ヤマハ・YZF-R9 ABS……149万6000円(2025年10月30日発売)

発売日の翌日、ヤマハ公式サイトに「生産上限数に達したため、販売店から弊社への受注を終了いたしました」とのアナウンスが掲載されたYZF-R9。国内の販売計画が300台という極めて少ない台数だったので、検討されていた方は2026年モデル以降を狙うしかない状況だ。

ヤマハのスーパースポーツモデルの中で、最もCd・A値に優れたスタイリング。サイドカウルにはエンジンやラジエーターからの熱を放出する機構を採用し、ライダーの快適性を高めるとともに、冷却性能にも貢献している。

車体色はディープパープリッシュブルーメタリックC、マットダークグレーメタリック6、ブルーイッシュホワイトパール1の3種類。YZF-R9は、YSPおよびアドバンスディーラーのみで販売される「ヤマハモーターサイクル エクスクルーシブモデル」だ。最高出力は120PS、車重は195kg。
YZF-R9と同じCP3エンジンを搭載するXSR900 GP。2024年5月に発売され、メーカー希望小売価格は143万円。シリーズ共通のCFアルミダイキャストフレームを採用し、XSR900 GP向けに剛性チューニングを施す。最高出力はR9と同じ120PSで、車重は5kg重い200kgを公称する。

より洗練された印象のCP3、クイックシフターも秀逸だ

ネイキッドのMT-07をベースに、スチール製ダイヤモンドフレームをアルミ製センターブレースで補強。2022年2月に発売されたスーパースポーツが「YZF-R7」だ。これが海外を中心に広く受け入れられたことから、その上位版として企画されたのが「YZF-R9」である。

2022年2月に発売されたYZF-R7 ABS。エンジンはMT-07と共通の688cc水冷パラツインで、剛性バランスを調整したダイヤモンドフレームに搭載。最高出力は73PS、車重は188kg。現行モデルのメーカー希望小売価格は105万4900円。すでに2026年モデルが発表されたが、国内導入時期などは未定。

4気筒のYZF-R6に代わってスーパースポーツ世界選手権(WSS)への参戦も視野に入れたことから、フレームはR9専用に開発された。その結果、MT-09やその派生モデル(トレーサー9 GT、XSR900など)がCFアルミダイキャストを採用するのに対し、YZF-R9は重力鋳造という製法を選択。前者は射出成型が0.1秒未満で完了するのに対し、重力鋳造は流し込んだアルミの溶湯が凝固するまでじっくり待つ必要がある。量産には不向きではあるが、ヤマハはあえてこれを選んだのだ。

スーパースポーツに最適なディメンション、近代的な剛性コントロール、そしてハンドル切れ角の確保という三つの理由から、YZF-R9専用の重力鋳造アルミデルタボックスフレームが開発された。MT-09のCFアルミダイキャストフレームに対し、ねじり剛性を18%、縦剛性を37%、横剛性を16%アップさせ、低荷重時の柔軟性と高荷重時の安定性を両立。なお、メインフレームの単体重量は、ヤマハの歴代スーパースポーツ(YZF-R1/YZF-R6)の中で最も軽い9.7kgを達成している。

シートにまたがると、このYZF-R9が“スーパースポーツそのもの”であることを体が理解する。ハンドルはセパレートタイプで、トップブリッジの下から伸びている。前傾姿勢は深めだが、絞り角や垂れ角、そして着座位置との関係が秀逸で、スポーティながらも街乗りを許容してくれる印象だ。シート高は830mmで、MT-09の825mmよりは若干高い。筆者の身長(175cm)では地面から両カカトがわずかに浮くが、車体のスリムさと軽さが相まって不安はない。

最小回転半径は、YZF-RシリーズのフラッグシップであるR1と同じ3.4mを公称。MT-09が3.0mなので、それと比べれば狭い道路でのUターンは苦手だ。ただし、フルロックまでステアリングを切った際、手と車体との間に十分なクリアランスがあるので、スロットルやクラッチなど各種操作を妨げられないのは好印象だった。

専用開発のフレームに対し、パワーユニットはお馴染みの888cc水冷並列3気筒“CP3”エンジンだ。最高出力120PS/10,000rpm、最大トルク93Nm/7,000rpmというスペックはMT-09と共通であり、ECUのマッピングに多少手を加えた程度とのこと。だが、フレームや乗車姿勢が異なるからか、回転フィールはより洗練されているような印象を受けた。

鍛造ピストンやFSコンロッド、オフセット&ダイレクトメッキシリンダーなどを採用する、888cc水冷並列DOHC4バルブ3気筒“CP3”エンジン。吸排気系も含めて基本的にハード面はMT-09と共通で、異なるのはECUのセッティング程度という。燃料供給系にはYCC-T(Yamaha Chip Controlled Throttle=ヤマハ電子制御スロットル)を採用。最高出力はMT-09と同じ120PS/10,000rpmを公称する。

YRC(ヤマハ・ライド・コントロール)の選択肢は、MT-09と同じスポーツ/ストリート/レイン/カスタム1/カスタム2の5種類だ。カスタム1と2ではPWR(パワーデリバリー)、TCS(トラクションコントロール)、SCS(スライドコントロール)、LIF(リフトコントロール)がそれぞれ個別に設定できる点も共通だが、TCSのみ3段階から9段階へと設定が細かくなっている。

試乗した日の路面は残念ながら終始ウェットで、時間帯によっては少し強めに雨が落ちてくるほど。よって、最初はおそるおそるレインモードでスタートした。標準装着タイヤはブリヂストンのRS11で、これはドライグリップを重視した公道用スポーツタイヤだ。特に冷間時のグリップ力はあまり期待できないが、それでも何の問題もなく自然に走り出すことができた。それだけ極低回転域でのエンジン制御が緻密であることの証だ。

レインモードでエンジンフィールを確認したあと、ストリートモードに切り替える。PWRは最もエンジン出力を抑えた“4”から、マイルドな出力特性の“3”へ、TCSは“7”から“5”へと変わった。先ほどまでとは違い、明らかに低回転域から力強くなる。ただし、スロットルの開け始めは確かにマイルドであり、雨の中でもライダーを決して慌てさせることがない。モードの名称のとおり、一般道を走るなら“ストリート”が適切だろう。

続いてスポーツモードでは、PWRの設定がスムーズな出力特性の“2”となる。最強の“1”ではないのだなと思いつつも、明らかにスロットル開度に対するのトルク立ち上がりが濃くなり、CP3エンジンらしい“太い一撃”が顔を出す。とはいえ、印象としてはMT-09のようなじゃじゃ馬的なものではなく、より計算された盛り上がりと言ったらいいだろうか。YZF-Rの名を冠するにふさわしいパワーデリバリーであり、コーナーの進入から立ち上がりまで一連の動作を乱さず、ライダーの入力に対して素直に反応してくれるのだ。

せっかくなのでカスタム1モードでPWRを“1”に設定してみる。すると、スロットルレスポンスは明確にシャープになり、さらに120PSという数値以上に高回転域で伸びる印象が強まる。YZF-R6の最終型も最高出力はほぼ同じだが、5,000rpmからピークに至るまでの加速力はR9の方が上回っているように感じられ、おそらく多くのシーンにおいてこちらの方が圧倒的に速く、かつ乗りやすいと感じるはずだ。

なお、このCP3エンジンの好印象を支えているのは、第3世代のクイックシフターと、操作力の軽いクラッチレバーだ。前者はすでにMT-09などにも採用されており、設定次第でスロットルを開けながらのシフトダウン、閉じながらのシフトアップにも対応。加減速Gの大小にかかわらずシフトショックが非常に少なく、しかも街乗りの速度域でも十分に実用的だ。MT-09やトレーサー9 GTのように、将来的にY-AMT(自動変速トランスミッション)が実装されるとしても、ここまでクイックシフターの完成度が高いのであれば、あえてそれを待つ必要はないのではと思うほどだ。

シフトペダル、ブレーキペダルともアルミ鍛造製。クイックシフターは2022年のMT-10から登場した第3世代のもので、加速中のシフトダウンや減速中のシフトアップにも対応。ただし、R9の初期設定は加速中のシフトアップ/減速時のシフトダウンのみとなっている。

次世代の剛性コントロールで公道走行も犠牲にしていない

個人的には近年のスーパースポーツが苦手だ。具体的には、2005年に登場したスズキ・GSX-R1000(K5)や2008年のホンダ・CBR1000RR(SC59)あたりまでは好みだったが、それ以降はどのメーカーもレースに軸足を置き、圧倒的なシャシー剛性と、ハイスピードなスイートスポットを獲得。それらと引き換えに、公道で楽しめる代物ではなくなってしまったのだ。実際、サーキットですらも、一般ライダーがパフォーマンスの半分も味わうことすら困難だろう。

だが、この新型車は違った。ここがYZF-R9最大のトピックとなる。

ヤマハのスーパースポーツと言えば、YZF-R1にしろR6にしろ“高剛性・高荷重型”のイメージが強い。確かに速いが、許容範囲の狭いプロライダー向けの乗り味だ。しかしR9は、その文脈を一度リセットしたかのような印象すらある。

まず動き出しの極低速域からハンドリングが良いのだ。10km/h台での交差点の曲がり方が驚くほど軽く、かつウェット路面ながら接地感が途切れない。先に倒れたがるような鋭さも、切れ込むような挙動もなく、視線を送った方向へナチュラルに切っ先を向ける。

これはYZF-R9専用に開発されたフレーム構造が大きいだろう。ステアリングヘッド周りに大きな貫通孔を設け、ねじり剛性をコントロール。さらにスイングアームピボット上部を大胆に絞り込むことで、ピッチングとロールの初期作動を軽やかにしているのではないか。結果、YZF-R1/R6よりも明確に“扱える剛性”になったと想像する。

中~高速域にかけても接地感は抜群だ。ウイングレットがどこまで貢献しているかは不明だが、ウェット路面かつRS11というドライ向けタイヤ、しかも当日は気温が10℃を下回っていたことを考えると、この安心感は驚異的と言っていい。前後のサスペンションの作動性も非常に優秀で、スロットルのわずかなオンオフに対しても車体がスムーズにピッチングし、倒し込みのきっかけを作ることができる。スムーズではあるけれども、初期からしっかりと減衰力が効いている、そんなイメージだ。

ブレーキも素晴らしい。フロントキャリパーにブレンボ製のStylemaを採用しているから当然と言えば当然だが、その性能を最大限に引き出すために、マスターシリンダーもブレンボ製のラジアルポンプとしたり、ブレーキホースにステンメッシュを選ぶなど、一切の手抜きはない。指2本でフロントフォークの沈み込み量をミリ単位で調整できるといっても過言ではなく、限界に近付いたらコーナリングABSが適切に介入してくれるのだ。

前後ホイールはMT-09シリーズのスピンフォージドではなく、必要な剛性と強度のバランスからYZF-R6のアルミキャストを流用。標準装着タイヤは専用開発のブリヂストン製「バトラックス レーシングストリート RS11」だ。フロントキャリパーはブレンボ製のモノブロック「Stylema」で、ブレーキホースはステンメッシュだ。

5インチフルカラーTFTディスプレイについては、筐体そのものはMT-09らと共通と思われるが、ラップタイムをフィーチャーしたTrakモードを設定していたり、走行データのログ&解析も可能な「Y-TRAC Rev」アプリに対応していたりと、よりサーキット走行を楽しめる要素が盛り込まれているのが特徴だ。

かつて2007年にホンダが発売したCBR600RR(PC40)というスーパースポーツは、WSSで4回チャンピオンを獲得するほどの戦闘力を持ちながら、公道での扱いやすさも一切犠牲にしていなかった。YZF-R9にもそれに通じるものが感じられ、こうしたコンセプトを然とする風潮が戻ってきたことを素直に歓迎したい。

ホンダが2007年にリリースしたCBR600RR(PC40)。欧州仕様の最高出力は121PS、車重は194kgで、奇しくもYZF-R9のスペックに限りなく近い。

専用フレームが生む挙動はまさに意のまま。スーパースポーツに対するヤマハの新しい回答であり、革命的だとすら感じた。惜しむらくは、初年度の国内販売が300台に限られたことだが、R7との差額を考えても「これは乗りたい」と思わせる完成度の高さだった。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

YZF-R9
XSR900 GP

同じCP3エンジンを搭載するXSR900 GPと比較する。R9は、トップブリッジの上にセパハンがあるGPよりも前傾姿勢は深いが、シートとの距離がわずかに近い上にニーグリップエリアがスリムなので、よりコンパクトに感じられる。シート高はGPの方が5mm高く、足着き性はR9に軍配が上がる。

ディテール解説

アルミスイングアームはMT-09用をベースに、チェーンプラーのあるエンドピースをYZF-R9向けに変更。ドリブンスプロケットを45Tから43Tとし、リヤアクスルの固定位置をMT-09比で約8mm後方に引いている。リヤキャリパーはニッシン製シングルピストンだ。
ステップバーはプレートごと高さを2段階に調整でき、出荷時は低い方に設定される。ブレーキのマスターシリンダーは前後ともブレンボ製だ。
KYB製φ43mm倒立式テレスコピックフォークは、YZF-R1用をベースにR9専用のセッティングを施したもの。右側が伸び側、左側が圧側減衰力を担当し、圧側は高速と低速の2ウェイセッティングが可能だ。ストローク量は120mm。トップブリッジおよびアンダーブラケットは、R9向けに剛性調整を行っている。
リヤサスはリンク式モノショックで、KYB製のショックユニットは二輪車では世界初となる微低速バルブを追加した新構造を採用。フルアジャスタブルで、フロントと同様に圧側減衰力は高速と低速の2ウェイセッティングが可能となっている。なお、フロントフォークのアウターチューブおよびリヤのプリロードコントローラーにはカシマコートを施している。
M字ダクトの内部にHi-Lo一体型のバイファンクショナルLEDヘッドライトをレイアウト。その両サイドにあるのがポジションランプだ。ウイングレットは直進時に6~7%、旋回時はスポイラーとの相乗効果で10%程度、前輪揚力を抑制するという。
ウインカーには急ブレーキの際にハザードを点滅させるエマージェンシーストップシグナル機能あり。
5インチTFTディスプレイ自体はMT-09シリーズで共通だが、表示デザインはR9専用とされる。ライディングモードセレクターは、あらかじめプリセットされたスポーツ/ストリート/レインモードのほか、2種類のカスタマイズ枠、さらにトラックモードでは4種類の枠が設けられている。
各種走行支援に関しては、PWR(パワーデリバリーモード)、TCS(トラクションコントロールシステム)、SCS(スライドコントロールシステム)、LIF(リフトコントロールシステム)、QS(クイックシフター)、LC(ローンチコントロール)、EBM(エンジンブレーキマネージメント)、BC(ブレーキコントロール)、BSR(バックスリップレギュレーター)、ABSリアOFFが個別に設定できる。また、クルーズコントロールやYVSL(ヤマハ・バリアブル・スピード・リミッター)も便利な機能だ。このほか、Y-ConnectアプリやGarmin StreetCrossアプリ、充実したサーキット走行に貢献するY-TRAC Revアプリとの連携など、海外メーカー並みに最先端の機能を盛り込んでいるのが特徴だ。
MT-09やXSR900 GPなどがすでに採用している統合ハンドルスイッチ。ウインカーには二段階フラッシャー機能や消し忘れ機能も。
シート高はMT-09比で+5mmの830mmを公称し、座面およびメインフレームの絞り込みによって良好な足着き性を実現している。シートレールは、その中に収まる電装品も含めてMT-09とほぼ共通で、タンデムステップの取り付け位置を後方へ下げている。
タンデムシートはキーロックの解除で取り外し可能。その中にはUSBタイプCコネクター(5V 3A)が設けられている。また、最初からETC車載器用のコネクターがあるのも非常に親切だ。

ヤマハ YZF-R9 ABS 主要諸元

認定型式/原動機打刻型式 8BL-RNA3J/N722E
全長/全幅/全高 2,070mm/705mm/1,180mm
シート高 830mm
軸間距離 1,420mm
最低地上高 140mm
車両重量 195kg
燃料消費率 国土交通省届出値
定地燃費値 34.0km/L(60km/h) 2名乗車時
WMTCモード値 20.9km/L(クラス3, サブクラス3-2) 1名乗車時
原動機種類 水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ
気筒数配列 直列、3気筒
総排気量 888cm3
内径×行程 78.0mm×62.0mm
圧縮比 11.5:1
最高出力 88kW(120PS)/10,000r/min
最大トルク 93N・m(9.5kgf・m)/7,000r/min
始動方式 セルフ式
潤滑方式 ウェットサンプ
エンジンオイル容量 3.50L
燃料タンク容量 14L(無鉛プレミアムガソリン指定)
吸気・燃料装置/燃料供給方式 フューエルインジェクション
点火方式 TCI(トランジスタ式)
バッテリー容量/型式 12V, 8.6Ah(10HR)/YTZ10S
1次減速比/2次減速比 1.680(79/47)/2.687 (43/16)
クラッチ形式 湿式、多板
変速装置/変速方式 常時噛合式6速/リターン式
変速比 1速:2.571 2速:1.947 3速:1.619 4速:1.380 5速:1.190 6速:1.037
フレーム形式 ダイヤモンド
キャスター/トレール 22°35′/94mm
タイヤサイズ(前/後) 120/70ZR17M/C (58W)(チューブレス)/ 180/55ZR17M/C (73W)(チューブレス)
制動装置形式(前/後) 油圧式ダブルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ
懸架方式(前/後) テレスコピック/スイングアーム(リンク式)
ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ LED/LED
乗車定員 2名