連載

ベントレー100年車史

Arnage

フォルクスワーゲンとBMWによるねじれ現象

アルナージ
アルナージ

「ターボR」「コンチネンタルR」でスマッシュヒットを飛ばしたベントレーは、1998年4月に久々のブランニューサルーンとなる「アルナージ」を発表する。

しかしこの年、親会社のヴィッカースはベントレーを含むロールス・ロイス・モーターズの売却を決定。当初は1992年から提携関係にあったBMWが買収すると思われていたが、土壇場でフォルクスワーゲンが最高額を提示。その結果クルー本社工場とベントレー、そして各種意匠はフォルクスワーゲンが所有する一方で、それ以前の規定によりロールス・ロイス・ブランドとロゴはBMWが所有するという、「ねじれ」現象が起きてしまった。

その後の交渉により、1998年から2002年までBMWはフォルクスワーゲンによるロールス・ロイスのブランド使用を許可し、BMW製エンジンの供給も継続。そして2003年1月1日からはBMWがロールス・ロイスの生産・販売の権利を得るという形に落ち着くことになった。

コスワースの手で蘇った6.75リッターV8 OHV

アルナージ レッドレーベル
アルナージ レッドレーベル

そのような状況下で生まれたアルナージは、コンチネンタルRに続き、CAD(コンピュータ支援設計)、CFD(コンピュータ流体力学)、DCA(ダイナミック衝突分析)、DMU(デジタル・モックアップ)といった先端技術をフルに活用して、長年同社のデザイン部門に在籍してきた経験をもつグラハム・ハルの指揮のもと、スティーブ・ハーパーによってデザインされたものだ。

エンジンは提携関係にあったBMW製のものに決まり、姉妹車の「ロールス・ロイス シルヴァーセラフ」に5.4リッターV12 SOHCが、「ベントレー アルナージ」には4.4リッターV8 DOHCツインターボM62ユニットが採用されることとなった。

ところがベントレーがフォルクスワーゲン傘下となり、BMWエンジンの供給に暗雲が立ち込めたため、彼らは6.75リッターV8 OHVを再び使うことを決断。1999年にツインターボを装着した6.75リッターV8 OHVを搭載するモデルを「レッドレーベル」、BMWユニット搭載車を「グリーンレーベル」と名付け、併売することとなった。

この6.75リッターV8 OHVの改良を手がけたのが、コンチネンタルR、アズールの頃からV8 OHVの生産を請け負っていたイギリスの老舗エンジンビルダー、コスワースだ。彼らはBMWに合わせてコンパクトに設計されたエンジンルームに、なんとかギャレット・エアリサーチ製のT4ターボチャージャーを1基装着した6.75リッターV8 OHVを収めることに成功した。

ホイールベースを250mm延長した「アルナージLWB」

アルナージ
アルナージ

これによってBMW製V8を上回る最高出力405PS、最大トルク835Nmを発生し、0-100km/h加速6.3秒、最高速度249km/hというパフォーマンスを発揮したが、ボディ剛性やブレーキを強化したにも関わらず、エンジン重量の増加で前後重量バランスは悪化。また古いGM製4L80-E 4速ATとシングルターボのレスポンスも、決して褒められたものではなかった。

そして2000年にBMW搭載のグリーンレーベルが消滅すると、ベントレーはアルナージのさらなる改良に着手。2001年にアルナージ・シリーズ2としてホイールベースを250mm延長した「アルナージLWB」を追加した。

そこに搭載されたのが、新設計のブロック、シリンダーヘッド、吸排気バルブ、バルブギヤ、ボッシュ・モトロニックME7.1.1を採用するなど、全体の50%を新開発としたうえに、小型のギャレットT3ターボを2基装着した6.75リッターV8 OHVだ。

ホットバージョンが追加

アルナージRL
アルナージRL

続く2002年には標準ホイールベースの「アルナージR」と、456PS&875Nmを発生し、0-100km/h加速5.8秒、最高速度274km/hを誇るホットバージョンの「アルナージT」が登場。2003年にLWBがRLと名称を変更したほか、2005年には初めて本格的なフェイスリフトが行われ、フロントマスクを独立した丸型4灯ヘッドライトに変更。あわせてバンパー、リヤトランクリッドなどの形状も変更されている。

さらに2007年にはターボチャージャーをよりレスポンスに優れた三菱製に変更。ギヤボックスもコンチネンタルGTシリーズにも採用されているZF製6HP26 6速ATが搭載されるなど、近代化が図られた。これらのアップデートによりアルナージRは456PS&875Nmを発生。アルナージTに至っては507PS&1000Nmを発生し、0-100km/h加速5.5秒、最高速度288km/hを記録するまでに進化を遂げ、2009年まで生産された。

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