スズキ・DR-Z4S……¥1,199,000(2025年10月8日発売)

フロントからリヤへの直線的かつ水平基調のつながりを感じさせるスタイリング。ホイールトラベル量はフロント280mm、リヤ296mmだ。ホンダ・CRF250L〈s〉が前後とも260mmなので、さらに脚長な設定だ。
標準装着タイヤはIRC・トレイルウイナー GP-410ATで、内部構造とコンパウンドはDR-Z4S専用設計とされる。合わせてリヤのサイズはDR-Z400S時代の120/90-18から、一般的な120/80-18へ。
車体色はソリッドアイアングレーとチャンピオンイエローNo.2/ソリッドスペシャルホワイトNo.2の2種類。どちらも倒立フォークのアウターチューブはゴールド、リムはブラックを採用する。車重は151kgで、これはホンダ・CRF250ラリーよりも2kg軽いことになる。
エンデューロレース用の競技車両「DR-Z400」と同時に2000年4月1日に発売された「DR-Z400S」。最高出力は40PS/7,500rpm、車両価格は62万8000円(税別)だった。スズキの資料によれば、2009年モデルまで販売されていた。

燃料噴射&ツインプラグ&電脳化、もはやエンジンは別物へ

400ccクラスに、久しぶりにデュアルパーパスが帰ってきた! 昨年のEICMA2024においてスーパーモトモデルのDR-Z4SMとともに発表され、今年10月から日本での販売がスタートした「DR-Z4S」は、2009年モデルまで販売されていたDR-Z400Sの正統な後継にあたる。ちなみに旧型DR-Zは北米市場において昨年(2024年)までラインナップにあったことから、およそ四半世紀ぶりのフルモデルチェンジを果たしたことになるのだ。

まずは心臓部であるエンジンから。ボア×ストローク値をはじめ、DOHC4バルブという動弁系、そして5段のトランスミッションなど、基本設計はDR-Z400Sを継承。その上で、最新の排ガス規制をクリアしつつ本格的な走行性能を追求するため、ほとんどのパーツが刷新された。

398ccの水冷4ストローク単気筒エンジンはバランサー付きで、従来型をベースに現行の排ガス規制(ユーロ2から5+へ)に対応するため、多くの構成部品を刷新。チタン製吸気バルブおよびナトリウム封入排気バルブを新採用したほか、点火プラグを1本から2本へ。さらに燃料供給はキャブレターからFIとなり、スロットルボア径はφ36mmからφ42mmへ拡大した。そのほか、吸排気カムのプロフィール変更、ピストンスカート部の形状変更、ポンピングロス低減を目的としたクランクケース連結穴の追加、SCAS(スズキ・クラッチ・アシスト・システム)の採用など、変更点は多岐にわたる。なお、トランスミッションは5段のままで、ドライサンプを継続採用する。

エンジンを始動する。仕上げの美しいステンレス製のサイレンサーから吐き出されるサウンドは、やはり250ccクラスのデュアルパーパスよりも野太く力強い印象だ。メカノイズは非常に少なく、またアシストシステムのおかげでクラッチレバーの操作力は非常に軽い。基本設計が四半世紀前とはいえ、こうした部分はしっかりと現代的にアップデートされている。

DR-Z4Sは、SDMS(スズキ・ドライブ・モード・セレクター)を備えており、選べるモードはA/B/Cの3種類だ。まずは最も穏やかなCモードでスタートする。タコメーターがないので想像の域を出ないが、3,000~4,000rpm付近までのスロットルレスポンスが特に穏やかで、そこからはスムーズにピークへと伸びていく印象だ。15%程度の上り勾配では、やや大きめにスロットルを開けないと発進時にエンストしやすいが、気になったのはその程度。少なくとも中回転域までの加速“感”は250ccのデュアルパーパスに近く、これなら滑りやすい路面でもライダーを慌てさせないはずだ。

続いてBモードへ。低回転域でクラッチをつないだ瞬間から先ほどのCモードとの違いは明らかで、400ccシングルらしい力強い蹴り出し感を伴いながらマシンが発進する。スロットルの動きに対してキビキビと反応するが、それは決して過剰なものではなく、街乗りやツーリングなど、多くのシーンでオールマイティに活躍するだろう。実際、今回の試乗において一番多用したのがこのBモードだ。

最もパワフルなAモードは、38PSという最高出力から想像する以上にエキサイティングだ。スロットルの開け方次第ではフロントタイヤが浮きそうになるほか、冷えた路面ではすぐにトラコンの介入を知らせるインジケーターが高速点滅する。その一方で、3速のまま27~28km/h付近までスピードを落としても、わずかな上りですらエンストするようなそぶりは一切見せず、右手を動かせば何ごともなかったかのようにスルスルと速度を上げる。この粘り強さやフレキシブルさは、キャブレター時代のDR-Z400Sでは到底不可能だったはず。最新の制御技術によって、DR-Zの水冷シングルは目覚ましく進化したのだ。

オンロードでの走りは高剛性かつクイック、そして速い

DR-Z4Sのフレームは完全新設計であり、合わせて足周りも刷新されている。これはスーパーモトモデル「DR-Z4SM」と同時に開発されたことも少なからず影響していそうだ。ちなみに旧型にも派生モデルとして前後17インチホイールの「DR-Z400SM」が存在したが、日本で販売が開始されたのはおよそ5年後の2004年12月であり、当初スーパーモトの構想はなかったと思われる。

中央に1本だったタンクレール部を左右2本とした新設計の合金鋼セミダブルクレードルを採用。アルミ製のシートレールも新設計とされる。なお、メインフレームのフロント内部はドライサンプ用のオイルタンクとしても活用されている。

街中を走り始めてまず驚いたのは、60km/h以下でのハンドリングがクイックなことだ。フロント21インチのデュアルパーパスと言えば、車体の傾きに対して穏やかに舵角が付き、その後は大らかに向きを変える車種が多い。だが、DR-Z4Sはまるでフロントホイールが19インチぐらいに小さくなったかのようであり、舵角が入ったあとは強い旋回Gを伴いながらスイッと向きを変える。最初は、まるで足払いを食らったかのような倒し込みの軽さに戸惑ったが、慣れてきてからはこの反応を楽しめるようになった。少なくともS字コーナーの切り返しに必要な入力は、ホンダのCRF250Lよりも少なくて済むとすら感じるほどだ。

一般的なデュアルパーパスは、シャシー剛性が柔軟というか、釣りで使用するロッドのように、芯がありつつもしなやかに外乱をいなすイメージがある。これに対してDR-Z4Sは、特に倒立化されたフロントフォークも含めステアリングヘッド付近がしっかりしており、これがハンドリングにおけるレスポンスの鋭さの源になっている。加えて、二人乗りも考慮したバネレートが影響しているのか、ピッチングしすぎないサス設定もこれに貢献しているようだ。未舗装路走行があまり得意でない筆者にとって、ダートを走るなら柔軟で優しいCRF250Lの方が肌に合うはず。とはいえ、腕に覚えのあるライダーならDR-Z4Sを手足のように扱えるだろうし、バイクもそれに応えてくれるに違いない。

ブレーキについては、前後とも旧型より大径化されており、特にフロントはオンロードでも十分以上のストッピングパワーを発揮してくれる。標準装着タイヤのIRC・GP-410ATは、微速域においてブロックパターン特有の振動を伴うものの、舗装路においても高いグリップ力を有しており、特に不満は感じなかった。

DR-Z4Sは非常に良くできたデュアルパーパスであり、文字どおり250ccで力不足を感じていたライダーにとっては待望のモデルと言えるだろう。なお、ネックとなりそうなのが車両価格であり、直接のライバルとなるであろうKTM・390エンデューロRの85万9000円に対し、DR-Z4Sの119万9000円はどうしても高く感じてしまう。付け加えると、水冷4気筒エンジンを搭載するカワサキのNinja ZX-4R SEですら117万7000円だ。とはいえ、すでに国内の年間目標販売台数(DR-Z4S:400台、DR-Z4SM:800台)を上回る受注が入っているとのことで、これだけ人気を集めているのであれば、久しぶりにアフターパーツマーケットも活気付きそうだ。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

JASO(日本自動車技術会規格)には「シート高:900mm以下」という規定があるとのことで、これに適合させるため輸出仕様よりも30mm低いローシートを標準装備し、シート高を890mmとしている。乗車1Gでの沈み込みはそれほど大きくはなく、身長175cmの筆者で両足の拇指球が辛うじて届く程度だ。ライディングポジションは典型的なデュアルパーパスのそれであり、ローシートによって着座位置が低い部分に固定されがちというネガがあるものの、総じて好印象だ。

ディテール解説

フロントのブレーキディスクはφ250mmからφ270mmへ拡大。キャリパーはニッシン製のピンスライド片押し式2ピストンだ。ホイールは前後ともワイヤースポークを採用。
エキパイ、サイレンサーとも質感の高いステンレス製。触媒を2段とすることで走行性能を維持しつつユーロ5+をクリアした。
剛性を高めるためにフロントフォークはφ47mm正立式からφ46mm倒立式へ。トップキャップに伸び側減衰力、ボトム部に圧側減衰力調整のダイヤルを持つ。プリロート調整機構はなし。
アルミ製のスイングアームは新設計に。リヤのブレーキディスク径はφ220mmからφ240mmへと拡大。キャリパーはニッシン製のシングルピストンで、これにRM-Zと共通のリザーバータンク一体式マスターシリンダーを組み合わせる。
ショックユニットは前後ともKYB製。リヤショックはプリロードも調整できるフルアジャスタブル式で、圧側減衰力は高速と低速の2ウェイセッティングが可能となっている。
アルミ製のテーパーハンドルバーを採用。日本仕様のみ左側にヘルメットホルダーを備える。
あえてスロットルケーブルを介したライド・バイ・ワイヤ方式を採用。先進の電子制御ライダー支援システムであるスズキインテリジェントライドシステム(S.I.R.S.)は、スズキドライブモードセレクター(SDMS)、スズキトラクションコントロールシステム(STCS)、そしてABSの設定が任意に変更可能。ABSについてはスズキの市販車として初めてフロント&リヤABS OFFモードを装備し、リヤのABSキャンセル時にはフロントのABSの介入度も変更される。このほか、ワンプッシュでエンジン始動が可能なスズキ・イージースタート・システムも装備。
モノクロLCDディスプレイを採用。新たにギヤポジションインジケーターとバーグラフ式の燃料計を追加したが、タコメーターはなし。時計が常時表示されるのは親切だ。
ステップバーの幅は先代比で33mmから49mmへと広くなり、位置は23mmバックしている。ブレーキペダルはアルミ鍛造製だ。
一つの発光部でハイビームとロービームが切り替えられるバイファンクションLEDヘッドライトを採用。LEDのフロントウインカーはポジションランプも兼ねる。
一つの発光部でハイビームとロービームが切り替えられるバイファンクションLEDヘッドライトを採用。LEDのフロントウインカーはポジションランプも兼ねる。円筒形の黒いパーツはエバポキャニスターだ。
足着き性を最優先しながら乗車位置の自由度を保つため、設計を最適化したシート。合わせてシートボトムとブラケットとの間にゴムクッションを挿入することで、振動の伝達を抑制している。
キーロック式の左フロントフレームカバーを開けると車載工具にアクセスできる。シートは左右のフロントフレームカバーと左右のサイドフレームカバー、シートバンドを取り外すことで脱着可能に。

スズキ・DR-Z4S(2026年モデル) 主要諸元

型式 8BL-ER1AH
全長/全幅/全高 2,270mm/885mm/1,230mm
軸間距離/最低地上高 1,490mm/300mm
シート高 890mm
装備重量 151kg
燃料消費率 国土交通省届出値:定地燃費値 34.9km/L(60km/h)2名乗車時
WMTCモード値 27.7km/L(クラス3、サブクラス3-1) 1名乗車時
最小回転半径 2.4m
エンジン型式/弁方式 GKA1・水冷・4サイクル・単気筒/DOHC・4バルブ
総排気量 398cm3
内径×行程/圧縮比 90.0mm×62.6mm/11.1:1
最高出力 28kW〈38PS〉/8,000rpm
最大トルク 37N・m〈3.8kgf・m〉/6,500rpm
燃料供給装置 フューエルインジェクションシステム
始動方式 セルフ式
点火方式 フルトランジスタ式
潤滑方式 圧送式ドライサンプ
潤滑油容量 1.9L
燃料タンク容量 8.7L
クラッチ形式 湿式多板コイルスプリング
変速機形式 常時噛合式5段リターン
変速比 2.285~0.863
減速比(1次/2次) 2.960/2.866
フレーム形式 セミダブルクレードル
キャスター/トレール 27° 30′/109mm
ブレーキ形式(前/後) 油圧式シングルディスク(ABS/油圧式シングルディスク(ABS)
タイヤサイズ(前/後) 80/100-21M/C 51P チューブタイプ 120/80-18M/C 62P チューブタイプ
舵取り角左右 45°
乗車定員 2名
排出ガス基準 平成32年(令和2年)国内排出ガス規制に対応