4名のMoto2ライダーをサポートするSPIDI
二輪ロードレースの最高峰であるロードレース世界選手権MotoGPで、SPIDIはMoto2ライダーが使用するレザースーツをサポートしている。日本では、56designが輸入総代理店となっている。イタリアのライディングギアメーカーであるSPIDIは、MotoGPのパドックでどのようなレーシング・サービスを行っているのだろうか。パドックでエアバッグの開発とレーシング・サービスを担当するジュリオ・タマロさんに、2025年最終戦バレンシアGPで話を聞いた。
「ヨーロッパのMotoGPパドックの場合は、サービス・トラックがあります。このトラックでは、レースウイークでわたしたちがライダーたちに渡す、すべてのマテリアルを管理することができるようになっています」

SPIDIはMoto2クラスで4名のライダーをサポートしている。マヌエル・ゴンザレス、アロン・カネト、アルベルト・アレナス、ジョー・ロバーツである。
通常、タマロさんは水曜日の午後にサーキットに到着する。連戦で移動距離が長いときはトラックの到着に時間がかかることもあるが、少なくとも木曜日の早朝にはサーキットにいて作業が始まる。
「木曜日には、ライダーが前のレースで使った装備がトラックに戻ってきます。それをチェックして、エアバッグの電子ユニットに充電し、金曜日の朝にはライダーに返せる状態にします」
「金曜日以降も、フリープラクティスが終わったらまったく同じことをします。走行後に装備を受け取り、整備をして、翌朝、ライダーのアシスタント、もしくはライダー本人に返却します。セッション後にレザースーツを回収することもあれば、1日の最後に回収することもあります。天候やコンディション次第ですね」
日本の夏のように暑くて湿度が高かったり、路面が汚れているような場合は、セッションの度にレザースーツを乾かし、クリーニングしなければならないという。
「そして、1日の終わりにはエアバッグの電子ユニットを充電します。エアバッグが完璧に作動するかをチェックして、もし大きなクラッシュがあったとしても、間違いなく作動する状態にします」
「エアバッグ用のガスジェネレーターだけは、現場で組み込む必要があります。というのも、レザースーツのハンプに入るガスジェネレーターには火薬が使われているので、簡単には輸送できないからです」
「そのためヨーロッパラウンドでは、ガスジェネレーターはわたしたちのトラックに常備しています。ヨーロッパ以外のレースに行く場合は、シーズンの初めに、ブーツなどとは別に前もってガスジェネレーターを船便で送る必要があります。飛行機では送れないからです」
「ガスジェネレーターを装着し、電子ユニットと一緒にハンプに組み込めば、スーツはライダーが翌日から使える完全な状態になります」
これが、MotoGPパドックで行われる週末のルーティンだ。
Moto2ライダーが使用するレザースーツ
Moto2ライダーが使用するのは、ライダーそれぞれにカスタムメイドされたレザースーツである。デザインはもちろんのこと、サイズがライダーに合わせられている。ライダーは完璧に自分に合ったレザースーツを求めているからだ。
「シーズン開幕前、ライダーたちはわたしたちのファクトリーに来て、採寸を行い、前年から体型に変化がないかチェックします。シーズン前の採寸を基準に、開幕に向けてスーツの製作を行い、問題がなければその形と寸法のレザースーツで、シーズンを戦うことになります」
ただし、時にはシーズン中に細かい修正が必要になることもある。
「調整箇所が明確で小さな変更なら、調整を施した“試作スーツ”を次のレースに持ち込み、ライダーにテストしてもらいます。しかし、フィッティングの問題が大きい場合は、ファクトリーの担当者がサーキットに来ます。状況次第で対応方法は変わりますが、今年はわたしの同僚がアロンの要望による大きな変更のために、サーキットに2回来ました」
カネトはストレートスピードの向上をねらって、レザースーツの調整を行ったという。ゴンザレスもまた、カネトと同じ調整を行った。シーズン序盤に「ストレートスピードが(他のライダーよりも)よくない」という状況があったからだ。もちろん、バイクなどの変更も行い、そのうえでチームはレザースーツの調整も改善の対象として、レザースーツをよりタイトにしたのだという。
これはまったく神経質な話ではない。現在のMoto2クラスはかなりハイレベルな戦いで、0.1秒どころか0.01秒が予選順位を変えてしまう。レザースーツに至るまで「少しでも」タイム向上の努力が行われている。例えばブーツのスライダーも、エアロダイナミクスの観点から装着されていない。
特に、ゴンザレスとカネトは、今季、チャンピオン争いを展開したライダーだった。最終的に2025年シーズンのMoto2チャンピオンに輝いたのはディオゴ・モレイラで、ゴンザレスはランキング2位を獲得した。ちなみに、モレイラはXPDブーツを使用している。XPDはSPIDIのフットウエアブランドである。
「彼らはチャンピオンシップを争っていたので、こうした“ごく小さなディテール”にもより注意を払っていたんです。もしバイクに大きな問題を抱えていて、トップ争いをしていないライダーだったら、スーツの細かい調整よりもまずバイク側の問題を優先して考えたでしょうけどね」
「でも、トップ争いをしている場合は、ほんのわずかなスーツの変更でも順位を上げるための“手がかり”になる可能性がある。だからこそ、細部への調整が有効になることもあるんです」
実際に、ゴンザレスの調整前と後のレザースーツを見せてもらったが、見た目にはまったく違いがわからなかった。そうした「わずかな変更」を求めるほど、厳しい戦いなのだ。


SPIDIのレザースーツは、こうした限界の世界で戦うライダーの要求に応え続ける。そしてそうして得られた技術が、市販製品へと反映されていく。

