Porsche Carrera GT “Salzburg Design”
ゾンダーヴンシュのファクトリー・リコミッション

ポルシェのビスポークプログラム「ゾンダーヴンシュ(Sonderwunsch)」が展開する、ファクトリー・リコミッション(Factory Re-Commission)は、ポルシェ・オーナーに向けた限定的なサービスとして導入された。
カスタマーの依頼を受けて、ポルシェのスペシャリストが既存車両(ヒストリックモデルを含む)に対して、全面的な技術的改修を実施。ファクトリーで行われる公式のオーバーホールによって、車両は事実上「走行距離ゼロの状態」へと戻され、その内容は正式に記録される。
さらに、このタイミングでエクステリアとインテリアのカラーコンセプトを再設計することも可能。個別のカラーや素材オプションを後付けする選択肢も用意されている。オーナーはポルシェのデザイナーや開発者と緊密に連携しながら、カスタマーは自身の特別な要望を形にしていく。
専門家はアイデアの実現可能性を検証し、技術的に承認されるまで細部を詰めていくため、最終的な仕上がりはあらゆる点でポルシェの品質基準を満たすものとなる。すべての変更内容は社内アーカイブに記録され、後からでも透明性をもって追跡できるようになっている。
今回、プエルトリコ出身のポルシェ・コレクターのビクトル・ゴメス(Victor Gomez)は、ゾンダーヴンシュを介して、特別な願いを叶えることになった。彼の2005年型カレラ GTは、技術的に新車同様の状態へとレストアされ、1970年のル・マン24時間レースで優勝した伝説的な917のリバリーをオマージュした「ザルツブルク・デザイン」が施された。インテリアもまた、レッドのアルカンターラとマットカーボンによって、個性豊かに仕立て直されている。
1970年の917 ショートテールを再現

オーストリアの都市ザルツブルクは、美しい旧市街や音楽祭だけでなく、特別なレーシングカーデザインでも知られている。1970年、ハンス・ヘルマンとリチャード・アトウッドは、レッドとホワイトの鮮烈なカラーリングを纏い、レーシングナンバー「23」を掲げた「ポルシェ 917 ショートテール」で、ポルシェ初のル・マン24時間レース総合優勝を達成した。
この時、917 ショートテールが纏っていたレーシングリバリーは、モータースポーツファンの間で「ザルツブルク・デザイン」として知られている。ザルツブルク市南部に所在するポルシェの正規ディーラー「ポルシェ・アルペンシュトラーセ」は、サルト・サーキットでの耐久レースに向けて2台の917をサポートし、その中には優勝車の23号車も含まれていた。
このザルツブルク・カラーのレッドとホワイトを受け継ぐ形で、ファクトリー・リコミッションによる唯一無二のプロジェクトが実現。ビクトル・ゴメスはのカレラGTは、ゾンダーヴンシュによって完全に分解され、5.7リッターV型10気筒自然吸気エンジンを含めた全てのコンポーネントは完全にオーバーホールされ、カーボンパーツも再コーティングが施された。その後、もともとシルバーだったボディは、オーナーの希望によりザルツブルク・デザインを纏うことになった。
入念にデザインされたレーシングリバリー

ゴメスのカレラ GTは、ポルシェのスペシャリストにとっても非常に難度の高いプロジェクトとなった。カレラ GTのジオメトリーや寸法、パネルの隙間は917とはまったく異なるため、デザインをボディ形状に合わせて丹念に作り直す必要があったからだ。
まずデザインスケッチが描かれ、次にレンダリングモデルを作成。カレラ GTのラインの流れと躍動感を確認するため、デザイナーのグラント・ラーソンとチームは、実車にカラーテープを貼って検証を行い、最終的にペイント用のテンプレートを制作している。
インディアンレッドとホワイトによるハンドペイント仕上げ、象徴的なレーシングナンバー「23」は、透明なプロテクションフィルムで保護。これはゴメスがこのカレラ GTを故郷プエルトリコの公道で走らせたいと考えていることから施された。
この個性的なレーシングリバリーに、レッドとホワイトのボディカラーにコントラストを加えるマットブラックのカーボンファイバーが組み合わせられた。マットカーボンは、ルーフの左右、AピラーとBピラー、ドアミラーカバー、フロントのエアダクト、そしてディフューザーなどに用いられている。
エンジンカバーのグリルはマットブラックのアルマイト仕上げ。オリジナルの5スポークデザインを持つブラックペイントの軽合金ホイールのセンター部には、ポルシェ・クレストが装着された。
エクステリアに合わせてコーディネート

インテリアにも、ゴメスの個性が色濃く反映。彼の要望により、ポルシェのインテリア部門は、ダッシュボードやドアパネルの一部、ステアリングホイールのリム、センターコンソールなどを、インディアンレッドのアルカンターラで仕上げた。フロントのラゲッジコンパートメントの内張りやラゲッジセットに至るまで、この手触りの良いスエード素材が鮮烈なインディアンレッドで統一されている。
エクステリア同様に印象的なコントラストを描くのが、シートシェル、ダッシュボードのエアベントカバー、メーターカバーのマットカーボン製コンポーネント。シートのセンターパネル、サイド部、ヘッドレストには、918 スパイダーで使用されている、ブラックの難燃性FIA承認モータースポーツ用ファブリックがチョイスされた。
今回、プエルトリコにおいて自動車販売会社を経営するゴメスは、プロジェクトに立ち会うため何度もドイツ・シュトゥットガルトのツッフェンハウゼンのポルシェ本社を訪れることになった。ゴメスは今回の製作過程を次のように振り返った。
「ゾンダーヴンシュのエキスパートたちは、私のカレラ GTのために情熱と細部へのこだわりをもって取り組んでくれました。その結果、走行距離ゼロの新車状態で、内外装ともに自分の理想を具現化したカレラ GTを手にすることができました」

