ヤマハ・トリシティ155 ABS……616,000円(2025年9月25日発売)

SUVでもクロスカントリーでもない、親しみやすいクロスオーバーテイストのスタイリングとなった新型トリシティ155(左)。旧型(右)との違いは歴然としているが、実はフロントフェンダーや前後ホイールなどのデザインは変わっていない。
左は2026年モデル、右は2023年モデルだ。新型のグラブバーは4輪のルーフレールをイメージしており、グリップの裏側には黒い樹脂カバーを追加している。また、TRICITYの立体エンブレムや音叉マークも新作となり、全体の質感を高めることに貢献している。
標準装着タイヤはIRC・SCT-003で、指定空気圧も含めて従来型から変更なし。最小回転半径は2.6mを公称する。
車体色は写真のホワイトメタリック6のほかに、マットライトグリーニッシュグレーメタリック1とマットグレーメタリック3を用意。車両価格は8.7%アップの61万6000円へ。

見やすいTFTディスプレイ、その操作性にも感心しきり

2017年1月の初登場時から、可変バルタイ機構VVA搭載の水冷BLUE COREエンジンをはじめ、新開発のフレーム、LEDヘッドライト、そしてリヤ13インチホイールなどを採用していたトリシティ155。2019年には座面が15mm低い新型シートを採用。そして2023年には、スマートモータージェネレーター(SMG)やアイドリングストップ機構を採用した新型BLUE COREエンジンや、トリシティ125/155では初となるLMWアッカーマン・ジオメトリを導入。こうして変遷を振り返ると、このフロント2輪のコミューターは、スタイリングを変えずに地道に走りを磨いてきたことが分かる。

そんなトリシティ125/155が、2026年モデルで初めて外観を刷新した。具体的には灯火類およびフロントフェイス、サイドカバー、そしてグラブバーを含むテール周りが変更されており、クロスオーバーテイストなトリシティ300とのリレーションが強調された。

機能面での大きな進化は、4.2インチTFTディスプレイを新採用したことだろう。従来モデルもスマホとの連携機能であるY-Connectを備えていたが、新型はメールの着信を知らせるだけでなく、文字表示もできるようになったのだ。

視認性に優れた4.2インチTFTディスプレイを新採用。従来モデル(右側)との違いは歴然だ。専用アプリ「Yamaha Motorcycle Connect(Y-Connect)」との連携機能によって車両の情報をスマホで確認できるほか、便利なTurn by Turnナビゲーション機能も導入。さらに155はトラコンを初採用したことから、メーター内に「TCS」のアイコンも追加された。

実際に使ってみると、このTFTディスプレイは便利なことこの上ない。スマホに届いた通知のタイトルや内容のプレビュー、送信者名などが表示されるので、スマホに触らずともその連絡が緊急か否かが判断できる。通勤や通学に使われることの多いトリシティ125/155にとって、これは大きなメリットと言えるだろう。

また、新設されたTurn by Turnナビゲーション機能も含め、ディスプレイシステムの操作が計4つのボタンで済んでしまう点も秀逸だ。取扱説明書を熟読しなくても、何となく使いたい機能を呼び出せるので、多くのライダーがすぐに慣れるだろう。

メーターの変更に伴い、ハンドル左側のスイッチが大幅に刷新された。なお、155のみに採用されていたパーキングブレーキが省略されてしまったのは少々残念だ(右側が従来モデル)。

なお、スイッチボックスの刷新による余波なのか、155のみに採用されていたパーキングブレーキが省略されてしまった。ちょっとした信号待ちでも積極的に使っていた筆者にとって、少なからず残念に感じた部分だ。

ウェット路面でも絶大なる安心感、これぞトリシティの走り

スタイリングが刷新された2026年型だが、シャシー、エンジンとも大きな変更はない。なお、今回試乗した155には、任意にカットできるトラクションコントロールが新設された。

可変バルタイ機構VVAを採用する155cc水冷4ストローク単気筒の“BLUE CORE”エンジン。基本設計は2017年の登場時から変わらないが、2026年モデルはカムチェーンテンショナーを機械式から油圧式としてフリクションロスを低減している。155は新たにトラコンを導入したのも大きなトピックだ。アイドリングストップシステムを継続採用する。

同系のエンジンを搭載するNMAX155よりも車重がおよそ30%も重いこと、またフロント2輪による転がり抵抗の増加などもあってか、発進加速や中間加速などは125ccのスクーターと同等レベルだ。一応、スロットルを大きく開ければメーター読みで100km/hを超えるが、そこに到達するまでには長い助走距離が必要となる。さらに、向かい風や上り坂などの条件が重なると、パワー的な厳しさを感じてしまう。

とはいえ、それは自動車専用道路などの高速域での話であり、一般道では何ら不足を感じない。低振動かつ静粛性に優れたBLUE COREエンジンは、まさにジェントルという表現がふさわしく、スロットルの動きに対する反応は常に優しい。2026年モデルから新設されたトラコンについては、ウェット路面の旋回中ですら右手を大きく開けても介入を確認できなかったが、とはいえ、ABSと同様に大きな安心材料であることは確かだ。

ハンドリングについては、前後2輪の一般的なモーターサイクルから乗り換えても何ら違和感がない。倒し込みや切り返しにわずかな重さや手応えを感じるものの、これは安定感と言い換えてもいいだろう。ハンドルの押し引きや体重移動などきっかけを与えることで車体が傾き、視線を送った方へスムーズに旋回する。その一連の動きは2輪車のそれと何ら変わりはないが、決定的に異なるのはフロントの接地感の高さだ。

フロントタイヤは2輪だが、まるで“面”でアスファルトを捉えているかのようであり、それは路面の轍や歩道の段差を斜めに突っ切るようなシーンでも常に変わらない。加えて、瞬間的な横風を喰らったときの安定感たるや、リッタークラスでもこれを超えるモデルはなかなかないだろうと思うレベルだ。

トリシティ155の真骨頂は、やはりブレーキング性能の高さだ。今回は終始ウェット路面での試乗となったが、制動距離の短さはドライ路面でのモーターサイクル並みといっても過言ではなく、しかも減速中の安定性や安心感は圧倒的だ。前後連動ブレーキのバランスも適切であり、普段は左レバーの操作だけで事足りるほどである。

スタイリングの刷新およびTFTディスプレイの採用が2026年モデルのトピックだが、それを差し引いてもトリシティ155は魅力的かつ実用的なコミューターであることを確認できた。販売台数ランキングの上位に顔を出すモデルではないが、この走りは唯一無二であり、機会があればぜひ試乗してみてほしい。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

770mmというシート高をはじめ、ライディングポジションは従来モデルから変更なし。フラットなステップボードは雨に濡れた状態でも滑りにくかった。

ディテール解説

新たなOBD規制に対応するため、マフラーにリヤO2センサーを追加。加えて155はエキパイの形状を変更したほか、触媒をより太くするなどして容量をアップしている。

“パラレログラムリンク”と“片持ち式テレスコピックサスペンション”で構成されるLMWテクノロジー。2023年モデルから採用されたLMWアッカーマン・ジオメトリによって、より自然で上質感のある操舵性がもたらされている(画像は2016年モデルのトリシティ125)。
ブレーキは前後ともディスクで、左レバーを握ると前後が連動するUBS(ユニファイド・ブレーキ・システム)およびABSを採用する。
アイドリングストップシステムのスイッチはハンドル右側にあり。乗車位置からはフロントホイールが見えないので、走り始めるとフロント2輪を意識することはほとんどなくなる。
ヘッドライトは現行NMAXのモジュールを流用し、左右にあるLEDポジションランプは新作としている。スクリーンの色は従来のブルースモークからブラックスモークへ。
テールランプ自体は現行NMAXから流用しつつ、NMAXとの違いを演出するために外装カバーのデザインに気を配る。ウインカーは前後ともフィラメント球からLEDとなり、急ブレーキの際にハザードを高速で点滅させるエマージェンシーストップシグナル機能を新採用。
グラブバーと一体化されたリヤキャリアは樹脂プレートを備えており、これを取り外すと純正アクセサリーのトップケース用プレートがボルトオンで装着できる。
シート下のトランクは容量約23.5L。アライのラパイド・ネオ(59-60サイズ)が余裕で収納できた。LED照明付きなので夜間も内部が見やすい。
フロントポケット内にあったDCソケットをUSB Type-C端子(5V、3A以下)に変更し、インナーパネル左側に移設。利便性の高いスマートキーを継続採用する。
DCソケットがなくなったことでわずかに容量がアップしたフロントポケット。コンビニフックの耐荷重は1kgだ。

トリシティ125/155 ABS(2026年モデル)主要諸元 【 】内は155

認定型式/原動機打刻型式 8BJ-SEL4J/E35DE【8BK-SGA9J/G3X4E】
全長/全幅/全高 1,995mm/750mm/1,215mm
シート高 770mm
軸間距離 1,410mm
最低地上高 165mm
車両重量 173kg
燃料消費率 国土交通省届出値 
定地燃費値 42.4km/L【43.4km/L】(60km/h)2名乗車時
WMTCモード値 45.4km/L(クラス1)【42.4km/L(クラス2、サブクラス2-2)】1名乗車時
原動機種類 水冷・4ストローク・SOHC・4バルブ
気筒数配列 単気筒
総排気量 124cm3【155cm3】
内径×行程 52.0mm【58.0mm】×58.7mm
圧縮比 11.2:1【11.6:1】
最高出力 9.0kW(12PS)【11kW(15PS)】/8,000rpm
最大トルク 11N・m(1.1kgf・m)/6,000rpm【14N・m(1.4kgf・m/6,500rpm)】
始動方式 セルフ式
潤滑方式 ウェットサンプ
エンジンオイル容量 1.00L
燃料タンク容量 7.2L(無鉛レギュラーガソリン指定)
吸気・燃料装置/燃料供給方式 フューエルインジェクション
点火方式 TCI(トランジスタ式)
バッテリー容量/型式 12V、6.0Ah(10HR)/YTZ7V
1次減速比/2次減速比 1.000/10.208(56/16×35/12)
クラッチ形式 乾式、遠心、シュー
変速装置/変速方式 Vベルト式無段変速/オートマチック
変速比 2.386~0.748【2.341~0.736】:無段変速
フレーム形式 アンダーボーン
キャスター/トレール 20°00′/68mm
タイヤサイズ(前/後) 90/80-14M/C 43P(チューブレス)/130/70-13M/C 57P(チューブレス)
制動装置形式(前/後) 油圧式ディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ
懸架方式(前/後) テレスコピック/ユニットスイング
ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ LED/LED
乗車定員 2名

製造国 タイ王国