連載

ベントレー100年車史

Mulsanne

コードネームは「プロジェクト・キンバリー」

ベントレー ミュルザンヌ
ベントレー ミュルザンヌ

「コンチネンタル・フライングスパー」が誕生した後も、ベントレーのフラッグシップサルーンの座は、引き続き混乱期を生き延びた「アルナージ」が務めていた。しかしコンチネンタル・シリーズの成功で経営状況が上向いた2005年、ベントレーCEOのフランツ・ヨーゼフ・ペフゲンは、後継となるフラッグシップの開発を指示。「プロジェクト・キンバリー」(その名は南アフリカで発見されたダイヤモンドに由来する)のコードネームで開発がスタートする。

その際ペフゲンはコンチネンタル・シリーズをベースとはせず、6.75リッターV8 OHVツインターボ+FRという伝統を踏襲しつつも、新開発の車体を要求。それに応えクリスピン・マーシュフィールド率いるデザイン陣は、過去のモデルのエッセンスを散りばめながら、現代流にアレンジしたクーペライクな4ドア・ボディをデザインした。最終的な監修は「コンチネンタルGT」を手がけたディルク・ファン・ブレイケルが行い、W.O.時代最上のベントレーと謳われた8リッターへのオマージュとなる大径の2灯ヘッドライトと垂直なラジエターグリルを組み合わせた特徴的なスタイリングが完成。ベントレーの新たなデザインアイデンティティを確立することとなった。

全面的に刷新された6.75リッターV8 OHV

6.75リッターV8 OHV
6.75リッターV8 OHV

一方Dr. ウルリッヒ・アイヒホーン率いる開発陣は、アルナージに対してロー&ラージプロファイルとした新設計のスチールモノコックシャシーを設計。全長5575mm、全幅1926mm、全高1521mm、ホイールベース3266mmとアルナージよりひとまわり大きくなったが、ペフゲンからの「アルナージより重くしないように」という要望に応え、アルミパネルを500℃に加熱し、空気圧をかけて整形するスーパーフォーミング工法(そのために専用工場をクルー内に建設した)をボディパネルに採用することなど、各部に努力が払われた結果、車重はほぼ同等の2650kgに収められた。またサスペンションもフロントダブルウイッシュボーン、リヤマルチリンクに一新され、ドライバーが選択可能な3段階のセッティングを備えた減衰力調整機構付エアサスペンションが組み合わされていた。

エンジンは1959年登場の「ベントレーS2」にルーツをもつ古典的な6.75リッターV8 OHVだが、排ガス基準を満たすために全面的に刷新。6kg軽いクランクシャフト、130g軽いピストン、100g軽いコンロッドを採用。またピストンとピストンピンにダイヤモンドライクカーボンコーティング、ピストンスカートにグラファイトコーティングを施すことでフリクションの低減、耐久性の向上を実現。さらに気筒休止システム、可変バルブタイミングシステム、そしてZF製8HP 8速ATを新たに搭載することで、最高出力512PS、最大トルク1020Nmを発生しながらも、アルナージに対して15%の燃費向上を達成している。

数多くの限定モデルを輩出

ミュルザンヌ・スピード
ミュルザンヌ・スピード

こうして誕生した新型フラッグシップは、ル・マン・サルト・サーキットのコーナー名である「ミュルザンヌ」(ベントレーでこの名が使われるのは2回目)と名付けられ、2009年のペブルビーチ・コンクール・デレガンスでワールドプレミアされた。特筆すべきは8リッター以降久々に、すべてがイギリスで設計、開発、製造される“ピュア”ベントレーとなったことで、その期待に応えるべく1台あたり400時間をかけ(その70%が内装に充てられる)、すべてがハンドメイドで製造される。

そして2014年には最高出力を537PS、最大トルクを1100Nmにアップしただけでなく、燃焼システムの改良で燃費が13%向上した6.75リッターV8OHVツインターボ、専用セッティングが施されたスポーツモード付きサスペンション、ツインテールパイプ、マトリックスグリルなどを装備したハイパフォーマンス版の「ミュルザンヌ・スピード」を追加。

ミュルザンヌ EWB
ミュルザンヌ EWB

さらに2017年モデルで行われた初のマイナーチェンジでは、前後のライト周りやグリルなどを一新。Apple Car Playなどに対応する新たなインフォテイメントシステムの装備などインテリアのアップデートが行われたほか、ホイールベースを250mm延長した「EWB」も新たに用意されることとなった。

結局、噂されていた2ドアクーぺやコンバーチブル(2019年に「グランド・コンバーチブル」として19台のみが製造、販売された)がレギュラーモデルとして販売されることはなかったが、数多くの限定モデルを輩出しつつ、厳しい環境基準に対応すべくV8エンジンに細かな改良を加えながら2020年までに合計で8188台が製造されている。

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