも随所に設計年次を感じさせつつあるのは否定できない。M50には電子制御可変ダンパーも標準装備だが、どのモードに設定しても、細かい上下動が完全に収まることはなく、フラット感という意味ではSQ5に軍配を上げざるを得ない。また、エンジンも明らかに存在感があり、クルマに興味のない同乗者から“騒々しい”とのそしりを受ける可能性はゼロではない。
このように、上級SUVとしての洗練性という意味では、さすがは設計の新しいSQ5が優位なのは否定しない。しかし、あえて「S」や「M」の文字がついたアウディやBMWを選ぶうような好事家は、ただ快適な乗用車を求めているわけではあるまい。というわけで、スポーツカー目線で改めて2台を見ると、その魅力はがぜん拮抗することになる。
今回の対決においては、M50最大の武器は軽さだ。SQ5は優秀なパワートレインでスペック上の速さを補っているものの、高機動状態でのダイナミクスでは、やはり100kg以上軽いM50が有利だ。SQ5と並んで走る時のM50は、誤解を恐れずにいえば、まるでコンパクトなホットハッチのようですらある。荒れた路面での上下動は確かに少なくないが、これだけ軽やかに走ってくれると、それもまた味わい……として憎からず思えてくるから不思議だ。
走りの個性が異なる魅力的な2台

これに対して、SQ5はどこまでもスムーズで重厚、快適ながら、すこぶる速い! もしまる1日以上かけて、ノンストップで高速移動する必要があるなら迷わずSQ5だ。
BMWというと、やはりスムーズでレスポンシブな直6エンジンが大きな売りとなる。それはこのM50でも同様なのだが、今回のSQ5のV6ターボに限ると、BMWの圧勝と片付けるのは躊躇する。中低回転から高回転域にかけた伸び感、なんとも身の詰まった緻密なフィーリングと快活なサウンド、そして新しい7速SトロニックやMHEVプラスととのバツグンに滑らかなマッチングも含めて、SQ5とM50のパワートレインは甲乙つけがたい。これもまた、今回のバトルで「ぜひ試乗して、お好みでどうぞ」というベタな結論しか出せない理由のひとつだ。
REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2026年1月号
SPECIFICATIONS
アウディ SQ5 スポーツバック
ボディサイズ:全長4715 全幅1900 全高1645mm
ホイールベース:2820mm
車両重量:2060kg
エンジンタイプ:V型6気筒DOHCターボ
総排気量:2994cc
最高出力:270kW(367PS)/5500-6300rpm
最大トルク:550Nm(56.1kgm)/1700-4000rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
燃料消費率(WLTC):12.7km/L
タイヤサイズ:前後225/45R20
車両本体価格:1058万円
BMW X3 M50 xドライブ
ボディサイズ:全長4755 全幅1920 全高1660mm
ホイールベース:2865mm
車両重量:2000kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCターボ
総排気量:2997cc
最高出力:280kW(381PS)/5500rpm
最大トルク:540Nm(55.1kgm)/1900-4800rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前マクファーソン・ストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
燃料消費率(WLTC):11.9km/L
タイヤサイズ:前255/45R20 後285/40R20
車両本体価格:1080万円
【問い合わせ】
アウディ コミュニケーションセンター
TEL 0120-598-106
https://www.audi.co.jp/
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/

