Cadillac Lyriq

キャデラック初のEVであるリリックのデザインは、見れば見るほどに謎が深まる。一見キャデラックらしくないように思えて、結局キャデラックにしか見えないし、無国籍なようでアメリカン、さらに斬新なのにどこか懐かしさすら感じさせるのだ。その理由を『カースタイリング』誌の編集長、難波治が解説する。
L字型のリヤコンビネーションランプは非常にオリジナリティの高い造形といえる。

EVをカッコよく見せるテクニックとは

キャデラック・リリックは、GMのバッテリーEV(BEV)戦略の中心となるモデルで、2021年に発表され翌2022年からアメリカで受注が開始されたモデルである。日本には2025年5月に導入された。バッテリーを床に敷き詰めたBEV専用プラットフォームの上に構築され、全長4995mm×全幅1985mm×全高1640mm、ホイールベース3085mmという諸元値をもつ。

近年のEVのパッケージは、床にバッテリーを置くためにホイールベースが長くなり、またバッテリーの上に乗員を座らせるためどうしても背が高くなる。そうするとボディが厚く見えてしまい、それをそうと見せないためのデザインが求められるのだが、リリックもほかのBEV同様にその“技”を使っている。

キャデラック初のEVであるリリックのデザインは、見れば見るほどに謎が深まる。一見キャデラックらしくないように思えて、結局キャデラックにしか見えないし、無国籍なようでアメリカン、さらに斬新なのにどこか懐かしさすら感じさせるのだ。その理由を『カースタイリング』誌の編集長、難波治が解説する。
フロントバンパー下部からボディのサイドシル部分を抜けてリヤバンパー下部までをブラックにすることで、ボディの厚みを低減。さらにリヤへ向けてラインを持ち上げることで軽やかに見せている。

SUVの定番ファッションはその点において非常に有効で、まず第一にフロントバンパー下部からボディのサイドシル部分を抜けてリヤバンパー下部までをブラックにすることで、ボディの厚みをかなり削減している。そして第二にホイールアーチにクラッディングパーツを回すことで、大径ホイールと相まってホイール部を大きく見せている。その結果フロントフェンダーが薄く見え、走りの良いスポーティな印象を与えることが可能になる。リヤホイールアーチも同様に大きなサイズのホイールとクラッディングにより、軽快さと運動性能の高さを演出している。さらにボディアンダーの黒いエリアの形状を後ろ上がりのウェッジ(楔形に少しづつ傾ける)とすることで、重たく見えがちなボディ後部を軽やかに見せ、走りのイメージを醸し出している。

またロングホイールベースは結果として前後オーバーハング部を短くすることになるので、タイヤがボディの四隅に配置されることになり、これもクルマをスポーティに見せることに繋がっている。その上でベルトラインから上のキャビン部分を黒く2トーンにすることで、さらにボディの厚み感を低減している。これらの対処により、まず諸元値がもつ“事実”としての大きさを軽減していて、さらにリリックがスポーティに走るSUVであるというイメージを持たせることに成功している。

EVとしての個性はフロントの中央部分で表現

キャデラック初のEVであるリリックのデザインは、見れば見るほどに謎が深まる。一見キャデラックらしくないように思えて、結局キャデラックにしか見えないし、無国籍なようでアメリカン、さらに斬新なのにどこか懐かしさすら感じさせるのだ。その理由を『カースタイリング』誌の編集長、難波治が解説する。
ポジションランプとヘッドライトは下部にある縦型の部分。一般的なヘッドライト位置にあるのはウインカーだ。エンジン車におけるフロントグリル部分は「ブラッククリスタルシールド」と呼ばれる緻密なグラフィックで構成。

フロントグリルはキャデラックブランドにおけるBEV専用の「ブラッククリスタルシールド」と呼ばれる全面が緻密なグラフィックで構成されたセンター部分と、水平に繋がるLEDターンシグナルで、ワイドに切れ味のよい未来的な顔を持つ。そしてなにより縦型LEDのヘッドライトがキャデラックの証として機能している。

メインボディ部は前輪部から後方へ向けてスムーズに、かつおおらかなカーブで絞り込まれている。その上でサイドシル近くから強いウェッジでリヤホイールアーチのフレアに繋がるサーフェイスが、リヤフェンダーの強い張り出し感を創り出している。結果、フロントクォーターから見るとリヤオーバーハング部への絞り込みが車幅ギリギリで踏ん張っている後輪を強調し、リリックを非常にスポーティに見せる。

キャデラック初のEVであるリリックのデザインは、見れば見るほどに謎が深まる。一見キャデラックらしくないように思えて、結局キャデラックにしか見えないし、無国籍なようでアメリカン、さらに斬新なのにどこか懐かしさすら感じさせるのだ。その理由を『カースタイリング』誌の編集長、難波治が解説する。
下部の縦型テールランプでキャデラックの伝統を表現。リリックのそれは1967年のエルドラドをモチーフとしている。

そしてボディデザインにおける最大の特徴が、前輪との関係性の良いAピラーから後端へとフローティングしたように見せるルーフラインと、それを支えるCピラーだ。このいかにも風を切って走るクルーザーのように見える流麗なルーフラインが爽快なスポーティさを醸し出すとともに、そのCピラーからテールに回り込んで水平に繋がるリヤコンビネーションランプが、リリックらしさとキャデラックブランドとの融合を図っている。

特徴的な前方から後方へ抜けるルーフラインと、Cピラーと組み合わされてリヤエンドへ水平に回り込むテールライトは、リリックの外観上の最大の個性を示している。
特徴的な前方から後方へ抜けるルーフラインと、Cピラーと組み合わされてリヤエンドへ水平に回り込むテールライトは、リリックの外観上の最大の個性を示している。

これらボディの構成は、BEVにおける航続距離最大化を目的とした、電費を稼ぎ出すための空力性能から求められる、流れの良い形状に由来する。リヤエンドの縦型のブラックガーニッシュ部も、空力対策としてのボディ形状をうまく活用しつつ、フロントエンドと同様のキャデラック表現を踏襲している。

このように、リリックのエクステリアデザインは、キャデラックBEVシリーズの先兵としてその性能要件を満たすスタイリングアーキテクチャーで構成されている。内燃機関シリーズとは違う滑らかな空力ボディを纏い、非常にバランスの良いスポーティなプロポーションの、未来感を感じさせるデザインといえる。

インテリアもアメリカ車らしさに溢れる

ドライバーを包み込むように配置される33インチのLEDディスプレイは、横長だった1960年代のキャデラックのメーターナセルを思わせる。ステアリングのセンターパッドとスポーク部を取り囲むクロームメッキ加飾も、どこかホーンリングをイメージさせる意匠だ。
ドライバーを包み込むように配置される33インチのLEDディスプレイは、横長だった1960年代のキャデラックのメーターナセルを思わせる。ステアリングのセンターパッドとスポーク部を取り囲むクロームメッキ加飾も、どこかホーンリングをイメージさせる意匠だ。

室内は1985mmという車体幅のおかげで、余裕のあるラグジュアリーな広さ感を持っている。日本向けに右ハンドル仕様で作られたドライバー席の前には、非常にワイドな湾曲した33インチLEDディスプレイがドライバーを包み込むように配置され、ドライバーが着座するとそのディスプレイ上でリリックの画像がウェルカムと迎えてくれる。その上でディスプレイはドライバーの前方を妨げることがなく、視界は非常に良い。床下に配置されたバッテリーのために床面はやや高く、乗降時にはその高さを感じるのだが、一旦車内に乗り込んでしまえば、アメリカ車的なゆったりとしたフロントシートは快適な座り心地で、前席ゾーンの余裕と開放感は素晴らしい。着座姿勢もごく自然である。

アメリカ車的なゆったりとしたフロントシートは快適な座り心地で、前席ゾーンの余裕と開放感は素晴らしい。パノラミックルーフの採用で空間全体も非常に居心地が良かった。
アメリカ車的なゆったりとしたフロントシートは快適な座り心地で、前席ゾーンの余裕と開放感は素晴らしい。パノラミックルーフの採用で空間全体も非常に居心地が良かった。

ドアトリムに配置されたシートアジャスターは操作しやすく、トリム下部には緻密に仕上げられたAKGのオーディオスピーカーのカバーが高級感を醸し出す。フローティングタイプのセンターコンソールは幅も十分で、丸形のコントローラーとカップホルダー部のローレット加工が美しい。アメリカンラグジュアリーの雰囲気を十分に楽しめる。

後席のレッグルームも長いホイールベースのおかげで非常に余裕がある。天井には標準でブラックパノラミックルーフが取り付けられており、その開放感のある360度の視界も手伝って、非常に気持ちの良い居心地であった。リリックの室内は大人4人が心地よく移動するのに十分な広さと空間性を持てるよう、緻密に計画されている。

REPORT/難波 治(Osamu NAMBA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2026年2月号

【SPECIFICATIONS】

キャデラック・リリック・スポーツ

ボディサイズ:全長4995 全幅1985 全高1640mm
ホイールベース:3085mm
車両重量:2650kg
フロントモーター
最高出力:170kW(231PS)/15500rpm
最大トルク:309Nm(31.5kgm)/0-1000rpm
リヤモーター
最高出力:241kW(328PS)/15500rpm
最大トルク:415Nm(42.3kgm)/0-1000rpm
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ディスク
タイヤサイズ:前後275/45R21
最高速度:210km/h
0-100km/h加速:5.3秒
指定価格:1100万円

【問い合わせ】
GMジャパン・カスタマーセンター
TEL 0120-711-276
https://www.gmjapan.co.jp/

キャデラック初のEV、リリックを往復1500kmの旅へと連れ出した。

これが最新のアメリカ車だ! キャデラック「リリック」に試乗

キャデラック初のEV、リリックが日本の路上を走り始めた。EVなのに親しんだエンジン車のような走り。斬新なのにどこか懐かしいデザイン。リリックはそんな相対する要素が不思議と融合したバッテリーEV(BEV)だ。その実力を確かめるため、往復1500kmの旅へと連れ出した。(GENROQ2026年1月号より転載・再構成)