FERRARI 296 SPECIALE
渋滞も苦ではない

フィオラーノサーキットで「296 スペチアーレ」の試乗を終えて昼食をとると、次は一般道試乗が用意されていた。事前にインストールを求められたナビアプリ「Tourboss」が示すルートは、モデナ県南部のファナーノまで行って帰る周回コース総距離約130km、走行時間2時間30分となかなかのボリュームだ。東京から空いた246でヤビツ峠を目指して帰ってくるイメージだろうか。
フェラリスタが集うマラネッロ中心部を発進して南下する。まだ発表まもない296 スペチアーレは当然注目の的で写真を撮られまくる。日常速度域での296 スペチアーレは、296 GTBと同様にEVアシストが作る滑らかさが光る。2000rpm前後での定常走行は神経質さがなく、都度の介入を意識させない。
ナビ表示はイタリア語のままだったが、車載されたスマホのアプリのルートがメーターパネルに表示されるので非常に便利で、ルート案内に従って淡々と走れる。ただしカープレイ使用中は、eマネッティーノでのチャージオン/オフ切り替えに辿り着くまで煩雑な場面があったり、車両本体の機能を使う際に手間取ることが多くてややストレスとなった。
一方でステアリングが物理スイッチ化された恩恵は大きく、走行中の操作ミスがほぼ消えたので操作そのもののストレスは少ない。確実な操作が公道では大きな安心材料である。
ノーマルの296 GTBと同レベルの自然さで

サーキット試乗車は標準のパッシブサスだったが、一般道試乗車はオプション装備となる電子制御可変ダンパーのマグネライドが装備されていた。よって市街地速度域における乗り心地は良好で、当然先ほどまでサーキットを全開で走らせていた個体とは異なるが、ある程度のハーシュネスはあるもののレーシングカー的硬さを警戒する必要はない。減衰制御が細かく働き、ノーマルの296 GTBと同レベルの自然さで、低速から中速までの入力に対する追従が実に滑らかだ。サーキットで感じた懐の深さとは別の、公道での快適性に舌を巻く。
程なくして郊外のワインディングへと入る。ここで296 GTB由来の軽快感と低重心という美点が明確になる。ステアリングの初期応答は極めて正確で、「ノーズが意思より半歩先に動く」感覚がある一方、スポーツモードを選んでいる限りは絶妙な電子制御によってトラクションの立ち上がりが穏やかで超高出力の後輪駆動という緊張感は薄い。緻密なモーター制御がDCTによる変速ショックを消し去ることも嬉しい。
試乗前のコース説明で、スピードカメラ(オービス)の場所は事前に共有されていたものの、地元車は結構飛ばす場面もあり、外国人ドライバー(私だ)には困惑を強いる。狭いワインディングでありながら、ブラインドコーナーから突然バスが現れることもあって気が気ではなかったが、信頼のおけるブレーキと明快な車幅感覚でことなきを得た。ブレーキペダルのタッチも秀逸で安心感がある。ABS EVOの再キャリブレーションは公道でも効き目がはっきりしており、フィオラーノでも感心した6Dセンサー由来のグリップ推定が、微妙な路面変化をうまく吸収してくれた。結果として、公道の“余裕”はブレーキが支えていると言ってよい。
フロントリフターが備える高い利便性

中間地点にある撮影ポイントで撮影をこなしてマラネッロを目指す。復路は小雨となった。装着タイヤは専用設計のミシュラン・パイロットスポーツカップ2で、ウエットは得意とは言い難いが予想したほど恐怖感はなかった。
ところで利便性も意外と高いと感じた。これはひとえにフロントリフターが備わっていたことが大きいのだが、ゾーン30の入り口にあるハンプや撮影時のUターンなどで絶大な安心感をもたらした。日常使える「スペチアーレ」を名乗る資格がある。いっぽうでバケットシートは長時間乗車は厳しめであった。さらにドアトリムが簡素化されており、左ハンドルの場合の左手の置き場に迷う場面もあったが、この辺はサーキットでの喜びに比べれば些細なことだ。
296スペチアーレは、同じくスペチアーレの「SF90XX」のような4桁馬力級AWDとは違って高出力後輪駆動の緊張感はあるものの、一般道ではハイブリッドがもたらす滑らかさや、マグネライドによる快適な乗り心地と巧みな電子制御もあって普段使いも十分可能なスーパースポーツだ。正確に見れば快適性はGTB比で一段スポーツ寄りだが、物理スイッチの組み合わせによって「扱いやすい鋭さ」に仕上がっていた。現実の公道を走行しても、やはり「また乗りたい」と素直に思わせる完成度であった。
PHOTO/Ferrari S.p.A.
SPECIFICATIONS
フェラーリ 296 スペチアーレ
ボディサイズ:全長4625 全幅1968 全高1181mm
ホイールベース:2600mm
車両乾燥重量:1410kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
エンジン総排気量:2992cc
エンジン最高出力:700PS(515kW)/8000rpm
エンジン最大トルク:755Nm/6000rpm
モーター最高出力:154PS(113kW)
システム最高出力:880PS
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前245/35ZR20(9J) 後305/35ZR20(11J)

