スズキ・DR-Z4S……¥1,199,000(2025年10月8日発売)




燃料噴射&ツインプラグ&電脳化、もはやエンジンは別物へ

400ccクラスに、久しぶりにデュアルパーパスが帰ってきた! 昨年のEICMA2024においてスーパーモトモデルのDR-Z4SMとともに発表され、今年10月から日本での販売がスタートした「DR-Z4S」は、2009年モデルまで販売されていたDR-Z400Sの正統な後継にあたる。ちなみに旧型DR-Zは北米市場において昨年(2024年)までラインナップにあったことから、およそ四半世紀ぶりのフルモデルチェンジを果たしたことになるのだ。
まずは心臓部であるエンジンから。ボア×ストローク値をはじめ、DOHC4バルブという動弁系、そして5段のトランスミッションなど、基本設計はDR-Z400Sを継承。その上で、最新の排ガス規制をクリアしつつ本格的な走行性能を追求するため、ほとんどのパーツが刷新された。

エンジンを始動する。仕上げの美しいステンレス製のサイレンサーから吐き出されるサウンドは、やはり250ccクラスのデュアルパーパスよりも野太く力強い印象だ。メカノイズは非常に少なく、またアシストシステムのおかげでクラッチレバーの操作力は非常に軽い。基本設計が四半世紀前とはいえ、こうした部分はしっかりと現代的にアップデートされている。
DR-Z4Sは、SDMS(スズキ・ドライブ・モード・セレクター)を備えており、選べるモードはA/B/Cの3種類だ。まずは最も穏やかなCモードでスタートする。タコメーターがないので想像の域を出ないが、3,000~4,000rpm付近までのスロットルレスポンスが特に穏やかで、そこからはスムーズにピークへと伸びていく印象だ。15%程度の上り勾配では、やや大きめにスロットルを開けないと発進時にエンストしやすいが、気になったのはその程度。少なくとも中回転域までの加速“感”は250ccのデュアルパーパスに近く、これなら滑りやすい路面でもライダーを慌てさせないはずだ。
続いてBモードへ。低回転域でクラッチをつないだ瞬間から先ほどのCモードとの違いは明らかで、400ccシングルらしい力強い蹴り出し感を伴いながらマシンが発進する。スロットルの動きに対してキビキビと反応するが、それは決して過剰なものではなく、街乗りやツーリングなど、多くのシーンでオールマイティに活躍するだろう。実際、今回の試乗において一番多用したのがこのBモードだ。
最もパワフルなAモードは、38PSという最高出力から想像する以上にエキサイティングだ。スロットルの開け方次第ではフロントタイヤが浮きそうになるほか、冷えた路面ではすぐにトラコンの介入を知らせるインジケーターが高速点滅する。その一方で、3速のまま27~28km/h付近までスピードを落としても、わずかな上りですらエンストするようなそぶりは一切見せず、右手を動かせば何ごともなかったかのようにスルスルと速度を上げる。この粘り強さやフレキシブルさは、キャブレター時代のDR-Z400Sでは到底不可能だったはず。最新の制御技術によって、DR-Zの水冷シングルは目覚ましく進化したのだ。
オンロードでの走りは高剛性かつクイック、そして速い

DR-Z4Sのフレームは完全新設計であり、合わせて足周りも刷新されている。これはスーパーモトモデル「DR-Z4SM」と同時に開発されたことも少なからず影響していそうだ。ちなみに旧型にも派生モデルとして前後17インチホイールの「DR-Z400SM」が存在したが、日本で販売が開始されたのはおよそ5年後の2004年12月であり、当初スーパーモトの構想はなかったと思われる。

街中を走り始めてまず驚いたのは、60km/h以下でのハンドリングがクイックなことだ。フロント21インチのデュアルパーパスと言えば、車体の傾きに対して穏やかに舵角が付き、その後は大らかに向きを変える車種が多い。だが、DR-Z4Sはまるでフロントホイールが19インチぐらいに小さくなったかのようであり、舵角が入ったあとは強い旋回Gを伴いながらスイッと向きを変える。最初は、まるで足払いを食らったかのような倒し込みの軽さに戸惑ったが、慣れてきてからはこの反応を楽しめるようになった。少なくともS字コーナーの切り返しに必要な入力は、ホンダのCRF250Lよりも少なくて済むとすら感じるほどだ。
一般的なデュアルパーパスは、シャシー剛性が柔軟というか、釣りで使用するロッドのように、芯がありつつもしなやかに外乱をいなすイメージがある。これに対してDR-Z4Sは、特に倒立化されたフロントフォークも含めステアリングヘッド付近がしっかりしており、これがハンドリングにおけるレスポンスの鋭さの源になっている。加えて、二人乗りも考慮したバネレートが影響しているのか、ピッチングしすぎないサス設定もこれに貢献しているようだ。未舗装路走行があまり得意でない筆者にとって、ダートを走るなら柔軟で優しいCRF250Lの方が肌に合うはず。とはいえ、腕に覚えのあるライダーならDR-Z4Sを手足のように扱えるだろうし、バイクもそれに応えてくれるに違いない。
ブレーキについては、前後とも旧型より大径化されており、特にフロントはオンロードでも十分以上のストッピングパワーを発揮してくれる。標準装着タイヤのIRC・GP-410ATは、微速域においてブロックパターン特有の振動を伴うものの、舗装路においても高いグリップ力を有しており、特に不満は感じなかった。
DR-Z4Sは非常に良くできたデュアルパーパスであり、文字どおり250ccで力不足を感じていたライダーにとっては待望のモデルと言えるだろう。なお、ネックとなりそうなのが車両価格であり、直接のライバルとなるであろうKTM・390エンデューロRの85万9000円に対し、DR-Z4Sの119万9000円はどうしても高く感じてしまう。付け加えると、水冷4気筒エンジンを搭載するカワサキのNinja ZX-4R SEですら117万7000円だ。とはいえ、すでに国内の年間目標販売台数(DR-Z4S:400台、DR-Z4SM:800台)を上回る受注が入っているとのことで、これだけ人気を集めているのであれば、久しぶりにアフターパーツマーケットも活気付きそうだ。
ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)
JASO(日本自動車技術会規格)には「シート高:900mm以下」という規定があるとのことで、これに適合させるため輸出仕様よりも30mm低いローシートを標準装備し、シート高を890mmとしている。乗車1Gでの沈み込みはそれほど大きくはなく、身長175cmの筆者で両足の拇指球が辛うじて届く程度だ。ライディングポジションは典型的なデュアルパーパスのそれであり、ローシートによって着座位置が低い部分に固定されがちというネガがあるものの、総じて好印象だ。
ディテール解説













スズキ・DR-Z4S(2026年モデル) 主要諸元
型式 8BL-ER1AH
全長/全幅/全高 2,270mm/885mm/1,230mm
軸間距離/最低地上高 1,490mm/300mm
シート高 890mm
装備重量 151kg
燃料消費率 国土交通省届出値:定地燃費値 34.9km/L(60km/h)2名乗車時
WMTCモード値 27.7km/L(クラス3、サブクラス3-1) 1名乗車時
最小回転半径 2.4m
エンジン型式/弁方式 GKA1・水冷・4サイクル・単気筒/DOHC・4バルブ
総排気量 398cm3
内径×行程/圧縮比 90.0mm×62.6mm/11.1:1
最高出力 28kW〈38PS〉/8,000rpm
最大トルク 37N・m〈3.8kgf・m〉/6,500rpm
燃料供給装置 フューエルインジェクションシステム
始動方式 セルフ式
点火方式 フルトランジスタ式
潤滑方式 圧送式ドライサンプ
潤滑油容量 1.9L
燃料タンク容量 8.7L
クラッチ形式 湿式多板コイルスプリング
変速機形式 常時噛合式5段リターン
変速比 2.285~0.863
減速比(1次/2次) 2.960/2.866
フレーム形式 セミダブルクレードル
キャスター/トレール 27° 30′/109mm
ブレーキ形式(前/後) 油圧式シングルディスク(ABS/油圧式シングルディスク(ABS)
タイヤサイズ(前/後) 80/100-21M/C 51P チューブタイプ 120/80-18M/C 62P チューブタイプ
舵取り角左右 45°
乗車定員 2名
排出ガス基準 平成32年(令和2年)国内排出ガス規制に対応






